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【発狂頭巾】さらば愛しき狂友よ!秋夜の決闘、阿座東州【発狂頭巾九頭竜伝20話】

発狂頭巾基礎知識

発狂頭巾とはTwitterの集団妄想から発生した「昔放送してたけど、今は放送できない、主人公が発狂した侍の痛快時代劇」という内容です。クレイジーなダーク・ヒーローです。狂化:EX。

そのうち、「発狂頭巾九頭竜伝」は1990年代に放送されたシリーズで、伝奇要素の強い作品です。この作品では悪人や狂人だけではなく、邪神教団やグレートオールドワンや外なる神とも剣を交えるシリーズでも怪作と言われるものです。

あらすじ

世界を破壊する破壊僧・暗黒寺教仁を追い、東奔西走する発狂頭巾こと吉貝とハチは、淫州枡(いんすます)村・南海竜宮(るるいえ)・仙夢境(どりいむらんど)・超堀阿島(はいぱーぼりあとう)などを訪れ、刀と狂気だけで狂人や古の怪物と対峙してきた。その結果、全ての黒幕が江戸幕府を支配する暗黒将軍・徳川ニャルラトホテ宗である事をついにつかんだ。無貌の城と化した暗黒江戸城討ち入りを前に、発狂長屋でつかの間の休息をとるのであった。

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暗黒将軍・徳川ニャルラトホテ宗

発狂長屋を訪れる友

時刻は戌刻(19~21時)になるだろうか。秋風の染みる季節の江戸はすっかり暗くなっていた。あやかしの気配が色濃くなった江戸では夜間に外出する者もいないため、静寂を保っている。そして、この発狂長屋で向かい合わせで酒を飲んでいる吉貝とハチも静かに杯を傾けていた。

長い戦いで負った精神的疲労が溜まっているのだろうか、ハチの顔には酒を飲んでも全く明るくならず、深い皺が刻まれている。一方の吉貝はそのような気配を全く見せず、まるで久々の江戸の夜、江戸の空気を楽しむかのように、静かに酒を楽しんでいる。

ぴーひょろー ぴーひゃらー

どこかから、調子はずれの笛の音が聴こえる。それは何かをあやすかのような、不思議で、この世のものとも思えぬ不気味な音であった。

「何でしょうね。あの胡乱な笛は……」

ハチは笛の音を不思議がるが、吉貝の顔はニヤリと不気味な笑みが浮かぶ。

「遠くから旧い友が遊びに来てくれたようだ。心配しなくてもよい。あの笛の音は、あ奴が来るときには必ず聴こえるものよ。ハチよ。すまぬが、もう一つぐい飲みを持ってきてはくれぬか?」

「旧い友……ですか……まあいいですが」

盆に杯と追加の酒を持ってくると、びちゃり、びちゃり、と何か巨大なタコの足のようなものが戸を叩く音が聴こえた。

「ひっ、何ですかあれ」

『66e gat@e e.t』

その声は聴きとれない。ただ脳裏に響く、理解してはいけないと思わせる声であった。

「ひ、ひぃ!?」

ハチは腰を抜かしてしまい、吉貝はやれやれといった雰囲気で戸まで歩いていく。

「これ、ハチ。お客が来ているのにコケる奴があるか。今開けるから待っていてくれ」

吉貝が戸をがらりと開けると、そこにはこの世のものとは思えぬモノがいた。

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戸口に立っていたそれはただただ醜悪な、沸き立つ触手を持つ生物だった。人と同じサイズまで縮小しているものの、最下の混沌の最後の無定形の暗影といっても足りないほどの、冒涜的な存在であった。

「あびゃあああああああああーーーーー!!!!」

ハチは一時的発狂に陥ってしまったが、吉貝も胡乱な客人も気にせず、部屋に入っていく。ぬちゃりぬちゃりという畳が濡れる音、そしてぶくぶくと泡立つ音が客人から聞こえる。

「そ、そのお方は……?!」

身構えるハチに吉貝は優しく声をかける。

「うむ、わしが昔、旅の途中で出会って意気投合した気のいい方でな。名を『阿座東州』(あざ とうしゅう)というそうだ。身体が不自由故、アイサツは出来ぬが、ハチも仲良くしてやってくれ」

『9\dh』

東州はハチの方をギョロリと見ると、触手をにゅるりと動かす。ハチの方も慣れたもので、そろそろ一時的な発狂から帰ってきたようだ。

「い、いえ。旦那の御友人に、随分失礼を…」

ハチはこう見えてPOWが18ある強い精神力の持ち主である。吉貝との奇怪道中で正気をすり減らしているとはいっても、並大抵のことではそうそう発狂まではせぬ男である。

「ささ、久しぶりだが、気にせず。まずは一献」

吉貝は東州の盃に並々と酒を注ぐ。東州はじっと、不定形の瞳で酒を見つめ、触手の先を酒に少し浸す。瞬時に酒は七色に輝き、少しずつ触手の中に吸い込まれていくように消えていった。

