デスゲーム高校

この記事は、診断メーカー「胡乱樹」より生成され、ホソカ氏が校歌を作詞されたデスゲーム高校の日常について書いたものです。

デスゲーム高校学校概要

本校は日本で唯一のデスゲームプレイヤーおよび運営の育成のために創設された全寮制の学校です。ご存知の通り、世界ではますますデスゲームが大きく発展している中、日本ではデスゲーム産業の未熟さが指摘されています。政財界からの強い要望と各デスゲーム団体からの援助により本校は絶海の孤島、もしくは陸の孤島に作られました。本校では精神的な面からデスゲームを考えてほしいという思いから、建学精神として「人間の尊厳」を掲げています。

本校では生徒がデスゲームについて徹底的に学べる良好な環境を用意しております。1年生はまずデスゲーム参加者(プレイヤー)として実習を含めて学び、2年生からはスタッフ、さらに3年生では運営にも関われるようになります(無事生きて進級できれば)。

「私にもできるかな?」「死んでしまわないかな?」という不安は大いにあるでしょう。ですが、それはデスゲームに携わる人間であれば誰しもが持つ当然の感想です。ぜひ勇気を出して、一歩踏み込んでみましょう。若い貴方の生命を、デスゲームで一緒に輝かせましょう。

ある日の1年B組

キーンコーンカーンコーン…

小さな窓から群青の海が見える教室、午前10時30分。そろそろ二限目の数学が開始される。一時限目の日本史で行われたデスゲームでの死亡者の遺体が運び出され、教室内に静寂が広まる。朝には30人いたクラスメイトは残り25人になった。

平凡な男子生徒である飯島は1時間目を無事生き残れたことに、ブレスレットをつけた腕で軽くガッツポーズをしていた。この調子で上手くいけば、今日も生き残れるかもしれないと、飯島は楽観的な想像をする。デスゲーム高校の成績は授業態度も大きいが、何よりも「無事生き残った」ことによる加点が一番大きい。さて、次の授業はどんなデスゲームが待っているだろうか……

「あ、飯島くんも生き残ったんだ?良かったー。私一人になると不安だったの」

横から飯島に声をかけてきたのは北沢さんだ。黒髪、おさげ、ちょっと幼さの残る顔、そして人懐っこい性格の少女だ。だが、彼女がこういう姿をしているのには理由がある。何故なら一般的なデスゲームのメタ解析ではこういうタイプの女の子は比較的生き残りやすいというデータがデスゲーム学会で報告されているからだ。飯島は、北沢のデスゲーマーとしての完成度には内心焦りを感じている。

「ふっ、飯島。君が生き残るとは僕の計算外だよ」

こう嫌味を言ってきたのは塩谷、眼鏡をしたクールで知的な男だ。彼もまた、完成されたデスゲーマーだ。データと計算、そして心理戦を駆使するスタイルは世界のデスゲーマーでも主流と言われるものだ。現にこれまでに何回も『完全生還』を果たしている。

「オウ、飯島。オメーやるじゃねえか?まあ今日は俺の一人勝ちだからよ、ガハハ!」

粗野な声は千鳥院というモヒカンの男だ。通称『世紀末』と呼ばれている。あえてこの粗暴なスタイルを貫いており、無謀な突撃をするタイプのデスゲーマーだ。実際これまでに何度もデスゲームで死亡しているが、それだけに観客受けはいい。また突っ込むことが正解であるケースも少なくない。

飯島は少しばかり不安になってきた。果たして今日も生き残れるだろうか……そう思っていた矢先、教室の前にある黒板型ディスプレイにスイッチが入り、『ブレスレットを外さないように』の注意書きの後、不愉快なウサギのマスコット校長が二時限目の開始を告げる。

『やあ、諸君!二時限目のデスゲームの開始だよぉ!!!楽しもうね!!!』

デスゲーム実習開始

『二時限目は数学。今日は確率のお勉強だね。教室の前にあるのが何かわかるかな?』

飯島が前を見ると、いつの間にか福引に使われるガラガラ抽選機が用意されている。

『今日のデスゲームは確率のお勉強だ。この抽選機の中には25個、飴玉が入っている。順番にひいて、出てきた飴玉は必ず食べて貰わなければならない。だが、その中の1つは致死性の猛毒入り飴玉なんだ。舐めたらすぐに死ぬよぉ!!!これが今回のルールの全てさ、1/25だからかなりのサービス問題だね!!!ああ、そうそう。チャイムの鳴る1時間以内に全部飴玉を出して食べないと、致死性ガスで皆殺しだよぉ!頑張ってね!』

そう言い終わると、不愉快ウサギのマスコット校長は画面から消える。

「な、なにぃ!?」

パリィン、と乾いた音を立ててクールで知的な男、塩谷の眼鏡が割れる。

「そ、それでは運否天賦ではないですか?!僕の完璧な計算は役立たずって事か……クソッ!」

塩谷は最初にひこうが、最後にひこうが必ず1/25の確率で毒が当たることを瞬時に計算していた。歴戦のデスゲーマーの頭脳もここでは役立たずという事だ。もしかしたら、これはのちのゲームでの心理戦に影響を与えるかもしれない。

逆にいえば飯島のような平凡な男でも生き残れる可能性はある。飯島は軽くガッツポーズをした。

「誰から行くよ?」「お、お前から行けよ?」

クラス内ではざわつきが始まる。

「ヒャハハハハ、俺から行くぜぇ!!!(ガラガラ)おっ、これが飴か……うめえじゃねえか!!!」

モヒカンヘアーの大男、千鳥院(通称世紀末)が席を立ち、ガラガラを回す。率先して危険に突っ込む彼のスタイルは、今回のような完全な運による勝負では有利に働いた。このような勇敢な行動は後の心理戦(例えば公開処刑投票のような)に役立つだろう。

