PCR検査ってのはDNAを増幅して可視化するという意味では、本当に優秀な検査です。
PCR検査ってのはDNAを増幅して可視化するという意味では、本当に優秀な検査です。
ただ、人の病気の診断に対して、絶対にそれがわかるかというかはまた別の話です。
同じコロナウイルスによる感染症ということで、SARSの検査キットは売ってまして、それをみてみましょう。
http://loopamp.eiken.co.jp/products/sars/index.html
これみていただければ、以下のようなことが書いてあります。
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●重要な基本的注意
・ 本キットの検査対象はSARSが疑われる有症状者としてください。
・ 本キットで判定が陰性であっても疾患としてのSARS感染を否定するものではありません。
・ 診断はWHOの最新の症例定義を参照し、臨床症状も含めて総合的に判断してください。本キットはあくまでSARSが疑われる有症状者を対象とする診断の補助を行うためのものです。
・ 本キットの臨床性能試験におけるSARS患者検体の陽性率は次のとおりでした。
SARS発症当時のWHOの症例定義に従ってSARS可能性例とみなされた症例から得られた検体について、リアルタイム濁度検出による陽性率は、検体別に糞便:81.0%(64/79)、鼻腔咽頭拭い液:56.3%(9/16)でした。
また、蛍光目視検出による陽性率はそれぞれ順に、77.2%(61/79)、56.3%(9/16)でした。
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なぜなんでしょうか。
まず、陰性についての解釈
PCRの検査っていうのは、検体をとった場所にウイルスがいないとそもそも検知できません。
症状が軽い場合(ウイルスが少ない場合)には、とった場所にウイルスがいないが、他の場所にウイルスがいる可能性があります。体の他の場所にウイルスがいるかどうかはまったくわかりません。
肺にお水をいれて回収すれば、陰性が陰性である確率をあげることができるようですが、症状の軽い場合にそこまでやると検査自体の害が大きすぎます。
これが PCR検査の限界です。
陰性だから安心できる、という保証にはなりません。そうである以上、症状があって疑わしい人が検査陰性でよかったと出歩かれるとかえって有害な検査になります。
というわけで、怪しいと思われる方は、外出を控えるほうがいいというお話になります。
この辺は、インフルエンザの簡易検査キットで、発症早期に陰性だったが、次の日に陽性になったという経験がおありの方も多いでしょうから実感しやすいと思います。
つぎに陽性の解釈
これにも限界がありまして、
たとえば、PCR検査の検査がウイルスがいた状態で検査してもいろいろな条件からウイルスがいるのを正しく判定する確率 95%、いないを正しく判定する確率 95%だとします。
95% の正確性ですごい検査じゃん、と思われても当然なのですが、難しいのは対象の患者さんが割合が少ない場合です。
たとえば、お船のように 20% の検査した場所にウイルスがいる人がいるとします。
そうすると ウイルスがいる人:2000人 と ウイルスがいない人:8000人とすると
検査で陽性になるウイルスがいる人 1900人
検査は陰性だけど本当はウイルスがいる人 100人
検査は陽性だけどウイルスがいない人 400人
検査は陰性でウイルスがいない人 7600人になりますね。
そうすると、20%の集団でPCR検査で陽性になる人は、2300人で、そのうち本当の患者さんの確率は だいたい80%ぐらいですかね。
ただ、検査が陽性に出た人のなかにも20%ぐらいウイルスがいない人が混じります。
で、いまの一般の状況は、感染している確率が1%以下でしょうが(1%感染してるということは、日本全国で100万人感染していることになります。死者数から現時点でそこまではないでしょう。いるとすれば、あぶない疾患という認識自体がおかしい、ということになります)。
で、1%で考えると、ウイルスがいる人 100人、ウイルスがいない人 9900人として、
検査が陽性になるウイルスがいる人 95人
検査は陰性だけどウイルスがいる人 5人
検査は陽性だけどウイルスがいない人 495人
検査は陰性でウイルスがいない人 9405人となり、
検査が陽性の人のうち、本当にウイルスがいる人は 20%をきってきます。
1%という現時点ではありえないウイルスの保持率でたくさんの感染のない人を隔離しなくてはならなくなります。
もっと患者さんがすくない状態では、もはや検査の意義がありません。風邪みたいな症状があるからといって、PCRの検査をしてもそれ以上な有意義な情報が得られるものではありません。そのために自宅待機がお願いされています。
こういう背景があって、現行の PCR検査は、感染している可能性が高い人(たとえば、症状がそろった人、あるいは濃厚接触者)に限られた運用がされています。
もちろん、COVID-19感染症の治療が確立されれば、戦略をかえることになるだろうことは当然ですが、
現時点の、感染を抑える、広げない、というフェーズでは、
陰性者が不確実、陽性者も市中では、たくさんの偽陽性者を産む、そもそも症状があるよりも有用とはいえないないなどの理由で全数 PCRはあまり有効ではないと考えます。
PCRのステップにもうひと仕事いれれば、もうちょっと検査自体の信用性はあがると思いますし、感染確定者はそこまでやって発表しているのだと思います。
そこまでやるのは、もっと大変なのでスクリーニングとして行うのは現実的ではないですね。
もちろん、感染のスポットで感染者の把握を行う手段としては有効ですよ。
話は変わりますが、自費のクリニックで、悪い人は、検査をやりだすかもしれません。そこは危惧しています。
出生前診断とおなじで、まあ、陰性だろうから、心配だからといってやみくもに受けるとあとで大変なことになると予想されますので、きちんと考えてからお受けください。
以上です。
蛇足その1:
検査の陰性例で、のちに陽性になった人が騒がれていますが、ある程度、想定されていたことなのは、この説明でわかっていただけると思います。
蛇足その2:
武漢の人口は5000万人で、患者数10万人とすると、検査前確率 0.2%だから、
検査陽性でウイルスあり 95000人
検査陰性でウイルスあり 5000人
検査陽性でウイルスなし 2450000人
検査陰性でウイルスなし 46550000人
てなると、検査陽性者に占める真の陽性者 3.7%です。
というようにもっともはやっている地域でも全員にやってしまうとす優秀な検査ではなくなります。
そのために、CTの AI 診断を開発してるんだと思ったりします。とりあえず、PCR単独で COVID-19を診断できると間がるのは無理があります。
蛇足その3:
じゃあ、医者はどういうときに検査するんじゃ、といわれると
医者が検査をするのはそれによって治療行動が変わる時もしくは患者さんに大きな目で見て利益をもたらすときです。
COVID-19に関しては、ほとんどが自覚症状もなくあったとしても軽い風邪でおわる。そのような患者さんに PCRをしても意味がない。
必要なのは、この疾患の肺炎の場合、発症から10日目ぐらいで急激に悪化することがありそれを予測するためです。現行の検査する基準はこれが念頭にあるものと推測しています。
なお、副作用がものすごく少なくて有効なお薬がでてくれば、偽陽性が多くても検査を行うという局面になるかもしれませんが、それはずっと先です。
検査の試薬も潤沢にあるわけではありません。あまり安心に寄与できない状態での資源の浪費は重症化した患者さんへの不利益となります。
適切な資源の使い方というのをひとりひとりが自覚していただくことが、ひいては自分自身の身を守ることに繋がる、ということをご理解ください。
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