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番外編「上田晋也さんのはなしかた」

最近、ワタシが「はなしの達人」と思う人は上田晋也さんです。(ワタシ以外ももちろん)


司会者としての仕切りのうまさ、コメントの的確さ、いずれも天下一品だと思います。


単純にうまいというだけでなく、上田さんは「お笑い芸人」として異質な点があります。


それを語る前に漫才の仕組みについて少しお話したいと思います。


上田さんのホームグラウンドであるお笑いコンビでは、相方の有田さんが「ぼけ」、上田さんが「つっこみ」です。


漫才において「ぼけ」は華形です。


人と違う感性や閃きが必要であり、たぶんに「才能」が必要な役割です。


ものを見る「視点」
表現する「発想」
間を捉える「感覚」


これらを兼ね備えたいわば「天才型」のタイプです。


ダウンタウンの松本さん、99の岡村さんなどがこのタイプです。


一方、「つっこみ」は、その「ぼけ」を活かすための「誘導、共感」という役割です。


えてして天才型の「ぼけ」は一般の人がそれを「ぼけ」と捉えられないことがあります。


それを、「つっこみ」で「ぼけ」であることを認識させ「安心」して「笑う状況」を作り出すという必要性があるのです。


このため「つっこみ」に必要な能力は


観客と同じ視点
観客と同じ発想
観客と同じ感覚
を持つことです。

つまり「観客代表」であることが求められます。


そして観客よりほんの少し「早く」、観客の「気持ち」を代弁(誘導)することが求められるのです。


「ぼけ」が人と違う感性を持つ「天才」ならば「つっこみ」は人と同じ感性をもつ「凡人」(あえての表現です)である必要があるのです。


関西流の漫才の「つっこみ」の方法の代表的なものに「なんでやねん!」がありますが、この言葉に代表されるように「表現」の方法ではなく、いわば「タイミング」が最も重要な技術になります。


そのため「つっこみ」は端的で簡潔な方法がベストなのです。


上田さんが異質なのは「つっこみ」でありながら、端的で簡潔ではなく「情報」が多いことにあります。


上田さんの博識ぶりは有名ですが、「つっこみ」にその「博識」を組み込む手法はプロの目から見ると「すごい」のひとこと。


観客と同じ「視点」でありながら観客より「一歩先」をいくわけです。


下手すると、せっかくの「ぼけ」を殺しかねないリスキーな方法です。


それを成立させているのは上田さんの「さりげなさ」です。


自分の「個性」を優先させず「情報」のみを正確に送り出すという技術です。


「個性」を全面に出さないという技術は目立ってなんぼの「芸人」には極めて難しいものです。


これを間とリズムで(上田さんのつっこみは激しさではなく、関西のつっこみに比べると優しくゆったりめ)その高度な技術を成立させています。


この高度な技術は上田さんに「司会業」においてより効果的に発揮されています。


今の日本の司会者は自分の「個性」を全面に打ち出して、他の出演者を自分の「世界」に引き込む「自己主張型」が主流です。


お笑いでいうところの「ぼけ」のタイプです。


上田さんは「つっこみ特有」の相手を「引き出す」ということを行いながら、上田さんの博識で不足した情報を的確に伝えるという本来の「司会」という役割を完璧にこなしています。


「ぼけ=自己主張型」の司会者が情報より情感なのに対して、
「つっこみ=客観型』の上田さんの司会は情感より情報です。


情感には当然「好き嫌い」がありますが、情報は「過不足」なので「好き嫌い」のふれ幅は少ないのです。


上田さんの司会の番組が増える一方なのは、この「ふれ幅が少ない」ことが一番大きいのでしょう。


そして「個性を全面に出さない」ということが類い稀なる「個性」となって上田さんの「存在」を際出せています。


この上田さんの技術をトレーニングで再現できないかただいま模索中でございます。


今回はちょっと長くなってしまいましたが、上田さんをテレビで見るときに上記のはなしをちょっと頭の片隅に残しておいてもらえると違った発見があるように思われます。



ぜひ意識して見てみてくださいませ。

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