「おお、いい飲みっぷりではないか」

吉貝は喜んで東州の盃に酒を追加で注ぐ。吉貝も黙って、自分の盃に手酌で注ぎながら、何やら噛み合わぬような話を続ける。じっとりと額に脂汗をにじませたハチは、部屋の隅で、ただ正座をし続けているだけであった。

発狂者の宴

発狂長屋の一室は、重く苦しい空気とこの世のものとは思えぬ異臭が漂っている。時刻は過ぎているのか、停滞しているのか、それとも巻き戻っているのかすらわからぬ。

ぴーひょろー どんこどんだん ぴーひょろー どんばだんどん

野外からは狂った太鼓と理解できない音階の笛の音だけがどこかからか流れてくる。ハチは耐え続けたが、吉貝と東州は酒を酌み交わし、談笑している。まるでこの空間そのものを楽しむかのような態度であった。

『sgi gat@e9』

ふいに、東州が何かを口にする。

「なんだ?」

吉貝は微笑みながら言葉を返す。

『7zs qqt4kt』

「ああ、戦うであろう。このお江戸を護るためには奴は斬らねばならぬ」

急に真面目な顔をしつつ、目を向け、明後日の方向に黒目を動かした吉貝は厳しく言い放つ。

じりり…と燈明の芯が焼ける音がする。

『gxji tw.tu』

「勝てる、勝てないではない。狂うた者は、斬らねばならぬ。それがわしの定めよ。それとも、お前はわしでは役不足とでもいう気かな?」

吉貝は少し洒脱な声に戻して、そのように問うた。相変わらず東州はぶくぶくという泡立つ音とぬちゃりぬちゃりという触手のすれる音を立てる。

『c4q@se5f@』

「ならばお主も斬る…とでもいえばよかったか?いやいや、世話焼きのお主のこと、わしの腕が奴に敵うかどうか、確かめに来てくれたのだろう?稽古までつけてくれるとは、有難い事だ」

そういうと、吉貝は着物の裾から頭巾を取り出し、愛刀・三代目星智慧を手繰り寄せる。

『9e 7zi tu4t nw7\4』

ずずり、ずずりと東州は土間の方に出ていく。

「おお、そうか。では楽しませてもらうぞ。ハチ、今から表で東州が稽古をつけてくれるそうじゃ」

「ええ、今からですかい?っていうか、稽古?」

「稽古じゃ。参るぞ」

吉貝と東州の思いつきに辟易しながらも、ハチは下駄をはき、表についていった。

星辰の下で

時刻は丑の刻になろうか。空は満点の星空であった。星明りを頼りに、二人は対峙した。頭巾を付けた吉貝こと発狂頭巾と、たぎるかのように触手を伸ばす阿座東州、そして近くから不安そうに見ているハチの三人だけであった。不快な笛と太鼓の音はますますその勢いをつけてかきならされていた。

「今宵の星は……不吉な並びをしている」

『w@f je.c@』

「応!狂うておるのは、貴様か、わしか、ここで決めてくれようぞ!」

にゅるり、びゅるりと不快な音を立てて、恐ろしい勢いで東州の不定形触手が発狂頭巾に向かって無数に襲い掛かった。東州の無限触手は一撃一撃が軽く音速を超え、触手が引き起こしたソニックブームで発狂長屋一帯が軋み、分解し始めた。一撃の重さも以前に南海で戦った『南海の海神』に引けを取らぬ凄まじい威力であった。

ニヤリと笑みを浮かべた発狂頭巾は、それを見ると同時に抜刀し、東州に向かって、地を蹴り、凄まじい勢いで駆けだす。

「あ、あぶねえ!吉貝の旦那、避けてくだせえ!」

触手の衝突が生み出した余波でしかない衝撃に弾き飛ばされた、思わずハチが声を上げた。

「何?避けるだと?白痴の王の触手ぞ、二度と拝めぬかもしれぬ。そんな勿体ない事が出来るか!全て…受けきるに決まっておろう。参る…ギョワーッ!!」

刀は怪しく鈍く翠色に輝き、発狂頭巾の顔に光る五芒星が浮かび、中心に位置する瞳が七色に発光し燃え上がった。これぞ仙夢境(どりいむらんど)にて編み出した数々の怪物を倒してきた禁忌の技……狂気によって尋常ではない膂力と魔力を引き出し、刃に纏わせ『旧神化発狂頭巾(えるだーごっど・きちがい)』と化す発狂剣術の極意である。同時に触手を切り払い始める。そして真の発狂波動に目覚めた者にしか振るえぬ壮絶な連撃が触手を弾ききった。

「ギョワーッ!!ギョワーッ!!ギョワーッ!!ギョワーッ!!ギョワーーーッ!!」

あらゆる方向から襲い掛かる触手を全て弾き返し、刹那の隙を見抜き、発狂頭巾の刀が彗星の如く突きを繰り出す。

『utut7.』

「甘いわ、ギョギョギョワーーーッ!!」

ズドン!

