月がきれいですね #1 #テレ東ドラマシナリオ
「月がきれいですね」第1話
◯部屋
パジャマ姿でベッドの上に座り、難しい顔で手紙を読んでいる美々。 手紙の一文に『西園と手をつなぎたい』と書かれている。
美々「ん〜〜〜〜〜」
と言ってベッドの上に突っ伏す。
美々「わかんないなぁ・・」
◯翌朝
制服で通学路を歩く美々。後ろから同級生の優希が抱きついてくる。
優希「おーはよ、美々」
美々「おはよう、優希」
優希「ねぇ、昨日のドラマ見た?トウマくんちょーかっこよかった」
美々「優希ほんとあの俳優よくチェックしてるよね」
優希「当たり前じゃん。トウマくんはあたしのイチオシなんだから。あ、ていうか聞いたよ。成島先輩から手紙もらったんだって?」
美々「あ、うん」
優希「きゃー!どうすんの?」
美々「ん〜・・どうしようかな」
優希「えー、いいじゃん成島先輩。年上なのに可愛くて。けっこう人気あるんだよ?」
美々「私まだ・・こういうのよくわかんないし」
優希「まー、美々はまだお子ちゃまだからね〜。まっ、もうちょっと考えてみなよ」
美々「うん・・」
◯校内
教室に入ろうと扉を開ける美々。すると中から本を読みながら出てきたクラスメイトの伊佐田とぶつかる。
美々「あ、ごめん」
伊佐田「うん・・」
落ちた本を見ると夏目漱石の『こころ』。伊佐田、それを拾って後にする。美々、黙って伊佐田を見つめる。
◯教室
昼休み。優希と話している美々。そこにクラスメイトの女子生徒が声をかける。
女子生徒「美々。あーれ」
教室の入り口には成島が立っている。
美々「あ・・」
優希「ほら、美々。いってらっしゃーい」
美々に手を振る成島。美々、気まずそうに会釈を返す。
◯屋上
成島「手紙、読んでくれた?」
美々「あ、はい」
成島「その、書いた通りなんだけどさ・・俺、本気なんだ。本気で西園と、手をつなぎたいと思ってる。だから・・返事、聞かせてもらえる?」
美々「・・あの、先輩」
成島「ん?」
美々「先輩は、どうして私と手をつなぎたいんですか?」
成島「へ?ど、どうしてって・・」
美々「先輩は、私のことどう思ってるんですか?」
成島「どう思って・・いやだから、手をつないだり、そういうことしたい相手だな、というか・・」
美々「なんでですか?」
成島「なんでってだから・・西園がその・・大事だからだよ」
美々「どうして大事なんですか?私と先輩、そんなに話したことないですよね?なのにそう思ってくれてるって、見た目でしょうか?私の見た目を綺麗だと思ってくれたってことですか?じゃあ、もし私が綺麗じゃなかったら、手をつないだりだとか、そういうのしたくないってことですか?」
成島「違うよ、そういうわけじゃない!西園の見た目がどうだろうと関係ないよ!まぁ、綺麗だとは思ってるけど・・」
美々「じゃあどうしてですか?」
成島「・・だからその・・こういうのはさ、理屈じゃないんだ!ビビってきたらそうなんだ。俺は西園をその・・特別だって。そう、特別だって思ったから、だから手をつなぎたいし、何なら今すぐ抱きしめたい!!」
美々、両手で体を守る動き。
成島「あ、いや違う、そうじゃなくて。その・・とにかく本気なんだ。だから・・もしまだ返事迷ってるんなら、もう少し、考えてくれないか?な?」
美々、考え込む表情。
◯美々の自宅 リビング
テーブルに突っ伏してる美々。食事の支度をしてる母親。
美々「ん〜〜」
母親「どうしたのよ、そんな考え込んじゃって」
美々「ねぇお母さん。お母さんはさ、お父さんと結婚してるんだよね」
母親「何よそれ。当たり前でしょ」
美々「じゃあ、今でもお父さんと手をつないだりしたいと思う?」
母親「えー?お父さんと?思わないわよぉ」
美々「じゃあもうお父さんが特別じゃないの?」
母親「そういうわけじゃないけど。ただ手をつないだりはねぇ、若い頃ならあったかもしれないけど」
美々「じゃ今は?どう思ってるの?」
母親「今はそうねえ・・同じ時間を過ごしていたい、かな?」
美々「先輩が言ってるのと違うなぁ・・」
母親「ん?何?」
美々「んーーーーー」
美々、再度テーブルに突っ伏す。
◯学校 早朝
廊下を歩く美々。
美々「考え込んじゃってあんま寝れなかった・・」
ガラスに映る自分の顔を見て、
美々「うわ、くまひどい・・」
教室の扉を開ける。教室には伊佐田だけが本を読んで座っている。
美々「あ・・おはよう」
伊佐田、軽く会釈してすぐ本に視線を戻す。
美々「早いね」
伊佐田「いつもこのくらいの時間に来てるから」
美々「そうなんだ」
しばし沈黙が流れる。
美々「・・伊佐田さ、いつもそれ読んでるよね?夏目漱石、だっけ?」
伊佐田、本から視線を外さず聞いている。
美々「夏目漱石ってなんか有名なのあったよね?なんだっけ、えっと」
伊佐田「『吾輩は猫である』?」
美々「あ、じゃなくって。なんか翻訳のやつ。えっと、月に、じゃなくて・・」
伊佐田「『月がきれいですね』?」
美々「あ、そうそう、それ。I love youをそう訳したんだよね、確か。こないだ授業で先生が言ってた」
伊佐田「一説によると、本当かどうかわかんないらしいけどね、それ。都市伝説みたいなもんらしい」
美々「月がきれいですね、って・・私は正直よくわかんないなぁ、それ。確かに日本語に直訳しにくい言葉だけど、それにしても月がきれいですねって」
伊佐田「じゃあ、西園ならなんて訳すの?」
美々「え?私は・・わかんない。皆言うこと違うんだもん。手をつなぎたいだとか、一緒に過ごしたいだとか・・」
伊佐田「ふぅん」
美々「伊佐田なら?」
伊佐田「え?」
美々「伊佐田なら、なんて訳すの?I love you」
伊佐田「さあ」
美々「さあって、ちょっとは真面目に・・」
優希「おっはよー!美々ー!」
優希、後ろから美々に抱きつく。他の生徒も次々と教室に入ってくる。
美々「あ、おはよう、優希」
優希「あれ?伊佐田となんか話してた?」
伊佐田、何事もなかったかのように読書に戻ってる。
美々「あ、ううん、大した話じゃないから」
優希「ふうん。あ、ちょっとさ、職員室ついてきてくんない?私学級日誌取ってくんの忘れちゃった」
美々「うん、いいよ」
美々、自分の席に鞄を置く。
伊佐田「・・・俺だったら」
伊佐田、本に視線を向けたまま言う。
伊佐田「俺だったら、『昨夜はよく眠れましたか』かな?」
美々「え?」
伊佐田「訳すなら」
伊佐田、自分の目の下を指差す。美々、目の下のくまをばっと隠す。
美々「・・感じ悪」
伊佐田、ふっと笑う。つられて美々も笑う。
優希「美ー々ー!いくよーー!」
優希、教室の外から美々を呼ぶ。
美々「はーーい!」
美々、教室の外に出て振り返り、本を読む伊佐田の横顔を少し見つめ、後にする。
https://note.com/komugi1992/n/ne3acd6771790
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