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小説 続ける女〜session4


「吉良の昔の彼女です・・・いや・・正確には吉良の昔の彼女の生霊です。」




岩村に声は心なしか震えている。
恐怖の記憶がまだ生々しく岩村には残っているらしい。




「生霊とはどういうこと?」




「吉良は言っていました。昔、捨てた彼女に恨まれていると。そして、その彼女から毎日、脅迫めいた手紙を送りつけられていると。私もその手紙を見ました。口紅でウラギリモノとかコロスとか、それは恐ろしいものでした。」



「それで?」



「吉良は、その女が毎夜毎夜、枕元に現れると・・そう言っていました。その頃には吉良はだいぶ痩せ細っていたので幻覚でもみていたのだろうとそう思ったのですが・・。」



「あなたが見たということなのね。」



「はい。」



岩村は頷いた。その顔にははっきりと恐怖の色が浮かび上がる。





「深夜の2時頃でした。吉良のマンションのベランダに黒い長い髪の女が立っていました。。その女はベランダから吉良の寝室に移動していきました。吉良のマンションは11階ですから、外から忍び込むなんて絶対無理です。私は玄関近くのリビングで寝付けずにいましたから、玄関から入ってくるなど不可能だったのです。」



ひゅっ。

玲子は口笛を吹いた。

その美しい瞳を細める。



「その件は、解決済みなんじゃない?」


玲子は岩村の表情を鋭く観察しながら言った。



「古川さんから聞いたとことによると、その生霊ってやつは、実は吉良義人のひとり二役だった。あなたに幽霊を信じさせるために、女モノの鬘をかぶり、服を着替え、寝室にはあたかも自分が寝ているように毛布か何かを丸めて人の形をつくり、自分は幽霊となって寝室からベランダに現れる。こんなトリックだったと。」


岩村は玲子の言葉におとなしくうなずいた。


「確かにそういう話でした。私があまりに騒ぎ立てたもので、警察の方が秘密裏に調査を継続してくれたのです。その結果、私が見たものは吉良が扮した幽霊だったと結論づけられました。」



「でも、貴方はそれに納得していないと?」


「いったんは納得はしたのです。」


岩村は言葉を一度きり、視線を玲子に向けた。





「・・・しかし、続いていたのです。。」




「続いていた?」






「脅迫状です。」






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