1031jp

■1031jp

DTM(デスクトップミュージック、パソコンで音楽を作ること)を始めたのは、the Hangoversのレコーディングを自分で行う必要に迫られたからだ。2014年4月末に作業に着手し、初心者の状態から、アルバム用のデモをたくさん作った。秋には練習も兼ねて新曲を書いて宅録し、インターネットで配信した。配信した曲はこれまでに6曲になった。

『1031jp』に入っている5曲は、配信していた曲から3曲、録り下ろしが2曲。前者の3曲も、配信したものとまったく同じではなく、いくつかの楽器の音色を差し替えたり、ミックスをやり直したりしている。マスタリングでも大きく変わったので、聴き比べるとけっこう違う。

ソロのCDをリリースすることになったのは、レーベルを運営している古い友人から声を掛けてもらったからだ。『1031jp』の制作を決めるまで、the Hangoversと区別したソロ活動を行うつもりはなかったし、音源を作ったとしてもCDを刷って流通させるつもりはなかった。

the Hangoversは、シンプルなUK式のロックバンドというスタイルに一点集中することでアイデンティティーを築いてきた。哲学としてのエイトビートだ。しかし、実は結成からデビューまでの8年の間には、もっとアメリカンな「いなたい」ことをやってみたり、パンクやハードロックに歩み寄ってみたり、サークルの仲間やライブハウスで仲良くなった対バンに影響されてみたり、とっちらかっていた。

さておき、the Hangoversは前述のような戦略を採っていたので、ぼくはそのフロントマンとして、ソロやほかのバンドなどの活動は行ってこなかった。the Hangovers以外では人前に出ないようにしていた。そういうスタンスがかっこよく見える時代だったのは確かだと思う。弾き語りも、あまり大きな動きにならない程度に修行ぐらいのつもりで行っていたが、それもある時期にやめてしまって、2015年の末までずっとやらなかった。

今回、レーベルを運営する友人が声を掛けてくれたことや、ほかにもいろいろと考えることもあり、ソロのCDを出してみようという気になった。自分と世界のさまざまなタイミングが合ったということだと思う。意識したのは、いかにthe Hangoversと区別するか。具体的には、エイトビートの縦ノリのロックンロールを排除すること、ドラムス、ベース、ギターでトラックを組み立てないこと。いつもの3声のハーモニーを想定しないこと。この曲はバンド用、この曲はソロ用、と切り分けて作曲してきたわけではないので、たとえば今作の5曲も、the Hangovers用にアレンジすれば、とてもthe Hangoversらしくなるだろう。

というわけで、the Hangoversとは異なるサウンドというテーマで臨んだ今作づくりだが、実はすべての曲で、歌を録ってからトラックを作っている。普通はプリ・プロダクションの過程でしっかり曲全体のアレンジを固め、ノリをものにしてから、気持ちよく歌を入れる。ぼくには予算も時間もないから、そんな贅沢なことはできない。でも、それによって独特の面白さが出たと思う。

■track1. honeybee

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