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【作家による見どころ解説!】舞台『怪獣は襲ってくれない』【8/30開幕】

●はじめに

(左から)新谷ゆづみ・小林桃子・葉月ひまり


8月30日から、新宿シアタートップスで開幕する
舞台『怪獣は襲ってくれない』

わたくし岡本昌也が、作・演出を勤めています。

この舞台は題材・企画形態・キャストに至るまで、ぼくが知るかぎり、日本ではかなり珍しい形の作品です。

この企画が成立していること自体が結構、奇跡なのですが、最終稽古を終え、これはどうしても見て欲しいと強く思いましたので、5日間しかない公演期間の中で、できるだけ多くの方に届けたいと思って筆を取りました。

改めて、ご観劇予定の皆様はもちろん、気になってるけどチケット代が高くて観劇を迷っている方や、企画自体知らなかったよ!という方に向けて作品や企画の魅力をお伝えすべく、文章をしたためました。とにかくすごい企画なんです。

では、どうすごいのか、具体的に書いていきます!

●題材

まずは、この作品のあらすじを物語のネタバレがない程度に書いてみました。
※こちらは初公開の物語の情報も含まれます。

2021年5月1日。15歳の少女「こっこ」は、推しのホスト「虎之助」からのDMをきっかけに田舎の街からひとり電車を乗り継いで、新宿・歌舞伎町にやってきた。
こっこは路上で14歳の少年「夢露」に出会う。夢露は歌舞伎町にたむろする「トー横キッズ」の一人だった。
夢露を介して、トー横の人気者「にゃんぎまり」や、はぐれものの「にぃとぽん」、キッズにサンドイッチを配る謎の男「ゼウス」たち歌舞伎町の住人と関わっていくうち、歌舞伎町に自身の居場所を見出しはじめたこっこだったが、行くあてはない。
中年の男「塩田」に声をかけられ、こっこは夜の路地裏に消えていくのだった。一方、トー横を問題視する子ども支援団体の「畑中」は、街にたむろうキッズたちの声を直接聞こうと歌舞伎町へ赴きはじめたが…


そう、今回の題材はズバリ「トー横キッズ」です。
トー横キッズとは何か? 
シンプルにグーグルで検索してみると…

トー横キッズ(トーよこキッズ)とは、新宿の高層ビル周辺の路地裏(新宿東宝ビルの横=トー横)でたむろをする若者の集団のことである。

Google


とあります。
だいぶざっくりしてんな、と思ったのですが、トー横を取り巻く状況は現在も刻一刻と変わっていますので、しかたがないかもしれません。

数年前から歌舞伎町の路地裏に集まりはじめた彼らは、社会(家庭や学校)に「自らの居場所を見出すことができない子どもたち」と報じられることが多いようです。

いまでは地方などから「トー横へ行きたい」と、仲間入りすることを目的に歌舞伎町へ訪れる子どもたちも増えています。売春をはじめとする様々な犯罪や、子どもたちの自殺などの事件が増え始めて、2018年ごろから本格的に社会問題としてメディアに取り上げられるようになりました。

ほんの2週間前、8月16日にも『路上が居場所の子どもたち』というタイトルでNHKのジャーナルクロスでも取り上げられていました。


そんな「現代社会の暗部」として語られがちなトー横ですが、同時に、トー横キッズたちは「地雷系・量産型」や「ぴえん系」と呼ばれる独自の世界観を持ち、ガーリーなファッションに身を包んでダンスを踊ったり、SNSで自撮りをあげて交流しあったり、一種の若者カルチャーのムーブメントを作り出しています。子どもたちの置かれている社会的な孤立のイメージに反して、彼らの文化は歌舞伎町らしくて、新しくて、とにかく華やかなんです。

「病み可愛い」「ゆめかわいい」などの独特な美的感覚は、若者を中心に全国区へ広がり、TikTokなどのSNSで見かけない日は無くなりました。現在では100円均一ショップやドンキホーテなどでも地雷系グッズがすぐに手に入るくらい、カルチャーが相当に一般化されている印象です。ドンキホーテのキャラクターをあしらった、「ドンペンコーデ」なるものなんかも流行しています。