千鳥院(モヒカン。側頭部に千鳥のタトゥー入り)が一番手を切った事で、次々と他のクラスメイトがガラガラを回し始める。引っ込み思案な飯島はまあ確率は変わらないのだし、最後の方でいいだろうと余裕をもって見ていた。

そのデスゲームは長引いた。なかなか当たりが出ない。進行役の黒服達はニヤニヤとしている。気が付けば、残っているのは飯島と女生徒の北沢だけになっていた。残り時間は10分。あまり余裕はない。1/2の確立まで絞られたことにより、飯島の額には脂汗が浮かび、北沢は不敵な笑みを浮かべる。

「あのー……少しルールの確認があるんですが……」

ここで突如、北沢が黒服に質問をする。

「なんだ?」

「出てきた飴玉は必ず食べて貰わなければならない、というルールでしたよね?」

「そうだ」

誰が食べてもいいんですか?

Yesだ

飯島の瞳孔が一瞬大きく開き、アゴが鋭く尖る。盲点っ・・・・・・圧倒的盲点っ・・・・・・それは出てきた飴玉を他人に食べさせればノーリスクで突破できるということっ・・・・・・

北沢は密かに笑みを浮かべる。作戦として、先に飯島にひかせる。それで飯島が毒飴を食べて死ねばよし、仮に飯島が毒を引かなければ北沢の飴が毒で確定となる。それを誰かに押し付ければいいのだ。そして押し付ける相手は、今抽選機の前にいる飯島しかいない。

しかし。しかしである。そう簡単に押し付けられるだろうか?押し付けられるのだ。黒髪、おさげ、ちょっと幼さの残る顔、そして人懐っこい性格というデスゲーム強者属性少女である北沢に涙目でお願いされたら、健康な男子高校生が断り切れるだろうか。いや、断れまい。(反語法)

北沢のアゴも鋭くとがる。神の一手っ・・・・・・悪魔的発想っ・・・・・・そしてすぐに、元の可憐な少女の顔に戻り、目に一杯涙を浮かべて飯島の手をとって、懇願を始める。

「ね、ねえ。飯島くん……確率は一緒だよね?私怖い……いうなれば、私達は運命共同体だよね?互いに頼り、互いに庇いあい、互いに助け合うから過酷なデスゲームで生き残れるんだよね?クラスメートは兄弟、クラスメートは家族、だよね?先、引いてくれないかな?」

チェックメイト、飯島にはこの悪魔の交渉を断れるはずもない。顔をボロボロにしながら、心の中で、嘘を言うなっ・・・・・・畜生っ・・・・・・畜生っ・・・・・・と思いながら、抽選機に手を伸ばす。

「終わったな」

この時点で、『クールな男』『名誉スリザリン』こと塩谷は全てを読み切り、割れた眼鏡をくいっと直す。

ガラッ・・・・・・ガラッ・・・・・・カランッ・・・・・・

赤い飴玉が出てきた。震える手を抑え、飯島は口に放り込み、奥歯でかみしめる。

やがて。

飯島はふらりと足元をふらつかせ、呻き、机に手をつき、白目を剥いて、助けを乞うように手を伸ばし、倒れる。

可憐な少女北沢は、余計な芝居をする手間が省けたとばかりに、最後の安全な飴を抽選機から取り出し、最後に、後の心理戦の影響のために一言だけつぶやいた。

「飯島くん・・・嘘でしょ・・・・・・ううん、飯島くんのぶんも、私頑張る!」

飴を口に放り込むと、にっこり笑顔で北沢を見下ろす。

時刻はタイムリミットの1分前。

ゆっくりと、北沢は地面に倒れ、そして動かなくなった。

「そこまで。北沢ゆかり、脱落!」

黒服のジャッジが入る。そしてゆっくりと、アゴが伸びた飯島は立ち上がる。ブラフだったのだ。飯島は毒であろうと、毒で無かろうと倒れるという選択肢を取った。土壇場で思いついた逆転の一手っ・・・・・・圧倒的発想っ・・・・・・

「・・・・・・仮に交渉で負けるとすれば、交渉の余地を無くせばいい」

大きく見開いた瞳の飯島はぽつりと言う。

アフター

『へー、1年B組の彼はなかなかいいねー。これは面白いことになりそうだねー』

多数のモニターが設置された校長室で、不愉快ウサギの校長は興味深そうに、モニターを眺める。

背後から黒服が、資料を持ってくる。

「校長。死亡した北沢ゆかりですが・・・・・・」

『ああ、彼女は残念だったけどまあまあだったよね。いつも通り、記憶を転送してから新しいの出しておいてよ。明日の一限目に間に合えばいいからさ』

「はっ」

校長の背後のモニターの一つに、地下の巨大培養層が映っている。そこには、裸の生徒達がぷかぷかと培養液の中で浮かんでいる。北沢はもちろん、飯島も、塩谷も、千鳥院も、他の生徒もだ。デスゲーム高校のデスゲームで死亡した生徒は、常に着用が義務付けられているブレスレットから記憶を転送したクローンとして『敗者復活』できる。回数に限りは無いが、死亡を挟むので精神に悪影響を及ぼすことはある。だいたい10回も死ねば廃人になるだろうか。

『今年の新入生は本当に優秀だね!僕も楽しみだよ!キャハハ☆』

不愉快ウサギの校長は、楽しそうに、不愉快な嘲笑をあげた。