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Especiaから見る”Vaporwave”論

※このテキストは無料で全文読めます。


■ IntroのIntro

これは2014年1月7日にtumblrにアップしたレポートを編集したものです。

アイドルグループEspeciaがリリースしたシングルに、新世代の音楽ジャンル”Vaporwave”を感じたので、”Vaporwave”について自分なりに整理したものです。

Especia(エスペシア)は 、大阪堀江を中心に活動する2012年に結成されたガールズグループです。
先月5月28日に1stアルバムとなる"GUSTO"がリリースされました。アイドルグループのアルバムに関わらずほとんどボーカル無しの楽曲(過去作のremix)やintro、outro、ほぼ全編に渡ってミドル~スローテンポでメロウな楽曲。個人的には9曲目~11曲目の流れが気持ち良すぎて最高です。

Especia - くるかな

"GUSTO"リリースを記念して、自分のレポートを再掲することとしましたのでお楽しみください。


■ Intro

2013年12月26日に一本のMVがドロップされた。
アイドルグループEspeciaが1月8日にリリースする2ndシングルの2曲目"アバンチュールは銀色に"だ。

Especia - アバンチュールは銀色に

このvideoは一部のギーク達を歓喜させた。
煙の様にその実態を掴めない謎の音楽ジャンル”Vaporwave”感に溢れ楽曲にvideo。既に死んだはずのジャンルであり、そもそもアンダーグラウンドでしか存在し得なかった”Vaporwave”が、突如オーバーグランドに投下されたのだ。アイドルカルチャーを(所謂”J-POP”としてでなく)音楽カルチャーに衝突させた戦犯は誰か。それについては別途触れることとし、今回はこの謎のジャンル”Vaporwave”について整理してみる。

■ “Vaporwave” is…?

そもそも”Vaporwave”とは何か。
thumpの記事に素晴らしい解説があるので次のとおり引用する。

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According to commenters in various music forums, it’s “chillwave for Marxists,” “post-elevator music,” “corporate smooth jazz Windows 95 pop,” and (my personal favorite) “better than that witch house shit.”To put it another way, imagine taking bits of 80’s Muzak, late-night infomercials, smooth jazz, and that tinny tune receptionists play when theyput you on hold, then chopping that up, pitching it down, and scrambling it to the point where you’ve got saxophone goo dripping out of a cheap plastic valve. That’s Vaporwave.
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なお、具体的な手法は次のとおりである。
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Vaporwave often consists of brief sketches altered by slowing down, looping, glitching, pitch-bending, and/or echoing a particular sound or sample in a compressed state, usually under reverberation.
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つまり、ローカル局のテレビ番組やショッピングモール(それも人気の少ない)にあるフードコート等で流れてる様なBGM(“イトーヨーカドー感な曲”や”カラオケ音色の曲”と言っても良い)をカット・アップしたりピッチ・ダウン、スクリューなんかでグッチャグチャのドロドロにしたものである(前述の記事で触れているマルクス主義だとか資本主義への反駁なんかはこの際どうでも良い)。ポイントは、Excite翻訳したような継ぎ接ぎだらけのおかしな日本語の名称や、80年代の雑誌・チラシ、CM、初代PSの様な荒い3Dポリゴン等々をコラージュしたビジュアルを兼ねそろえていることであり、その発案が日本国外のアーティストであるという点である(※実は日本人が発案なんじゃないか説あり)。これらの一種の気持ち悪いチープさとケオティックさに我々ギークは強烈なノスタルジーを感じざるを得ない。この音楽供給過多の時代に何週も何週も周った挙句たどり着いた境地である。

詳しくは、音楽メディアであるele-kingキープ・クール・フール、又はHi-Hiwhoopee等の記事を一通り読めば何となく理解することが出来るだろう。また、今月10日に発売されるカルチャーマガジン「MASSAGE」#9に、近年のインターネットミュージックシーンの歴史及びディスクガイドが掲載されているので参照していただきたい。

■ “Vaporwave” is dead(Ready to die)

さて、「”Vaporwave”は死んだ」と言われてから早1年以上が経つ。
2011年のMACHINTOSH PLUS"FLORAL SHOPPE"、2012年の、情報デスクVIRTUAL"札幌コンテンポラリー"、(共にポートランド出身の女性の変名)、同じく2012年の、░▒▓新しいデラックスライフ▓▒░ "▣世界から解放され▣"等のドロップから始まった”Vaporwave”。

その過去からの引用によるノスタルジーさに誰しもが魅かれたが、同時にそのファッション的ミームはあくまでも一過性のものであることを皆知っていたのだ。事実、仕掛け人であるInternet club(先の░▒▓新しいデラックスライフ▓▒░ はInternet clubの変名)はすぐにその名義での活動を止めてしまう。 一時期、何枚ものリリースが毎日あった”Vaporwave”も、その頃から緩やかな下降線を描いていくこととなった。

■ Life after deathからのBorn Again?

