代替不可

「買い替えようかなぁ、、、」
新機種が発表されるたびに、いつも呟く。
毎回本気で買い替えを検討しているような顔つきで検討する彼に、
「前もそんなこと言ってたよ?」と言うことは控えた。
代わりに「新しいもの好きめ」と呟く私に、聞こえたか聞こえてないか、気にせずな顔つきのままスマホで彼はガジェット情報をスクロールしていく。

「……….おれ、去年も一昨年も、買ってないじゃん」
ワンテンポ遅れてポツリと呟いた。聞こえてたのね。
「わたし、去年も一昨年も、聞いたけどね」
あ〜、言っちゃった。ひっこめたのに。
「あれ、そうだっけ?」スクロールしながら言う。

自営業の彼は休みの日がない。
いつも仕事に追われている。かといって、それを愚痴るようなこともない。
たまにSNSで勢いのある投稿を見ることはあるが
(私はフォローせず、毎回検索してみている、なんとなく。)
私に向ける視線や言動は、だれよりも穏やかだし
だれよりも、フェアで、男だから・女だからとかける言葉を変えずに、「すごいね」「大変そうだね」と本気で声をかけてくれる。

「んで? 気づいちゃったんだ、去年も一昨年も一緒にいるのに何も関係が進展しない自分のヤバさに」
はい、アッサリ。明美がこう言うのは分かっていたのに。心の不安をぶちまけてしまった私のせい。
「あ〜、そんな言い方….武士か!前世武士か!」
「まだ付き合える、いつか結婚できる、なんて思ってないよね?
 首の皮一枚もないよ?もはやアウト、今年28なんだからね?」
「28は関係ないから!てか、首の皮とかやめてよ!イコール死んでるようなもんじゃんか。。。」
「武士とか、生き死にじゃなくて、もう次行きなって言ってんの。」

「重いな〜再起動しても全然マシになんないな…」
貧乏ゆすり、穏やかな彼もさすがにストレスに感じている模様。
「パソコン、買い替え時かもよ?3−4年で買い替え推奨なんだって、メーカー的には。」
ソファで作業する私。手をつけた資料に終わりは見えないけど、別に今終わらなくてもいい。
「はや、3−4年なんてすぐじゃん」
「そう?」
「あっという間だよね?」
「3−4年、毎日その勢いでタイプされたら、誰でももう起動したくなくなるよ、すくなくともエンターキーはもうイヤだろうね」
「イヤなのかな?」
「イヤでしょ、もうやめてぇえ!!って私には聞こえるけどね」
「イヤ?」
「もう一度充電し」
「もっと一緒にいたいって思ってるんだけど」
「ん?」
「俺、3−4年一緒いて、他の人を探したいって思ったことないよ」
「え、えっと」
「ちゃんと言ってなかったけど、結婚を前提に同棲してください。プロジェクト終わってやりきったタイミングなのかなって、ずっとタイミング伺っちゃった」
「伺いすぎ、アホ」

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