幸せ恐怖症

自分はきゅうりが大苦手だったんです。間違って食べてしまうと吐いてしまうぐらい身体が拒絶する。でも味覚障害になってからは、特別な拒絶反応もなく食べられるようになったんですよね。食べ物全般への関心が極限まで薄れてしまうと、好き嫌いもなくなるみたいです。何を食べても苦痛だけど、特定の食べ物への嫌悪感もなくなるから、この状態に順応さえすれば逆に良いかもしれないと思いました。

思春期の過ごし方の影響で、自分の自己防衛本能はそうやってストレスを軽減するために悪い境遇にすぐ順応しようとします。元気だった自分への執着心が強ければ強いほど、現状に対する失望感や焦燥感も強くなるから、自分の中の幸せの基準を調整して楽になる。うつ状態のような耐えなければいけない状態の時のストレスマネジメントとしては非常に優秀ですが、実は健康に悪い側面もあるので問題になるんですよね。なぜなら、自分のQOLを向上させようと思わなくなるからです。結果的には色んな病気の治療の効率を下げてしまったり、色々こじらせてしまう傾向にあるというのもまた事実なので、数十年のスパンで見ると本当に良いストレスマネジメントかと言われれば、そうじゃないかも知れないんです。

ただ、自分に根深く刻まれてしまったこの自己防衛プログラムは、カウンセリングで分析が可能になったとはいえ、変わるまではなかなか至れませんでした。その原因には、この性格のせいで現状への危機感が湧きにくいというのもあるし、それ以外のサバイバルスキルを自分はまだ知らないからです。良く言えば現状維持、悪く言えば停滞状態。

しかし、予想もせずに、そんな滞りを揺るがす出会いがあったんです。自分の基準では当たり前だと思ってた不幸をあの方が喚いてくれたり、楽になるために殺してた感情に気付かせてくれたり、長らく乖離で見失った自分自身を見付けてくれたり、あの方はたった数ヶ月で数々の奇跡を起こされたんです。あの時は本当にもしかして、生きたいと思ってもいいかも知れない、と思える寸前まで行ったんです。

ただ、お互い精神未熟者同士なのもあり、その後はお互いが自分自身を追い詰めてしまう関係にどんどん歯車が狂い出していきました。誰にも悪気はなく、トラウマだらけの生き物なばかりに、乗り越えられない壁ができてしまったんです。あの方と絶縁してから、悪い境遇への順応力を手放してしまった自分は、幸せな記憶への執着心で酷く苦しめられました。感情のコントロールもうつ状態の忍耐力も全部ほぼゼロからまた再構築しなければいけなくて、自分の中の虚無とまた仲良くなるのに数ヶ月苦労しました。

そしてギリギリ生き延びた数ヶ月後、また改めて自分の自己防衛プログラムが更に強化された状態(ある種のバグ)で再構築され、精神の安定を取り戻しました。感情爆発を起こす事もなくなって、不眠症や悪夢も改善され、離人症などの重い解離症状もなくなりました。優しくて温かい方々のお陰で自尊心も戻りました。(本当に感謝してもしきれないです。)

それで数日前に、初めてそのバグを発見しました。自分はどうやら、「幸せ恐怖症」になってしまったんです。

今の自分の自己防衛システムには、何かに対して強い執着心があればあるほど、最悪な状態を予想して、それに順応するようにプログラムされています。昔からそのような傾向はあったんですが、それが一層強くなった感じです。あまり執着心のない、もし叶わなくてもさほどダメージを受けないような、小さな願いたちは許されます。が、自分の本質に近い願いほど、警戒対象になってしまいます。数日前に、予想外にそのうちの念願が一つ叶って、発作を起こしたのです。

他人の幸せは喜べますが、自分が幸福を感じると、それを超えてしまうぐらい恐怖も同時に感じてしまいます。最悪な状態のためには心を準備してきたけど、自分の念願が叶った展開には全く心の準備ができていなかった。嬉しい事のはずなのに、発作が起こされてしまいます。どんだけ贅沢な恐怖症やねん、ともう一人の自分には厳しい皮肉を言われたが、数カ月ぶりにメンタルブレイクしました。自分の基盤を見失った感覚に近いかもしれません。ただただどうしようもなく怖くて、不安でおかしくなりそうでした。

今は、こういう事もあるんだなぁと、新感覚のメンタルブレイクだったなぁ(笑)と、なんとか、今の自分には順応力が付いているので、だんだんまた落ち着いてこれました。やっぱり最悪な状態を予想して覚悟を決める事で未来が分かる気持ちになってはよくないんだなぁと、今回の件で思い知らされました。これも一つの学びです。

幸せの基準をきゅうりが食べれる状態に置くのか、それともきゅうりが苦手な自分に戻るのか。明日がどうなっても、今への感謝を忘れずに受け入れられるように1つずつ丁寧に行動する事を心がけています。またいい人を演じてるかもしれませんが、いつか真実になれたらいいなとは思ってます。

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