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100円テーリング

 本稿は、筆者が以前執筆し公表したものを「再構成」したものである。

■ 「郵便局めぐり」について

 郵便貯金ないし「ゆうちょ銀行」の貯金通帳を用いた「郵便局めぐり」について、主に「鉄道マニア」の間で流行した、と言われることがある。当たらずとも遠からず、というか、強ち間違いでもない、とは思う。
 「鉄道マニア」の間で流行した背景として、夙に語られるのが、今は亡き「著名なレイルウェイ・ライター氏」が、その著書等で広めた、という説である。

 しかし、レイルウェイ・ライター氏の「読者」ではない人にも、この「郵便局めぐり」の愛好家は少なくないし、そもそも鉄道マニア以外にも流布していることも確かである。
 「鉄道マニア」については、そのうち時折触れることになろうが、一部には「男が一度は通る道」という説もあったりするので、潜在的にはかなり広い層に及んでいるだろうとは思う。
 なので「郵便局めぐり」の愛好家の多くに、多少の「鉄道マニア」的要素を持つ人が少なくないのではないか、とも思っている。
 少なくとも、所謂「乗り鉄」にしろ「撮り鉄」にしろ、ターゲットとなる鉄道路線やその周辺に行く、という「実行動」が伴うのは必定であるから、この「郵便局めぐり」のような趣味(郵便局に限った話ではないが)との親和性は極めて高い。

 この「郵便局めぐり」について、古くから「旅行貯金」という呼称は存在した。

 実際に、郵便局の貯金窓口でも使われていたこともあり、一般的な「通称」だったと思うのだが、この呼称を広く使ったのが「鉄道マニア」層だった。そのため、「旅行貯金」と言われると、どうも「鉄」の「臭い」がして嫌だ、という層がいたのも、また事実である。

 そんなこともあって、筆者は主に、一般向けには「郵便局めぐり」と表現しているが、それだと「消印(通信日附印)などを蒐集する層との区別が付かない」という意見もあろう。

 余談だが、そのような「通信日附印」等を蒐集する行為は、切手趣味とも関連が深く、一般的には「郵趣」という言葉で語られることが多い。
 しかし、筆者としては「郵便貯金」改め「ゆうちょ」を利用した「蒐集行動」まで含めて「広義の郵趣」だと思っている。

 流石に旧・簡易保険(現在の「かんぽ生命」の前身)になると、趣味とするには向かないと思うのだが、貯金業務との関連が少なからずあるため(多くの郵便局では、窓口も「郵便」と「貯金・保険」の二つに分けられている)、補完的に利用する場面が考えられなくもない。
 特に「郵政民営化」以後、業務ごとに分社化されたこともあって、一部の郵便局の貯金窓口が「ゆうちょ銀行」の直営店に転換されてしまった。この場合は「××郵便局」ではなく「ゆうちょ銀行××店」(必ずしも××は同じとは限らない)ということになってしまう。
 そのため「××郵便局」としての記録を残そうとする場合に、保険窓口(郵便局に「かんぽ生命」の直営店が入ったケースはなく、郵便局が「代理店」業務を行う形式)での何らかの手続によって「局名」や「局番号(為替貯金取扱局番号とほぼ同義)」を記録することが考えられる。
 元々「為替貯金取扱局番号」と呼ばれていたものは、貯金業務以外にも流用されていることから、現在では「取扱店(局)番号」「局所コード」などとも呼ばれていて(分室の「6桁目」が英字ではなく数字になったりするなど)微妙に異なっていたりもする。
 極端な例としては、東京中央郵便局(01615)や名古屋中央郵便局(21800)のように、歴史的経緯から同居するゆうちょ銀行の本店(01016)や名古屋中央店(21125Fまたは211256)とは全く異なる番号を使用するケースもある。このような場合に「ゆうちょ銀行直営店」ではなく「郵便局」そのものを記録しようとすると、貯金窓口では不可能であり、保険窓口で行わざるを得ない。

