秘密保持契約書の審査マニュアル②(前提知識②)
BtoBの製造業の上場会社において、法務として働いている筆者が、企業法務10年の経験を踏まえて、自分のために又は企業法務に配属されたばかりの方向けに秘密保持契約書の審査マニュアルを作成する。
今回は、第2弾として、「前提知識②」として不正競争防止法・特許法と秘密保持契約の関係について、考えてみる。
1.不正競争防止法の営業秘密
不正競争防止法は、以下の情報を「営業秘密」として定義している。
不正競争防止法の「営業秘密」として認められるためには、①秘密管理性、②有用性、③非公知性の3つの要件が満たされる必要がある。
このうち、①秘密管理性を満たすには、秘密としたい情報について従業員や取引先が秘密であることを認識できること(認識可能性)が確保されている必要がある。
そして、認識可能性を担保する手段として、アクセス制限やパスワードの設定などのほかに、秘密情報が記載された書類に秘密と表示したり、秘密保持契約などの契約を締結することが必要となる。
そのため、取引先に秘密情報を開示する場合には、秘密保持契約を締結することが「①秘密管理性」の前提となる。
逆にいうと、秘密保持契約を締結していないと、「①秘密管理性」を満たさないと判断される可能性がある。
そのため、秘密保持契約を締結していないと、不正競争防止法の「営業秘密」として保護されない可能性がある。
2.営業秘密と秘密保持契約
前述のとおり、不正競争防止法の「営業秘密」として認められるためには、①秘密管理性、②有用性、③非公知性の3つの要件が満たされる必要がある。
しかし、自社が重要と考える情報が必ずしもこれらの要件を全て満たすとは限らない。
上記の例では、③非公知性の要件を満たさない可能性があるケースについて説明されているが、①秘密管理性が認められない可能性があるケースの方が実務的には多い気もする。
いずれにしろ、不正競争防止法の「営業秘密」として保護されるためには、3つの要件を満たす必要があり、その3つの要件が満たされない可能性を考慮し、秘密保持契約で自社の情報を保護する必要がある。
しかも、秘密保持契約は、契約であることから、不正競争防止法の「営業秘密」よりも広い情報を「秘密情報」として保護することが可能である。
3.特許法と秘密保持契約
特許法上、「特許出願前に日本国内又は外国において公然と知られた発明」は、特許の対象とはならない(特許法29条1項1号)。
そして、秘密保持契約を締結せずに、秘密情報を開示した場合には、上記「公然と知られた発明」となると考えられている。
仮に、秘密保持契約を締結せずに自社の発明を取引先に開示した場合、その発明について特許を取得できなくなる。
筆者は、新入社員研修で知財部の講師から、自社のサンプル・試作品を取引先に開示する前に、特許出願を済ませることと、秘密保持契約の締結の必要性を教わったことがある。
それは、自社の発明に特許法上の保護を及ぼすためだったと、後で知ったものである。
4.おわりに
以上が秘密保持契約の前提知識です。
この後、各条項について更新していきたいと思います。
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