……そんな清濁併せ吞む街、歌舞伎町で生きる明るくて暗い「トー横キッズ」たちを真っ向から描いているのが舞台『怪獣は襲ってくれない』です。

エンターテイメントとして誰もが受け取りやすい形にデザインしつつ、同時に社会の暗部を残酷なほどのリアリティで映し出す舞台。

この作品は、事実だけを映し出したジャーナリズムよりも克明に、現実社会の本質を表現することを目的としています。佐々木チワワさんをはじめとする歌舞伎町の社会学を研究されている有識者や、子どもたち本人への取材を元にして、改めてフィクションとして執筆しました。

日本の若者のSNSカルチャー・ファッションを鮮やかに描きながら、彼らが晒されているあらゆるセンシティブな問題を真っ向から取り扱うことで、日本の社会が抱える歪んだ人権意識を炙り出すことができればと思っています。令和を生きる私たち、ひとりひとりに関係する物語になっていると思います。

私は芸術がときに現実を、現実よりも克明に描き出す瞬間を信じています。芸術ならば、彼らの存在という「現実」を、ニュースの語る「事実」から、生身の「真実」に変えられる。そう信じているからこそ、この作品を書いたのでした。彼らが存在していること、彼らの声が無視され続けていることに気がついてしまったのならば、作家として、ひとりの人間として彼らを描きたい、それは当然の欲求でした。

新聞記者でも社会学者でもYouTuberでもないひとりの作家が、歌舞伎町をほっつき歩いて彼らと出会い『怪獣は襲ってくれない』という作品が生まれた。芸術が「不要不急」とされる国のすみっこで、私が彼らと目が合うのは必然だったのかもしれません。これはいわば、歌舞伎町が生んだ作品でもあるのです。

●企画について

再演の実現

さて、題材のドキュメンタリー性ももちろんですが、今作は演劇公演としての枠組みを超えた多様なジャンルの交流も大きな魅力のひとつです。ご紹介していきます。

まず、主催は映像プロダクションのAOI Pro.です。
最近では是枝監督の『怪物』なども製作されています。

ふつう、企業がプロデュースする演劇公演といえば、やはり2.5次元系や有名俳優の出演するエンターテイメント舞台という印象が強く、今作のような社会問題を扱ったストレートプレイの演劇、あえて言うならば、今回のような「小さな規模の演劇」を企業が主催するというのは珍しいと思います。

しかも、いわゆる「冠公演」や「買取公演」ではない形で、作品の責任をほとんど作家の岡本が負い、企画の責任をAOI Pro.の少数精鋭のプロデューサーが負う、手弁当の企画。劇作のほか、宣伝ビジュアルの一部や広報なども岡本が担当したりと、いままでの自主企画の延長線上で行っている公演なのです。日本の小劇場では、非常に珍しい形態だと思います。

初演が終わってすぐ、こんなツイートをしていたら、本当に叶っちゃった。

では、なぜ今回、そんな珍しいことが起こったのか。
それは「この作品を発表する意義を、AOI Proのとあるプロデューサーが見出してくれたから」本当にそれだけの、シンプルな理由です。

『怪獣は襲ってくれない』は、実は、昨年の5月に1時間版の初演がありました。西荻窪にある「遊空間がざびぃ」という40席の小さなギャラリーで上演されました。それを見たプロデューサーからすぐに連絡があり、「新宿で再演しましょう!」と力強く提案してくれたのです。今回の再演は、『怪獣は襲ってくれない』という作品を、より多くの人に届けたいという作り手たちの純粋な欲求によって実現したのです。

初演から登場するキャラクターは10人に増え、ボリュームも100分に拡大し、規模も大きくなりました。しかし、物語の芯はそのまま、伝えたいことはブレないように作りました。蓋を開けてみないと面白いかどうかわからない「舞台」という芸術。しかし、こういった形で再演が実現しているということ自体が、この作品の良さの一部を保証しているとぼくは思います。

映画用に書き直した脚本が今年、NHKが主催するサンダンス・インスティチュート/NHK賞の推薦作品に選出されていることも、同じく作品の価値を保証してくれています。

とにかく、自分で言うのもなんですが、折り紙付きってわけなのです。笑
好き嫌いはどんな作品にもきっとあると思いますが、小劇場演劇にしてはすこし高価なチケット代以上の品質は保証しますヨ!

