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小説 魔界綺談 安成慚愧〜八十八


そんなある夜。


弘興が義隆を心配して面会を申し出てきた。


いつもならば断る義隆であったが、この夜はそれを受け入れた。それは義隆のある決意の現れであった。


ちょうど。


義隆が炎に包まれているこの夜と同じく八月の蒸し暑い夜であった。


義隆は部屋に入ってきた弘興をいきなり事前に用意した手槍で突いた。そのときの弘興の驚愕の表情は義隆を長く苦しめた。


その表情で義隆は悟った。


弘興が自分を裏切るような弟ではなかったことを。


弘興は義隆の手槍で腹を貫かれそのままうずくまった。その時は弘興はまだ生き絶えていなかった。


義隆は血飛沫をあげる弘興の凄絶な姿に怯え、腰を抜かし、ただただ「許せ」とうわごとのように繰り返した。


次の瞬間。


弘興の首が吹き飛んだ。


薄暗い部屋に真っ赤な噴水が首を失った弘興の胴体から吹き上がった。


驚いた義隆の瞳に映ったのは


抜く手も見せず脇差しで弘興の首を跳ね飛ばしたわずか7歳にすぎぬ陶五郎であった。


のちに「日の本一の侍大将」と称される陶隆房の姿がそこにあった。


まるで女童のような可憐な五郎の凄まじい技にただただ義隆を魅了した。


そこには凄絶なまでの「美しさ」があった。


血の臭いでむせかえる修羅場で、義隆は五郎に襲いかかった。


興奮と錯綜した性の欲望だけが義隆を支配した。


義隆と五郎は弘興の死骸の前で延々と交わった。


そしてそれはその後の義隆の悪癖となる。


弘興の死は、大内家に衝撃を与えた。


素早く動いたのは五郎の父である陶興房である。


興房は弘興の死を謀反を企てそれを義隆に責められたに自害とした。五郎の知らせを受けすぐさまに弘興の遺骸は荼毘に伏してしまっている。


次期当主の命という形で興房は反主流派を弾圧した。


義隆の後継を狙うものは担ぐ神輿も担ぐ人間も一掃されたのである。


しかし、一度「血に染まった者」はその運命に逆らうことはできない。義隆は弟殺しの後、再び血の繋がった者を死に追いやることになる。



それは



父である大内義興である。



続く

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