「運 ドン・キホーテ創業者「最強の遺言」」感想

なんだかすごくスピリチュアルな感じ…なタイトルや見た目、ビジネス書にありがちな帯とは裏腹に、理屈に沿って安田さんの生い立ちやドンキ成功の背景を考察しておりとても良い本でした。

ドンキのイメージ

ドンキって他のお店に無いような陳列や安さで「破天荒」なイメージがなんとなくありました。本書でも「攻め」の姿勢はイメージ通りに窺えたものの、すべてをぶち壊すというよりは他者が踏み込まない領域に少し踏み込んでみる、というようなチャレンジ精神を、創業者だけでなく従業員全体に広めている、というスタンスでした。
また本書を読んでいてふと感じたのは、「そういえばドンキの中で、『こりゃ潰れるぞ』と心配になったお店ってひとつも無いかも」というものでした。他のお店だと、雰囲気とか清潔感とか、サービスの質や客の入りといった要素を五感で得て、たまに心配になることがあります。これはディスカウントストアだけでなくあらゆるお店で感じることかもしれません。ただ、ドンキはそう感じない。欲しいもの探しに苦労してけっきょく見つからなかったり、値段が納得いかないからパスしたり、最大の満足を得ないことはあっても最低の印象を得たことは無いんですよね。
それは店舗ごとに、地域に根付いたマーケティングを個々の裁量で展開できているから…と本書の内容に沿えばこうした根拠になるのかもしれません。
駅近にあるドンキ、郊外にあるドンキ、アピタに併設されたドンキ…中がごちゃごちゃしているのは同じようで別世界に感じることはほとんどない中で、微妙に調節されているのかもしれないな、と次ドンキ行くときに気にしたいなと思いました。

最大リターンを得るために

得られる果実を完全に収穫できなかったことを、地団太踏んで悔しがれる人が、本当に強い勝負師として強運に恵まれるのだ。

「人は負けに敏感で、価値には鈍感」

創業前は麻雀師として生き抜いていた安田さんならではの、勝負に対する価値観は本書の見どころです。
本書の後半は、顧客や株主のため…といった自利利他の精神が入ってきてこれは他の企業理念と合流する要素だなと思いつつも、根っこの精神が違うことを知ることができます。
中でも好きなのは上記の引用部分で、エゴにまみれたビジネスモデルにはならないとしても、その瞬間に享受できる利益の最大量を増やすことができるか?という問いかけになっています。
勝ちの流れを掴んで、次のステップで欲に目がくらんで失敗…というのもよくありますが、ここで言うのはその一時の勝ちの瞬間の、利益の最大化だと解釈しました。それを最大に得られる受け皿が用意できているのか?

例えば、個人開発していたゲームが突然バズって、サーバーがぱんぱんになるほどの盛況になってしまった…なんてことがあります。リアルの店舗でもあることかもしれません。
商売繁盛、「勝ち」の流れがある状況で、どこまで果実を得られるか。捌ききれずにオーバーフローする分を最小限にできるか。不測の事態の中で、夢物語が現実になったときにどうやって柔軟に対応できるかが問われます。

また『私の財産告白』で言われる「少しの勝ちを増やしていく」ことと相反しているようにも見えますが、その「少し」の最大値はどこかを気にしてみるといいのかもしれません。

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