ところが、下降線を描いていった”Vaporwave”も決して途絶えることはなかった。むしろ”Vaporwave”を派生させ”Vaporboogie”を作り上げたSAINT PEPSIの"Hit Vibes"は素晴らしく、2013年のベストの一つに上げるメディアも多かった。

“Vaporwave”はBiggieの如くBorn Againしたのか?

一方、こんな見方もある。
NSN(Justin Bieberから命名するセンスは流石)では、"Vaporwave"は既に死んでいる音楽であるが故に死なないと言っている。 

前述した”Vaporwave”の代表アーティストのMACHINTOSH PLUSは1992年生まれ、Internetclub(それにしても両者とも酷い名前だ)にいたっては1996年生まれだ。 彼らはノスタルジーを想起させる音楽を意図的に創作しているわけではない。Internetclubはインタビューで「ノスタルジックなアイデアは元々なかった」と一蹴している。結局、like a zombie状態のソレに我々は踊らされた挙句、勝手に盛り上がっているだけ、というのがこのシーンの現状だ。その名のとおり”vapor”=蒸気の様に煙に巻かれてしまうのである。

Youtube等各種動画サイトの発展により過去の音楽は過去でなくなった。アーティスト・リスナー共にその数多の音楽全ての「存在をあるがままに前向きに肯定し、受け入れる」ことで「時間は前後関係を断ち放たれて、その時、その場が異様に明るく感じられます」の状態となった。タモリが述べた赤塚不二夫イズムである。

タモリ - 赤塚不二夫に向けた弔辞

その過去でなくなった過去のカルチャーの引用はその体をなしていない(=死んでいる)と言っても過言ではない。

■ I Really Want to Show You

ここまで考えて見て思うところは、”Vaporwave”は究極の内輪ネタなんじゃないか、ということ。情報過多の昨今、日夜、ギーク達は未知の音楽を漁ってはあーだこーだ語り、「俺は分かってるぜ」と唱えている。"Vaporwave"はそんなスノッブ達のアイテムに過ぎないのだ。

で、最初に戻ると、アイドルグループであるEspeciaがそんな内輪にしか分からないものをオーバーグランドに投下したのだ。これは一大事だ。
鬼が出るか蛇が出るか誰も予測がつかない。現在、各種メディアはこの行為を賞賛しているようだが、はたしてそう上手くいくのだろうか。

同じくアイドルグループのBiSは何だかんだで軌道に乗っていた思える(本当に解散するの?)。当初、SEEDA&OKIとTERIYAKI BOYZとのビーフを模して(なおリリックはDEV LARGE vs K DUB SHINEのパロ)RAU DEFにビーフを仕掛けたりと完全な内輪ネタで名前を挙げていった(しかもRAU DEFに圧勝するという何とも言えない結果に…)

SEEDA & OKI from GEEK - TERIYAKI BEEF


BiS(DiS)⇒RAU DEF

RAU DEF⇒BiS(DiS)

BiS(DiS)⇒RAU DEF


もちろん彼女らの成功は炎上商法込みの話ではあるが…。

また、2013年下半期破竹の勢いでその名を広げたジャンル”ポエムコア”。これも2006年頃、発案者であるBOOL(当時はBUM名義)が2枚のCD-Rと2枚のDVD-Rをリリースすることで完全に内輪だけで楽しんでいたものだったはずだ。ところがTwitterを通してBOOLのポエム・ボムは徐々に知名度を上げていき、ついにはworld’s end girlfriendと25分1曲のシングルをリリースするに至った。

world's end girlfriend - ゆでちゃん/YUDECHANG feat.BOOL

Especiaにおいて、同様のサクセスストーリーが待っているかもしれない、、、と、期待せずにはいられない。

■ Outro

Especiaは、これまでAORやシティポップ感の強い楽曲や80年代風のイラストレーターMEMO氏を起用したジャケ等でその地位を確立していった。果たして今回”Vaporwave”に手を出したのは正解だったのか。その”vapor”=蒸気の先にあるものは、今、Especiaを支えている80年代懐古主義者達が求めているものではないはずだ。ましてやオーバーグラウンドが望んでいる筈もない。そんな状況下に内輪ネタをぶっこんだ結果、2014年がどうなるのか。それは誰にもわからない(未だに分からない)。案外、天皇陛下の物まねという滅茶苦茶危険な密室芸をしていたタモリが平然と昼の顔と成ったかのように、どこかで誰かが「これでいいのだ」とほくそ笑む結果になるかも知れない。そういった意味では今後のインターネットミュージックシーンからいよいよ目が離せない。 何れにせよ我々ギークはこの状況を祭りと捉え楽しませてもらうしかない、ということで本レポートを締めたいと思う。

2014/06/07


以下tipです。

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