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小説 人蟲・新説四谷怪談〜二


左門町にかかった辺りだった。



真っ黒な雨雲から水滴が一粒ふた粒落ちてきたと思うと瞬く間に豪雨となった。



いわゆるゲリラ豪雨という奴である。



伊一郎は慌てて近くのビルの軒下に入った。


雨の勢いは激しくアスファルトを叩く雨粒が大きく跳ねる。


一瞬であたり一面、バケツをひっくり返したような豪雨に見舞われた。



傘を持っていない伊一郎は、近くのコンビニまでの距離を目で測った。



四ツ谷側に少し戻ればコンビニがあるのだが、この雨足だとコンビニに駆け込む間にびしょ濡れになるだろう。


「少し弱まるのを待つか。」

伊一郎は呟いた。



スーツがびしょ濡れになる不快感を思うと、とりあえず雨足が衰えるのを待つ方を伊一郎は選択した。



10分が過ぎた。



雨は激しさを増すばかりだった。

さすがの伊一郎も痺れを切らし始めた。

少々濡れることは覚悟でコンビニまで走り込むか。



そう思った時だった。



伊一郎の背後から傘がさしかけられた。



伊一郎は驚いて振り返った。




小柄な若い女性が微笑んでいた。



「よろしければ信濃町の駅までご一緒しませんか?」


真っ白なノースリーブのワンピースに、黒い艶やかな長い髪に白い肌。


一重の瞼に切れ長の目、その目の印象を少し丸みを帯びた輪郭が柔らかい印象を与える。




それが「彼女」と伊一郎の最初の出会いであった。






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