多様なジャンルの交流

さらに、そんな奇跡の再演を実現したこの企画は、「総合芸術」と称される演劇の醍醐味ともいえる「多様なジャンルの交流」も大きな魅力です。

やっぱりなんと言っても、衣裳!
衣裳を担当するのは、原宿を中心に若者ファッションの第一線を走る新進気鋭のファッションブランドyushokobayashiが担当してくれます。

最近では、あのちゃんやaikoさんも着用していたり、とっても人気のブランドです。

yushokobayashiのファッションは手作業による独立したクリエイション形態を確立していて、間違いなくこれからの時代を牽引していくブランド。新たな流行を生み出しながらも「生活」という人類のレガシーへの眼差しも決して忘れないところが、本当に大好き。

個人的に、yushokobayashiの服には、かわいさの中に、いつでも「生と死」というテーマがあると思っていて、どうしても今作の衣裳をお願いしたかったのです。

「地雷系・量産型」ファッションムーブメントを再解釈し、yushokobayashiのスタイルに落とし込んで創り出された衣裳は、この物語に欠かせないポイント。普段から生活に根差しながら美しいものを追求している、つまり、ちゃんと「みんなが欲しくて、毎日着れて、それでいて美しい」を成立させているyushokobayashiが、舞台で「魅せる」ために服を作るとここまでダイナミックな造形になるんだと鳥肌が立ちました。

衣裳をすこしだけ

地雷系・量産型ファッションへの愛と批評性に満ちていて、洋服が物語る瞬間がいくつもあります。ぜひ劇場で目撃してほしいです。


次にご紹介するのは、ビジュアルを担当してくださった画家のescocseさん!

『怪獣は襲ってくれない』アザービジュアル

エスコさんとよみます。
escocseさんの描く人物の表情を、どうしても『怪獣は襲ってくれない』の顔にしたかった。ここで、escocseさんに今回のお仕事をご依頼する時に岡本が綴ったお手紙をすこし、お見せします。

はじめまして。演劇作家の岡本昌也と申します。
この度は依頼を前向きにご検討くださいまして本当にありがとうございます。

以前より、SNS等でescocseさまの作品を拝見しており、その繊細なタッチで描かれるアンニュイな表情の人物画に大変感銘を受けておりました。

『怪獣は襲ってくれない』という演劇は「トー横キッズ」と呼ばれる新宿・歌舞伎町にたむろする少年少女を題材にした作品です。
センセーショナルな題材ではあるのですが、地に足をつけてリサーチし、10代の若者たちの揺れ動く感情の機微を丁寧に描きたいと思っています。

escocseさまの描かれる、心のうちにたくさんの感情を抱えたような表情の人物。孤独を抱えた若者が友達と別れたあと、一人でふと立ち止まるときに見せる儚い表情のようで、今作で描く少年少女たちの心情にぴったりの絵画だと思っています。

とくに、モノクロの(鉛筆?でしょうか?)で描かれた人物が、イメージとしてはすごくマッチしていて、添付させていただいた作品のような「本当にただ、遠くをみている幼い子」といいますか、シンプルかつ、複雑な感情を含ませた表情の作品をお願いできないかと考えております。
今作は「歌舞伎町」であったり「トー横キッズ」であったりのディテールは、実はそんなに重要ではないかなと思っていて、焦点を当てたいのは「人生を希薄に捉えてしまう10代の刹那的な心情」です。
作品を見た後に、もう一度絵画をみると、登場人物たちが「あの時、何を考えていたんだろう?」「こんな表情をしていた瞬間もあったのかな」と、読後感を誘発するような力、とにかくひとことでは表せない魅力がescocseさまの絵画にはあって、ぜひともこの演劇作品の顔にさせていただきたいと強く思っています。

escocseさんはこのお願いを快諾してくれて、めちゃくちゃびっくりしたんですが、結局なんと、台本を読んで登場するキャラクター10人全員の表情を書いてくださいました。

キャラクターひとりひとりに物語がある舞台。この絵も作品の大切な一部です。観劇後、もういちどescocseさんの絵に描かれたキャラクターの表情に出会い直してみてください。より、深く登場人物たちに想いを馳せられることと思います。

そして最後にご紹介するのはライターの佐々木チワワさん。

これはチワワさんではなく、歌舞伎町の綾波レイです。
色々危なかった。

チワワさんは自らのアクションリサーチによって「歌舞伎町の社会学」を研究する現役大学生のライターさんです。

執筆に際して、より歌舞伎町に深くコミットしているチワワさんへの取材は必須でした。取材時に見せていただいた「ストゼロを置いて、アスファルトの上で宿題をするトー横キッズの写真」をもとに書いたシーンもあります。