 現在の「郵便」「貯金」「保険」の3事業は、元々「郵政省」時代には「郵務局」「貯金局」「簡易保険局」という部局が元締めだった。郵政省には他に「通信政策局」「電気通信局」「放送行政局」があり、本省には大臣官房の他に6つの局があったが、現在は所謂「郵政3事業」は「郵政事業庁」「日本郵政公社」を経て民営化され、通信や放送は「旧・自治省」などとともに「総務省」に統合されている。
 このため筆者は、前述した「通信日附印」や「切手」趣味系のことを「郵務」とか「郵務系」と呼ぶことがある。

■ 100円玉友の会

 筆者がこの趣味を始めて3年ほどが経過した1988(昭和63)年の秋に、当時同じ下宿に住んでいた「瀬戸際の魔術師」氏と筆者の「構想」が一致した。

 その「構想」は、筆者が「全国に2万4千余もある郵便局全てを一人で巡るのは難しいが、何人かで手分けすれば不可能ではない」だろう、というもの。
 これは、初代の「郵貯ラリー協会」代表(故・JR1HHL)からもらった年賀状に、(当時)「1万8千局ほど回りましたが、設置改廃が多くて、一生かかっても全部(回ること)は無理です」と書かれていたことにも影響を受けている。
 実際には、既に現在、全ての郵便局等を巡った人がいることも知ってはいるが、当時と現在では、全国の郵便局の所在や改廃状況を調べる方法や資料に雲泥の差があるため、単純比較することは難しい。
 
 これを瀬戸際氏に伝えたところ、彼も「俺も同じことを考えていた」と言い、「もう名前も考えてある」と言って提示されたのが「100円玉友の会」だった。

 こうして同年10月1日をもって、やはり同じ下宿にいた「テック」氏も加わり、3人で仮発足。1989(昭和64)年の元旦に正式発足となった。ギリギリ「昭和生まれ」の任意団体である。

 こうして、瀬戸際氏を「筆頭総務」(会長相当)とし、テック氏が「書記長」。筆者が「本部長」という肩書でスタートし、その後、数十人規模になった。後に、テック氏は「筆頭総務代理(会長代理相当)」、筆者が「書記長」となって今に至る。
 会はできたものの、瀬戸際氏が「発足にあたって」という稿の中で、「個人プレーのかたまりのような会」と表現したとおり、年会費に相当するものなどもなく、好き勝手に活動してはいるが、恐らく「全員で全国制覇」は達成済みだと思われる。

 なので、30年ほど前、一部の身内向けではあったが、「100円テーリング」という呼称を提唱したことがある。
 お察しの通り、「オリエンテーリング」に引っ掛けた造語である。

 「オリエンテーリング」は、地図を頼りに、野山の中を歩き回り、目標物を探して記録し、一定の制限の中でどれだけの目標物を探し当てたか、を競う競技である。
 同様に、地図を頼りに、街の中から農村部、果ては離島まであらゆる交通手段を駆使して歩き回り、郵便局を探して通帳に預入し、各自のルールの中でどれだけの郵便局等を巡ったか、を競う(別に競わずとも良いのだが、それはオリエンテーリングをはじめとする各種スポーツにも言えることである)趣味である。と言えば、多くの類似点があることがわかる。

 そして、オリエンテーリングにおける目標物のことを「ポスト」と呼ぶ。勿論、偶然の一致ではあるが、ここまで来ると、偶然とはいえ、不思議な「縁」を感じてしまう。

オリエンテーリングの「ポスト」
日本オリエンテーリング協会のサイトから

 この「100円テーリング」という呼称は、筆者が1989(平成元)年5月に、この趣味の愛好家団体「100円玉友の会」の会報「P.S.」の中で提唱したのが最初である。

