月に行こう。
君と二人で月に行こう。心中するなら月がいい。地球はちょっとうるさすぎるし、顔も知らない誰かのSNSのネタになるのはごめんだから。
住んでたアパートも、大学も、何ヶ月か前に行ったご飯屋さんも全部見下ろしながら空を上ろう。二人で宇宙を漂って、地球の方を見て、地球が青いことをこの目で証明しよう。月に着いたら、6分の1になった身体で地球に向かって落ちていこう。月から地球への投身自殺。手を繋いで、抱き合って、落ちているのか上っているのか分からなくなりながら私たちは宇宙服のヘルメットを外してキスをする。酸素のない空気を目一杯吸い込見ながら、私たちの中に残っていた酸素を分け合うように。どうしようもなく苦しくて、でもきっと世界一幸せな最期だね。
だけど私知ってるんだ。ほんとは君は私の隣なんかにはいないってこと。私はひとりぼっちで月まで行って、月にはウサギもかぐや姫もいないんだってことに絶望して、少し安心して、ヘルメットはつけたままで宇宙を落ちていく。大気圏に入って燃えている私は、地球から見たら流れ星に見えるかな。君はその流れ星に、私じゃない誰かとの未来を願うんだろうね。そんなの絶対に叶えてあげない。でももし、万が一にでも君が私のことを願ってくれていたのなら、少し泣いちゃうかも知れないな。
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