発狂頭巾の刀が東州の泡立つ体の中心にある瞳に突き刺さる。ぷしゅり、と暗澹たる黒い液体が噴き出し、瞬時に刀を返して両断した。

「や、やりやしたか?」

「いや……少々当たりが浅かったようだ」

どろどろと路地に黒い液体が溢れていく。びちゃびちゃと、不快な音が聴こえる。

ぴーひょろろろぴーひょろろー ドドスカドドドンドンドドドドン

不愉快なお囃子の音は、さらに勢いを増し、暗闇に響き渡る。ふと仰ぎ見れば、天の星辰はまるで何かの予兆のように異様な並びをしていた。

『w@f c\c\ -ygw@ eb4t』

「いかん、ハチ。逃げい!」

「へっ?」

発狂頭巾が後ろへ門創造退き込みをして間合いを取ると同時に、東州の身体が、爆ぜた。触手、黒い液体、恒星の如き熱線、そして漆黒の粒子の洪水によって、発狂長屋一帯ごと、ハチは飲みこまれ、意識はそこで途切れた。

白痴の皇

門の創造退き込みは、発狂した精神を持つ者が瞬時にワームホールを作り出し、バックステップで駆け込むことにより超空間を移動できる発狂体術の一つである。吉貝はこのこの技で、数々の苦難を乗り越えてきた。南海に眠る巨大祭祀王の恐るべき一撃も、破壊僧・暗黒寺教仁の鋭い薙刀をも回避する技ではあったが、退き込んだ先もまた、混沌であった。

足元には東州の体液と思われる黒い粘液が踝まで浸かっており、空を仰ぎ見れば、そこには宇宙そのものが広がっていたのである。ハチの姿も、気配も、発狂長屋すらどこにもなかった。そこは宇宙の深淵であった。

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ぴーひょろぴーひょろろぴぴーひょひょろー ドンドンドドンドンドドドドンドン

周囲からはあの不愉快なお囃子の音が、狂ったかのように鳴り響き続ける。いや、最初から狂っていた。発狂頭巾は、目に再び七色の焔を灯して叫んだ。

「東州よ、随分と派手にいくではないか」

どこからともなく、東州の声が聞こえる。

『60lq@ gat@e9 bbf 4a84k dy5y』

「なんだと?」

発狂頭巾は虚空に吠えた。

『bbif g94gdtue 6j5m qq@k :yd@94d@yi rg@1』

東州の不明な言葉が終わると同時に、四方八方から、再び東州の冒涜的触手が襲い掛かる。今度は数百、数千、数万、数えきれないほどの触手だ。

「抜かせ!ギョギョワーッ!!ギョギョワーッ!!」

発狂頭巾は刀を振り、周囲の触手をめったやたらに斬り捨て続けた。しかし一行に触手の数は減らない。むしろ増える一方だった。人智を超え、狂神の域に踏み入りかけた発狂頭巾ですら防戦一方だった。

吉貝某、発狂頭巾の強さは狂気にある。周囲が常人であれば当然、狂人であってもその狂気の深さ(狂人強度)の差によって、その強さを得ている。だが、この地にはこの宇宙を包む『絶対の狂気』しか満ちてはいない。例え発狂頭巾がこの宇宙の『絶対の狂気』に目覚めても落差は発生しない。千日手である。そして、そうなれば耐久勝負になり、外なる神の祖にして万物の王、この宇宙の真の支配者である狂える皇(すめらぎ)阿座東州に分があるのだ。

戦いは永遠に続くかと思われたが、数億の打ち合いの後、一瞬、発狂頭巾はバランスを崩す。

『xof@q@ gat@e 4a84 k fww@ ,];』

触手だけでなく、先ほど発狂長屋をも飲みこんだ熱線と黒い粒子の嵐が、発狂頭巾を襲う。いかに三代目星智慧と発狂剣術と言えども、これを防ぎきるのは不可能……と思われたその瞬間であった。

『ギョワーーーーーーーッ!!』

おお見よ、発狂頭巾の輝く御姿を。吠えた発狂頭巾を中心に、円形の電磁場が発生し、触手を焼き切り、薙ぎ払う!

