はしのした #22

 笑いそうな反面、泣きそうとかいう、ものすごい複雑な心情。笑  笑ったら笑ったで悲しくなる。なんか今日疲れちゃったな。

 水滸伝返せという名目のもと、中学時代の男友達を呼び出して、公園でお話いたしました。実は中学校の同級生に初恋の人がいて、その人が忘れられなくて、だから君が何か彼のことを知っていたら、教えてほしい……と。勇気を出して言いました。恥ずかしかった。友は、彼の連絡先をきちんと持ってたし、なんなら普通に会話もしていたので、そこそこ詳しいことを知っていた。トーク履歴を見せてもらって、私は泣いた。男子たちが一緒に撮ったらしき集合写真の中に、彼はいた。彼は髪の毛を染めて、ものすごくいい顔でふざけていた。私は泣いた。元気そうで安心したのと、こんなんなっちゃったのかという半ば絶望と、やっぱりバカだなあっていう安心が混ざって、涙が溢れだしてきた。友が彼とLINEしているのを、私は横で見ていた。彼のアイコンもやっぱりふざけていた。たらこキューピーちゃんみたいな画像の顔の部分に自分の顔を合成していたやつだった。思わず笑った。それが異様に嬉しかった。彼は、自衛隊になるらしい。私はうんうんと頷いて、目を瞑った。やっぱり自分が見ていたのは幻想だった、と思った。

 友に、「あんたはどうしたい」と聞かれた。私は、「私の名前は出さなくていいから、君のことを好きだったやつがいたよ、と伝えておいてほしい」と言った。すぐに返信が来て、友が言うには、「喜んでるよ」ということだった。そこで、私はびっくりした。ああ、この人はこんなにも私と違うのだ──と。私は喜べなかったから。「なんで、こんな私が」とまず思うのが先だった。それなのに、彼は喜んだ。ますます好きになった。素直で、馬鹿で、今も人生楽しくやってる。それだけで十分だった。私はやけに変に苦しんできたけど、その間も彼は幸せだったのだ。本当によかった。嬉しくて、久々に彼を近くに感じたような気がした。幸せだった。

 次に、「声を聞きたい」とわがままを言った。忘れかけていた、声を。「君とあの人が通話してるところを、隣で聞かせてほしい」とお願いした。友は彼に通話をかけたが、不在着信が続いた。あとから、彼の「今は無理」というメッセージが届いた。「そういうことです」、友が言うのに、私はゆっくり頷いた。そういうこと、だった。今日以降、しばらくこの友とは会えなくなる。私には友しかいない。そういうことなんだな、と思って……。思った。もう、よかった。諦めようって思った。ただそれだけだった。わからない。何も分からないけれど、とりあえず本当によかったのだ。それだけだった。

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