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秘密保持契約書の審査マニュアル①(前提知識①)

BtoBの製造業の上場会社において、法務として働いている筆者が、企業法務10年の経験を踏まえて、自分のために又は企業法務に配属されたばかりの方向けに秘密保持契約書の審査マニュアルを作成する。

今回は、第1弾として、「前提知識①」について、考えてみる。


1.そもそも「秘密保持契約」とは

秘密保持契約とは、一般に公開されていない情報を開示するにあたり、相手方に対し、開示した情報を第三者に開示することなどを禁止する契約をいう。

「契約書作成の実務と書式」第2版, 阿部・井窪・片山法律事務所編, p499 

秘密保持契約は、自ら保有する秘密情報を他者に開示したり、または、他者から秘密情報を受領する場合に締結する。

企業は、他社と本格的に取引を行う前に、相手方に様々な情報を提供する。取引の内容によっては、会社にとって重要な情報を提供することもある。そのため、自社の情報が取引相手以外の者に利用されたり、漏洩されたりすることを防止することを目的として秘密保持契約を締結する。

本格的に取引を行う前に秘密保持契約を締結することが多いので、一般的に企業において締結することが一番多い契約となる。実際に、筆者が過去にいた3社でも、一番多いのは秘密保持契約であった。感覚的には全体の契約件数のうちの2~4割は秘密保持契約であった。

一般的に、秘密保持契約が必要となる場面としては、①業務提携やM&A、②共同研究・共同開発、③ライセンス、④売買など、一定の取引を行うかどうかを検討するために、秘密情報を開示する場面が挙げられる。

仮に、上記の場面において、秘密保持契約を締結することなく、自社の情報を開示すると、原則として、相手方は受領した情報の使用について特に制限を課されない。

そのため、相手方によって、その情報が第三者に提供されたり、また、開示した目的以外の目的で使用されたりするおそれを生じかねない。

しかし、情報を開示する場合、業務上の必要性から、やむを得ず情報を開示するのであって、その情報を第三者に開示されたりすることは想定していないのが通常である。

秘密保持契約は、情報を受領した相手方に、①その情報の第三者への開示や目的外の利用を行わない義務を負わせ、②相手方がその義務に違反した場合には、被った損害について損害賠償請求を可能にするものである。

なお、秘密保持契約は、しばしば「NDA」と略称されることがある。

これは、Non-Disclosure Agreementの頭字語。

また、Confidentiality Agreementの頭字語として、CAと呼ばれることもあるが、意味は同じである。

2.契約書の形式

秘密保持契約には、①当事者双方が情報を開示する場合と、②当事者一方だけが情報を開示する場合がある。

②の場合、両当事者の合意(契約)による場合のほか、情報を受領する当事者が情報を開示する当事者に対して、その情報を第三者に開示しないことなどを約する誓約書を差し入れる方式の場合がある。

誓約書を差し入れする形式の場合、情報を受領する当事者だけが押印するため、双方に押印する場合と比べて、情報を開示する当事者の社内手続が不要となるため、簡易・迅速に進めることが可能となる。

情報を受領する当事者としては、誓約書を差し入れする形式で進める場合には、自らが開示する秘密情報がないかを検討し、もし秘密情報を開示する場合には、双方が秘密保持義務を負う契約書方式を要求するべきである。

3.印紙の要否

秘密保持契約は、通常は印紙は不要である。

なぜなら、秘密保持契約それ自体は、経済的取引を目的としておらず、いずれの課税文書(印紙税法の別表一に掲げられている各類型)の重要事項にも該当しないからである。

ただし、秘密保持契約において、継続的取引に関する事項や、請負に関する事項など、通常の秘密保持に関する事項以外について合意する場合には、印紙が必要となることもある。

契約のタイトルが秘密保持契約であることを理由として、その契約書が印紙税法上の課税対象文書でなくなるわけではない。

したがって、印紙の要否について確認する際には、通常の秘密保持に関する事項以外(印紙税法の別表一に掲げられている各類型に該当する事項)について合意していないか確認する必要がある。

4.おわりに

以上が秘密保持契約の「前提知識①」です。
次は、「前提知識②」として、不正競争防止法や特許法と秘密保持契約の関係について更新していきたいと思います。

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