『ui』

東州ですら、このような技は知らぬ。いや、発狂頭巾はこのような技を身に着けてはおらぬはず……だが、発狂頭巾の輝きはますます増えるばかりだった。

賢明なる読者の諸君はもうお気づきであろう。

それは異次元、平行世界『発狂頭巾エレキテル』において発狂頭巾が平賀源内に埋め込まれた脳内エレキテルの拡張機能、狂電磁バリアである!今、発狂頭巾はこの世界の狂いを完全に認知し、異なる世界の発狂を取り込んだのだ。

『c;f uyq@』

思わず姿を見せぬ東州の口から、疑問が出てしまう。

ここに、狂気の落差が生まれた。この世界で狂気の落差を作れぬのなら、平行世界から狂気を持ち込めばよいだけのこと。ついに、古き者を超え、旧き神を超え、外なる神をも超えた、完全にして底なしの狂気を持つ発狂頭巾が誕生した。

『ck94u mkw@』

東州は、発狂頭巾の周囲360度に触手を無数に発生させ、恒星の熱線と黒い粒子の洪水を発射した。

『ギョワーーーーーーーー!!!!!!』

だが、発狂頭巾はその粒子も熱線も、手をかざしただけで、全て偏光させ、触手そのものを自滅させていく。

一体この力は何なのか。賢明なる読者の諸君はもうお気づきであろう。

そう、『発狂頭巾アトミック』終盤において、異世界の臨界発狂頭巾が身に着けた「強い相互作用による原子制御」である!電磁気も弱い相互作用も重力さえも超える力をこの世界の発狂頭巾も身に着けたのだ。

『ギョワーーーーーーーー!!!!!!』

叫ぶと同時に、発狂頭巾は刀を、光の束に変える。映画村アトラクション版スター発狂頭巾ウォーズで振るった恐るべき威力の刃『理力刀』をその手に再現させる。そして無数の構えを、同時に、発狂頭巾は取る。シュレーディンガーの猫理論による量子もつれによって、大衆小説版やテレビシリーズなどありとあらゆる発狂頭巾の剣術を同時に繰り出し、虚空に向かって多重の声で、叫び、加速を始めた。

(ここでカメラがアップに)

発狂頭巾の顔に旧神の印が浮かび、瞳が七色に燃え上がる。

『『『『『『狂うておるのは、貴様の方ではないか!!!』』』』』』

(例の音と同時に、狂気で背景の宇宙にビッグバンを起こす)

『66 sm9 6j5f cbjw@ h.4w 6zqt』

『ギョワーーーーーーーー!!!!!!』

理力剣を滾らせ、エレキテルの力とアトミックの力を合わせ、歴代発狂頭巾全ての技を、同時に東州に叩き込み、発狂頭巾は残心を取る。気の遠くなるほどの静寂が訪れた後、発狂頭巾の背後の空間は爆散する。

『6j5k g94g nbsq@zq』

星々の陰から、東州の、どこか嬉しそうな声が響く。

『ああ、友よ。稽古の礼を言わせてもらうぞ』

瞳を、星の海よりも狂った焔で染めながら、発狂頭巾が振り返る。

『xof@q@』

『ああ、もう二度と会う事もあるまい……さらばだ。わが友、東州よ』

そう、優しくも寂しそうな声で発狂頭巾が呟くと、あたりの空間は急速に元の発狂長屋跡地へと戻っていった。

いざ、決戦へ……

発狂頭巾の力も元に戻り、ハチは道路で気絶して伸びている。発狂長屋、いや、江戸の町どころか関八州は阿座東州顕現の余波で焼け野原となっているものの、魔が宿る暗黒江戸城だけは、その異様な姿を残していた。

「おお、ハチよ。無事だったか。これ、起きよ」

「う、ううん…旦那?」

「おお。良かった」

いつの間にか、発狂頭巾の瞳に宿る焔も消え去っていた。

「あの、旦那。東州殿は?」

「あやつは元の住処に帰られた。もともと、あまり出歩ける方ではない。もう二度とは会えぬ……」

「そう……ですかい」

「ああ。そうだ」

僅かに寂しそうな顔をするが、すぐに発狂頭巾は元の狂顔に戻す。

「ハチよ、感傷に浸っている場合ではない。これより、暗黒江戸城への討ち入りぞ。破壊僧・暗黒寺教仁、そして暗黒将軍・徳川ニャルラトホテ宗とのケリをつけねばならぬ!」

二人が決意を新たにすると同時に、焼け野原の遠くから、再び朝日が照らし始めた。長い夜が明け、発狂頭巾とハチの最も長い日が始まろうとしていた……

【発狂頭巾九頭竜伝21話・発狂頭巾最後の発狂!決戦、暗黒江戸城邪神大激突!(前)へ続く】