実は、初めて取材させていただいた時になんと、チワワさんの解説付きで、歌舞伎町の主要なポイントをツアーしていただいたんです。
トー横、広場、大久保公園、ホストクラブ街…チワワさんが体験されてきた様々なエピソードを聞きながら実際に街を歩いたあの日の体験は、稽古場で俳優の皆様にこの街のイメージを伝える時には欠かせないものになりました。

ご本人も大変クレバーな方で、歌舞伎町への愛とこの街の持つ暖かさと残酷さについて肌感覚レベルで熟知されていて、チワワさん本人から「歌舞伎町の住人」の圧倒的なアウラを感じます。

著書の『ぴえんという病 SNS世代の消費と承認』『歌舞伎町モラトリアム』が絶賛発売中です。とくに、「ぴえんという病」はこの作品の資料として大変参考にさせていただいております。読んでから観ると、観てから読むと、この劇の世界観をより深く理解できるはず。ぜひご購入ください。


●キャストについて


そして、最後にキャストのお話を。
舞台俳優、声優、映画俳優、各領域からの粒揃いなキャスト陣、それぞれの魅力が存分に見えるのがこの舞台。全員が素晴らしい演技で『怪獣は襲ってくれない』の世界を鮮やかに生きています。

まさに十人十色。
一口では言えないほど魅力あふれる10人で、見どころ、魅力、好きなところを話し始めると本当に何時間でも語れてしまうので、ここではひとりにひとつずつ、演出家のぼくから見た「推しポイント」を書いてみました。


新谷ゆづみさん

こっこ役


新谷さんのお芝居にはテクニックもありながら、役の心象を「これでもか」というほど深くまで掘り下げる集中力があるんです。最終通しでの新谷さんのある演技に、演出席で本気で泣きそうになりました。普段は冷静に舞台を演出していくタイプなので、初めての体験で驚きました。「この人の感情に、嘘はない」と信じられる俳優さん。主人公「こっこ」の抱える純粋な眼の奥に抱えた怒りと傷を一身に引き受けて、舞台上で演じる姿をどうか焼き付けてほしいです。

葉月ひまりさん

夢露役

舞台はよく、大切なものの順序として「いちに声、にに仕草、さんに顔」と言われるほど、声が重要な表現なのですが、葉月さんは声優活動もされているのもあって、声の演技がピカイチです。それでいて身体も利くし、舞台上での魅せ方をすごく理解されています。夢露のことをとっても可愛がってくれていて、荒々しい夢露の本当の感情を表現する時は、思い切って技術を捨てて、魂でぶつかってくれる。そんなガッツが大好きな俳優さん。


小林桃子さん

にゃんぎまり役

シンプルに、天才。見ればわかる……と言いたいところですが、ちゃんと魅力の言語化を試みます。小林さんは、小林さん自身の持っている感性がそのまま役人物になっていくという珍しいタイプの俳優さんだと思います。脚本を書いている時のイメージを発想や演技のアプローチで軽々と超えてくる。小林さんのアイデアを採用したシーンもたくさんあります。そんな異能を持ちながらも、実は一番役に近づきたいと思っている努力家でもあります。でも舞台上ではきっと、そんな努力なんてまったく見えないくらい自然体でいるのだろうな。それもまた、彼女の凄みです。

遊屋慎太郎さん

ゼウス役

ずっとご一緒したかった俳優さん。4年前にワークショップで出会い、そこから出演されているさまざまな舞台・映画作品を見てただただファンに。なにが魅力って、ほんとにねー、もうねー(オタクになっちゃう)いい意味でずっと「存在が曖昧」なんです。笑
常にひとつの言葉に6通りくらいの解釈の余地を残す、発話。制御されながらも常に揺らいでいる身体。舞台上で脱力した状態で、生きた言葉を吐ける、稀有な俳優さんだと思います。それと、遊屋さんファンとして忖度なしでいいますが、今回のゼウス役はベスト・オブ・遊屋さんだと思っております。


細井じゅんさん

虎之助役

初演でも異彩を放っていた、大好きな細井さん。コンプソンズに所属されていて、作家の金子鈴幸さんから初演の演技を「根拠のない身体性がすごかった」と評価いただき、深く納得しました。今回も圧倒的な根拠のなさを存分にぶんまわしていただいております。どんなに物語が佳境でも、空気が重たくても、細井さんが登場すると一気に「100エーカーの森」くらいほんわかする。すごい才能だと思います。歌舞伎町の清濁を描くには絶対に彼の存在が必要でした。


