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日本のライチョウについて

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 筆者は、山岳部に所属しています。2年前に夏合宿で立山を登ったとき(上の写真)に、幾度となく、天然記念物のライチョウに出会うことができました。人を見ても怖がることも、逃げる様子もなく、悠々と自分の庭を歩き回るその姿にすっかり心が奪われました。

最近、ライチョウの人工ふ化が成功したというニュースを目にした方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そんな絶滅危惧種の天然記念物、ライチョウについて調べてみました。

1. 雷鳥のプロフィール

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(1) 分類


キジ目 キジ科 ライチョウ属 ライチョウ
学名 Lagopus muta japonica

(2) 名前の由来


 学名の Lagopus muta japonicaのうちのラゴブスは「ウサギの足」、ムタは「無声の」とか「変わる」という意味を持ちます。指先まで羽毛が生えた足、頻繁には泣かない、体色を変化させるといったライチョウの特徴を表しています。
 和名の「雷鳥(ライチョウ)」は、「雷がおこるような天候の悪い時にしか出てこない」からとか、「雷鳥は雷を取って食するのでカミナリはこの鳥の影を恐れる」(『扶養雷除考』1739年)、「雷という虫を好んで取って食べたから」(『震雷記』1767年)が名前の由来と言われています。

(3) 分布


 北極圏を取り囲むように北半球の北アメリカ大陸やユーラシア大陸などの、中緯度から高緯度にかけて生息する種ライチョウの中で、日本のライチョウは最南端に生息しています。

  氷河時代の最終氷期に大陸から移動してきて、その後、気候の温暖化に伴って日本列島は大陸から分離したため、日本のライチョウは隔離分布することになったと言われています。
 本州中部の標高2,200~2,400m以上の高山帯(ハイマツ林帯や岩石帯)で繁殖し、冬期には亜高山帯にも降りて生活します。頚城(くびき)山塊、北アルプス、乗鞍岳、御嶽山、南アルプスなどの高山帯にしか生息しない日本のライチョウは「氷河期の遺存種」と言われています。

(4) 個体数


 1980年代には、約3,000羽が生息していたと推定されますが、2000年代には2,000羽弱に減少したと言われています。
 高山帯が狭く孤立した山岳域であるため絶滅した、中央アルプス木曽駒ケ岳では、2018年7月に50年ぶりにライチョウが発見されました。他の山岳域から飛来したと考えられています。

(5) 形態的特徴と換羽


 成熟個体で、全長37㎝程度で、ずんぐりした体型です。爪やくちばしは短いですが、鋭くとがっていて、雪をかくのに適しています。
 季節に応じて3回の換羽を行って、体色を変化させるのが特徴です。捕食者から身を守るための「隠蔽色」です。
1回目の換羽
オスは2月頃~5月下旬にかけて黒褐色に換羽、メスは4月下旬から1か月程度で黄褐色に換羽します。

2回目の換羽                                                                                                      オスもメスも、白・黒・茶の斑模様に換羽します。
(オス)7月中旬、ヒナが巣立ち、ナワバリが解消されるとオスは冬羽に換羽を始めます。
(メス)8月下旬から9月にかけて換羽を始めます。繁殖活動と換羽には大きなエネルギーを必要とするため、ヒナを育てながら換羽できないため、メスは少し遅れて換羽するそうです。

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※筆者が立山で出会った夏羽のライチョウ。まわりの草木と同じ羽色で見分けがつきにくいです

3回目の換羽                            10月中旬ごろ、初冠雪の季節に合わせて、羽毛が抜けはじめ、白い羽毛が目立ってくる。11月中旬には、ほとんどの個体が白い羽毛に換羽します。

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       ※立山室堂ライチョウ見守りネットより転載

(6) 餌


 ライチョウの餌は主に植物で、花、芽、果実、種子、葉、茎などあらゆる部位を食べます。
 植物以外にも、春から初夏にかけて雪に落ちたハエやガの仲間、初夏から秋口にかけてアリや、クモ、クモマヒナバッタなど動物性の餌も食べます。
 厳冬期には、生息地は多量の雪で覆われ、露出する食物は限られます。立山の室堂平付近では、風の強い場所で露出する葉を食べたり、称名峡谷の急斜面に露出する植物の冬芽を主食とするそうです。

2. 生息数減少の原因


 キツネやテン、カラスなどの捕食者の高山帯への侵入と増加、従来生息していなかったニホンジカ、サルなどが高山帯へ侵入し高山植生を破壊することによる生息環境の悪化、登山客等の増加に伴うかく乱、地球温暖化による高山環境の縮小などが考えられています。
 環境省による第4次レッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)において、絶滅危惧ⅠB類(EN)(近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの)に指定されています。

3. 保護の取り組み


 法律等に基づいて、生息実態調査や登山者への啓発活動、長野県や富山県の県民のボランティアによる保護活動、飼育・繁殖に関する研究活動など、様々な保護の取り組みが行われています。

・種の保存法に基づく国内希少野生動植物種への指定(平成5年)
・保護増殖事業計画を策定(平成24年)
・国指定の特別天然記念物への指定(大正12年)
・生息地の多くが国立公園や鳥獣保護区に指定            
・長野県希少野生動植物保護条例に基づく指定希少野生動植物に指定(平成16年)
・平成27年より公益社団法人日本動物園水族館協会協力により、生息域外保全を開始、国内の動物園6施設において飼育・繁殖の知見を集積
  ・上野動物園(東京都)
  ・富山市ファミリーパーク(富山県)
  ・大町山岳博物館(長野県)
  ・いしかわ動物園(石川県)
  ・那須どうぶつ王国(栃木県)
  ・横浜繁殖センター(神奈川県)

4. さいごに

 筆者が出会ったライチョウのように、「人を恐れない」のは、日本のライチョウの特徴だそうです。ヨーロッパのライチョウ研究者が日本のライチョウに出会ったとき、逃げないライチョウにとても驚いたそうです。日本のライチョウが人を恐れないのは、太古の頃からの山岳信仰によって、山の自然が大切に守られ、ライチョウが狩猟の対象とならなかったためと言われているそうです。
 そのように大切に守られてきたライチョウとその生息地である日本の山の自然を、これからも大切に守っていかなければいけないと改めて思いました。

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立山の日没。とてもきれいです。


5. 参考文献


環境省 自然環境・生物多様性, 希少な野生動植物種の保全, 保護増殖事業, ライチョウ
https://www.env.go.jp/nature/kisho/hogozoushoku/raicho.html
立山室堂ライチョウ見守りネット
http://raicho-mimamori.net/jp/
白山のライチョウの歴史
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/hakusan/publish/sizen/sizen39.html
長野県におけるライチョウ保護活動
https://www.pref.nagano.lg.jp/shizenhogo/kurashi/shizen/hogo/kisyoyasei/raityou.html
富山県におけるライチョウ保護活動(とやまのライチョウサポート隊)
http://www.pref.toyama.jp/cms_sec/1709/kj00018948.html
上野動物園の希少動物の保護活動
https://www.tokyo-zoo.net/conservation/endangered.html#endangered_05
毎日新聞 2020年8月6日09時26分配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/bdffdf1d60905440f3b6bc91e01ac797b4fe9f31


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