定型人解体①

 私は現在心療内科に通院しており、休職中の身である。診断名は心身症で、投薬治療も受けている。今月で休職して13ヶ月目になる。それなりに長く休んでいると「自分はなぜこんなにも生きづらいのか?」について思いを巡らせ、自分なりにその原因について思案してしまう。その中で私は一つの考えにたどり着いた。「この生きづらいのってもしかしたら発達障害じゃね?」という現代人が陥りがち(?)な妄想である。タイトルにもある通り(結論から言えば)私は発達障害ではなく定型発達であり、この疑問は某香山リカならば鼻で笑うような妄想といっても過言ではないのだが、その時の私は本気だった、というか生きづらさのあまりそこまで自分で自分を追い詰めていたのだ。そして思い詰めた私はかかりつけの心療内科で心理検査を受けたいと主治医とカウンセラーに申し出たのである。以下に記すのは1人の定型発達が心理検査を受け、「お前は発達障害ではないです」の結果を受け取り、その中身を知り、自分という人間を客観的な情報をもとに見つめ直した諸々の自分語りである。

 某日、私はカウンセリングの中でカウンセラー(以下ジョンと呼ぶ、理由は見た目がジョンっぽいからである。)に「発達障害の検査って受けられますか?」と切り出した。ジョンからしてみれば「あー、またこういう人ね。」だったかもしれない。だが当時の私は本気で自身が発達障害ではないかと疑っており、その理由を並べ立てた。今思い出してもめちゃくちゃ恥ずかしい。忘れっぽさや注意散漫さ、先延ばしの癖や対人関係の難しさ、これまで人生において困った出来事など、あれこれ例を挙げて説明したと思う。ジョンはいつも通り冷静に私の話を傾聴し、発達障害かどうかを確かめるために心理検査が受けられること、また心理検査は性格の特徴について色々なことがわかり、今後の生き方について考えるヒントにもなり得ることについて説明してくれた。私は心理検査を受けることを了承したが、ここからが大変だった。

 まずジョンは検査が可能な日を私に伝え、私はその日をワクワクしながら待った。なぜならば私は職業柄普段は検査者側の人間であり、机上検査の被験者になったことが一度もなかったからである。早く発達障害の有無を知りたいという気持ちも相まって私の期待は気球のごとく膨らんだ。しかし検査日の数日前に悲劇が起こる。ジョンが体調不良になったため検査日を遅らせるという電話が来たのである。ジョンには申し訳ないが私はがっかりした。これまでの経験を総動員させて超協力的な被験者になるイメトレまでしていた私は泣きそうになった。しかしながら私もいい大人である。そうですか、わかりましたとつとめて冷静に電話を切った。そして新たな検査日までの数週間、私は心理検査の名前を検索したり、心理検査を受けた人のブログを漁るなどして虚しく過ごした。Twitterのスペースではフォロワーに「お前は発達障害ではなく無能な健常者だと言われたらどうしよう」と話し、発達障害当事者のフォロワーから「きっと発達障害だから大丈夫だよ!」という謎の励ましを受けた。

 そして数週間が経過し、いよいよ新しい検査日が目前となったある日、心療内科からの着信を見て私は嫌な予感を感じとった。これアカンやつや。私は震えながら電話に出た。ジョンに不幸事があったらしい。気分はもう身内のお通夜である。事務員が淡々と次の検査日を私に告げる。その時自分が着ているワンピースが喪服に見えた。坊主を呼べ。経をあげろ。木魚を叩け。ここまでの文章を読んでいる人は私が他人の都合も考えられない自己中心的な人間だと思うかもしれないが、これからの人生を左右するかもしれないイベントが2回も先延ばしにされる苦痛を想像してみてほしい。ジョンは確かに気の毒だし私もそれは重々承知の上だが、正直2回の延期を食らった私も相当つらいのである。スケジュール帳に書かれた検査日の文字にバツをつけ、新たな検査日を書き込んだ。ストレスと自己嫌悪でいっぱいになった暇人の私はスマホで「心理検査 延期 つらい」で検索をしながら過ごした。スペースでは相変わらずフォロワーから「きっと発達障害だから大丈夫だよ!」と励まされた。発達障害だから大丈夫ってなんやねん。(ちなみにこの発言に対して怒ったり傷ついたりはしていない。当事者ならではのジョークとして面白く受け取っている。)

 そして新たに新たを重ねた検査日の前日がやってきた。この日は無宗教の私もさすがに神に祈った。どうか再々延期の電話が来ませんように。ジョンが超元気で身内の誰も怪我したり死んだりしませんように。そして何より被験者である私にも何事も起こりませんように。そしてその日は私の祈りが届いたのか電話は来なかった。当日の朝も電話は来なかった。ついに待ち望んだ機会の到来である。私はお気に入りのワンピースに身を包み、車を走らせた。心療内科に到着しジョンの顔を見た時は安心でその場に倒れるかと思った。ついに待ちに待った心理検査が幕を開けた。(ちなみにジョンには2回延期になったことをめちゃくちゃ謝られた)

定型人解体②に続く

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