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グレられなかったよ②

コウキがウチに来た。

憧れていた不惑のアウトローの来訪に舐められてはおしまいだと思っていた僕は
「お前らお腹減ってない?体育終わりだったもんな。ピザ、頼もう。いつもそうしてるんだ、好きなの選んでよ。」
「親父が北海道で買ってきてくれたロイズのチーズケーキがあるんだよ。食おうぜ。」
「好きなお笑い?ラーメンズ一択だな。【銀河鉄道の夜のような夜】は文学的なお笑いの極みで〜!」

俺は人とは違う!
片親でも何一つ不自由ない!
さらには個性的な感性をしている!

必死だった。

コウキは大そんな僕のToo muchな接待にもほとんど反応をみせず、時折冷笑を浮かべていた。

未遂に終わったとはいえ、
職員室に火を放とうとした男。

対等に渡り合わねば次はないとの思いでいっぱいだったが、彼はひたすらクールに佇んでいた。

音楽、ドラマ、お笑い、グルメ、アニメ。エロ。
どれもこれもコウキには刺さらず
30分は経っただろうか。

相変わらずコントロール無視のカーブを
虚空に投げ続けていると

コウキは急に立ち上がり、
右手を眉間に動かし
キッと僕を睨みつけて言った。


「怒るでぇ!しかし!」
「怒るでぇ〜しかし!!」


唐突な行動に面食らった僕は、一瞬何が起こったか理解が出来ず
全く似ていない横山やすしの登場に脳が追いついた頃には、腹を抱えて笑っていた。

お笑いは「緊張と緩和」だからな。


そう話すコウキともう一人の友達はどうやらグルでドッキリに僕を嵌めていたのだ。

クールで掴みどころがなく愛想のないキャラクターを演じていただけの
ひょうきんに服を着せたような男だとその正体に気づいてからは、
とても魅力的な男と知り合う事が出来たと心からその日を楽しんだ事を昨日のことのように覚えている。

あれから10数年経った今でも、たまにコウキとは連絡を取っている。この間結婚したと聞いた。職員室は燃やしておくべきだったと常々口にしている。

振り返るとワル。(例えば年少や鑑別に入られたりするような人物との関わり)の友達は持ちたくても持つ事が出来ず、人を笑わせる、楽しませる事が好きな人とばかり過ごして人格が形成された。グレられなかったし、グレに力を注がなかった。

特別オチの無い話になってしまったが、
僕は親の影響を受けずに育った子はいないと考えている。

あなたにも必ずある
忘れる事の出来ない「人格形成に一役買ったエピソード」を年末に思い出されて見てはいかがだろうか。





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