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小説 続ける女〜session2


「古川さんから大体の話は聞いてるわ。岩村さん。」



オバラが渋々、応接室を去ったのを見て玲子は目の前の青年に言った。



「恐縮です。」

玲子に呼ばれた青年は頭を下げた。



「私のような一官僚の相談を古川先生のような大政治家が聞いてくださり、中津川さんをご紹介いただくなど身に余る光栄で・・。」



「おべんちゃらはその辺でいいわ。古川さんは官僚に恩を売るのが仕事だから。」


玲子は周りくどい挨拶をする岩村の言葉をぴしゃりと遮った。



岩村が口にした古川とは、現政権を担う民生党の若き幹事長古川九一のことである。


市民運動から政権中枢にまで駆け上った大物政治家である。

人柄は温厚で、誠実、その反面強かな交渉力を持ちあわす、当代きっての政治家として名高い。

玲子の父である礼央那はこの古川に大きな期待を寄せ、後援会長を引き受けるなど、物心両面の支援を続けている。

その関係で、礼央那の留守中は古川が後見人のような形で玲子を見守っているのだが、それだけでなく、古川は玲子の特殊な直感力と洞察力を高く評価していて、たびたび表沙汰にできない複雑怪奇な事件を玲子に相談することもあった。




中津川家はもともと天皇家に仕える「陰陽師」の一族であり、歴代の当主はいずれも強い霊感の持ち主で、たびたび天変地異などを予言し、国の存亡の危機を救ったとされる。



玲子はその中でも飛び抜けてそういった霊的能力が高いと父の礼央那は評していた。



その礼央那の予感は、古川が巻き込まれた怪事件を玲子が見事に解決したことで証明され、それ以来、古川はなにかと玲子を頼りにするようになったのである。


一方の玲子も、持ち前の好奇心と、職を持たぬ手持ち無沙汰から古川の求めに応じている。



玲子の飛び抜けた美貌と、中津川家の血筋から最近では「陰陽探偵」などと世間ではもてはやされている。



万事、派手なことを好まぬ礼央那にはそれが不満の種でもあるのだが、玲子は礼央那の留守をいいことに、その「陰陽探偵」をおかしがって演じているむきもある。





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