 この「100円玉友の会」の中で提唱した「100円テーリング」だが、「鉄道マニア」っぽさを払拭しようとした側面があることは否定できない。
 また、鉄道趣味から「距離」を置こうとした訳ではないのだが、この「100円玉友の会」には、少なからず「アマチュア無線技士」の有資格者がいる。初代の「郵貯ラリー協会」代表が、著名なアマチュア無線家だったこともあって、アマチュア無線雑誌に「郵貯めぐり」のコーナーを連載しており、「何故アマチュア無線で郵便貯金?」と思ったが、考えてみれば、ともに所管官庁は「郵政省」なのだ。
 その影響もあり、そもそも「電子情報工学」が専攻だった筆者は、省庁再編で「郵政省」がなくなる前に、と、2000(平成12)年1月に「第二級アマチュア無線技士」の免許を取得した(試験は前年12月)。3級以下は「地方電気通信監理局長(現・地方総合通信局長)」銘の免許証だが、2級以上は「郵政大臣(現・総務大臣)」銘になるのだ。そのためだけに、1分間45字のモールス信号受信をマスターする(しかも一夜漬け)という暴挙に出たのだった。

 そのように、何人かいた有資格者で構成する「社団局(クラブ局)」を申請し、1993(平成5)年の暮れに「JN1ZCT」という呼出符号(コールサイン)が割り当てられた。


総務省の「無線局免許状等情報」検索結果
総務省のサイトで公表されていた免許情報

 これで「郵政省に認知された」と、勝手に言っていた。

 更に、郵政公社時代の2004(平成15)年3月には、会名義の通常貯金口座を開いている。郵便振替口座は、会の発足時にも開設したことがあったが、(少額とはいえ利子が付く可能性もある)通常貯金はハードルが高く、ちょっと面倒な手続きを経ることになった。
 それでも、現在に較べれば難易度は低かったから、その時に作っておいて良かったかと思われる。
 この口座の通帳は、筆者のほか多摩祖五郎氏(100円玉友の会・本部長)、秩父鉱山氏(同・首都圏総局長)、郵ちゃん。氏(同・幹事長)が適宜持ち回り、かつて実施した「郵便局めぐり合宿」(昼間は100円テーリングし、夜は温泉で宴会など)を再び行う際の資金にしよう、という目論見があったが、皆が多忙になって頓挫している。また、通帳を「バトン」代わりにしたイベントを試みたこともあったが、完遂せずに立ち消えになってしまった。
 尤も、通帳の他にキャッシュカードもあるので、同時に2人が別々に預入しながら巡ることも可能であるが、「ゆうちょラリー」などでは「禁じ手」のようにも思える。例えば同じ日に、遠く離れたエリアで同時並行の100円テーリングをすると、通帳記載だけなら「時刻表ミステリー作家」もびっくりな移動をしているように(道北と石垣島で行ったり来たりしているように)見えなくもない。


「JN1ZCT 100円玉友の会」の団体(人格なき社団)名義の口座通帳

 なお、この口座は純粋な団体名義の口座で、口座名義人はあくまでも「100円玉友の会」となっている。代表者名も届け出てはいるが、それは「住所」蘭の最後に「……○○×丁目△-■ ★★方 代表者 ★★ ××」と表示されている。現在は、通帳に住所表示されなくなったので、従来の住所欄(に相当する部分)の下部に「代表者 ★★ ××」とだけ出る。
 似て非なるものに、名義人として「××会 (代表) ○○ △△」という形になっている口座がある。これは、所謂「屋号付」の口座で、「××会」の口座というよりは、その代表者の「○○ △△」さんの口座という位置付け。この場合は「○○ △△」さんに「名寄せ」される(ペイオフ時には合算されるし、ゆうちょの「預入限度額」も合計に適用される)が、メリットとして考えられるのは、同一名義人でも複数の口座の開設の可能性が高い、ということだろうか。この場合は「○○ △△」さんの個人的な資金管理のためではなく、「××会」としての活動のための資金として、区分する必要があるだろう、と考えられるから、銀行も応じてくれる余地があろう。

 とまあ、このように郵政省時代から「当局」には「認知」されている、と公称してきているが、現状、会の活動としては特になく、当初、瀬戸際氏が「予言(懸念?)」したように「個人プレーのかたまり」になっている。
 むしろ、現在では「100円玉友の会」の中心メンバーの多くが、「郵貯ラリー協会」に関わっており、そちらでの活動のほうが中心となりつつある。

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