坪根悠仁さん

にぃとぽん役

初舞台とは思えない、力強さと舞台にかける想い、演技に向き合う姿勢。本当に尊敬できる俳優さんです。ぐんぐん成長を見せ、いまでは完全に舞台の表現技法を会得してしまいました。とても運動神経がよくって、身体表現に関しては座組み随一と思います。ちょっとした動きで役の感情の機微を表現したり、シーンの流れを作り出したり、「ほんとに初舞台ですか?」という感じ! あと、稽古場で一瞬マスクを外した瞬間に、顔が良すぎて稽古がいったん止まりました。笑

未来さん

畑中朔子役

カムカムミニキーナ所属の俳優さん。
未来さんの、抜群に安定した演技力と繊細な表現が作品を幾重にも重層なものにさせています。
百戦錬磨の経験を生かし、冷静に自分の表現を客観視しながら、それでいて守りに入らない。新しい解釈をどんどんシーンに持ち込んでいくチャレンジ精神も魅力です。トー横キッズを取り巻く大人たちのひとりである「畑中朔子」は、稽古を進めていくにつれ、未来さんが演じなければ出なかったであろう葛藤を帯び始めて、最終的にこの作品の核を担う人物となりました。



伊藤泰三さん

塩田役

伊藤泰三、新宿に上陸です。この劇、どうしても伊藤泰三さんが出演してほしかったんです。泰三さんとは京都で出会いました。京都演劇界では既にその卓越した演技力と演劇界随一の不気味な身体性に魅せられた、隠れファンも多い怪優。アンダーグラウンドで芝居を追求し異才を発揮してきた俳優と、明るい場所を求めて羽ばたいていく新鋭の俳優は、なぜか勝手に棲み分けちゃうものなのですが、その時空を歪ませ、泰三さんの出演が叶ったこの作品はひとつ、大きな偉業を達成したんだと思っています。どうか皆様、知ってください。

雛野あきさん

ことり役

ぼくの元所属劇団「安住の地」の俳優です。なんども一緒に作品を作ってきましたが、彼女の持つ魅力は、なんというか、説明しにくいんです。笑 とにかく不可思議。存在感がないようで、ある。地を揺るがすほど力強いかと思うと、切れてしまいそうな糸のように繊細だったりする。でもその「不安定であること」が、彼女の最大の魅力だと思っています。人間はだれしも不安定です。でも、人間を演じようとするとどうしても「安定」を求めてしまう。でもきちんと「ブレられる」。環境に影響を受けられる俳優さんが雛野さんだと思います。


波多野比奈さん

ヤミ姫ちゃん役

芯。ぶれなさ。雛野さんとは対称的に、表現をまっすぐに貫通させる力をもった俳優さんが、波多野さんです。「表現をまっすぐストレートに投げ切る」って意外と難しくって、多層的に変化球を投げてみたり、答えが見つかってないと、ふわっと中途半端にさせて観客に解釈を委ねてしまったり、小細工をしてしまいそうになりますが、波多野さんはそういうことは絶対にしない。明確に、まっすぐ投げる。答えがなくても思いっきりまっすぐ、ファウルボールを投げてくれるので、劇が活気づくんです。きっと客席にもズバンと思い切った演技を投げてくれることでしょう!

●最後に

ここまで、舞台『怪獣は襲ってくれない』の魅力について語りましたが、本当にほんの一部です。あとは実際に劇場で体験いただければと思います。

異なる「界隈」に生きるあなたと私と彼らとが、『怪獣は襲ってくれない』という橋を渡って出会うこと。それがきっと、この作品のいちばんの意味なんだと思うのです。立場は違えど劇場で、あなたと出会い同じ時間を過ごせることがまずはシンプルに嬉しいです。

ご来場、心よりお待ちしています。
最後になりますが、今回の舞台に携わってくださったキャスト・スタッフの皆様、創作を併走してくれたファッションブランドyushokobayashi、歌舞伎町についての取材に多大なる協力をしていただいた佐々木チワワさん、メインビジュアルを手がけてくださったescocseさん、この稀有で、素晴らしい企画の成立に尽力してくださったAOI Pro.プロデューサー陣に感謝申し上げます。

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