課題図書『プリズン・サークル』を語り合う(1)
※この記事には、本のネタバレを含む内容が書き連ねてあります
課題図書:『プリズン・サークル』坂上香(岩波書店)
対談読書室:2022年9月3日(土)の課題範囲
富岡の着眼点
プロローグ「新しい刑務所」
従来の刑務所と比べて、何が「新しい」のか
刑罰としての刑務作業だけではなく、民間が行う、特色のある複数の更生プログラムが用意されている。
(ex:盲導犬パピーの育成やホースプログラムなど、動物を介在させたコミュニケーション能力向上プログラム、敷地外での農作業、産学官連携のデジタルコンテンツ編集、社会貢献的活動など)
坂上監督の「日本でのTC(セラピューティック・コミュニティ:回復共同体)」への複雑な心境
初めて「新しい刑務所」を訪れる坂上監督。その心中は、複雑な心境だった。それは、日本ではアメリカの刑務所でのような「更生プログラム」が不可能なのではないかという疑問からであった。
坂上監督は、実際に「島根あさひ」を初めて訪れ、TCの訓練生と対面したときに「ありえない」と感じた。何故なら、日本の刑務所の特徴は「沈黙(の強要)」であり、沈黙とは全く逆のアプローチがなされていた。坂上監督は、良い意味で予想を覆された。
2年間の撮影で坂上監督がとらえようとしたもの
『プリズン・サークル』は、語り合うこと(聴くこと/語ること)の可能性や、沈黙を破ることの意味やその方法を考えるための映画
彼ら(訓練生、特に4人の主人公)は、もともと語れたわけでも、いきなり語り始めたわけでもない。語るためにはそのための環境やプラクティス-実践や練習-が必要だ。2年間の撮影で監督がとらえようとしたものは、まさにそのプラクティスだった。
1 ある傍観者の物語
「島根あさひ」での「2つのカリキュラム」
米国の更生プログラム「アミティ」の実践をモデルとする「TCカリキュラムと、「認知行動療法カリキュラム」の2つ。
1クール目はアミティによる『変化への入り口』というワークブックで主に感情に向き合い、2クール目は『回復への道のり』(藤岡教授監修)というテキストを使用し、認知行動療法・修復的司法を扱う。
当事者スタッフの存在
米国の「アミティ」
「アミティ(*Amity 友愛を意味する)」の創設者3人のうち、2人は薬物や刑務所服役体験のある当事者である。
特に深刻な罪を犯した人、長年犯罪を繰り返した人にとって、「当事者スタッフ」の存在は、今まさに問題を抱えている当事者が変化を信じるうえで最も説得力があり、彼らは最良のロールモデルとなる。
日本でのTCを可能にしたもの
「島根あさひ」設立時のキーパーソン・歌代 正(うたしろ ただし)
臨床心理士・社会福祉士・精神保健福祉士などの専門資格を持つ支援員(前科なし)のTCへの理解の深さ
2 感情を見つめる - 4人の物語
4人の主人公の経歴
拓也(津田 拓也)
プロローグの「嘘つきの少年」の筆者
詐欺罪・詐欺未遂、刑期:2年4ヶ月真人(岸辺 真人)
強盗致傷罪・窃盗罪・建造物侵入罪、刑期:8年翔(上原 翔)
傷害致死、刑期:8年健太郎(河出 健太郎)
強盗罪、刑期:5年
「エモーショナル・リテラシー(直訳:感情の識字)」
島根あさひのTCでは、「感識」の訳語が与えられている
米国のアミティ*では、この「エモーショナル・リテラシー」を鍛えることは、受刑者だけでなく、スタッフにも不可欠だとされ、スタッフ同士がサークルをつくり語り合うことも欠かさない。
読書室の窓辺から
※ここでは、当日の会の様子をご紹介します。
参加人数
・スピーカー :4名
・リスナー* :4名
*スピーカーによるディスカッション中は聴き手に徹し、読書会の全体の振り返り時に任意で発言可
読書室の風景
読書会が初めての方から、『プリズン・サークル』に特化した読書会に何度も参加されたことのある方まで、幅広い読書会経験層の参加者が集まりました。
スピーカーの方はもちろん、リスナーの皆さんからも熱いご意見・ご感想をいただいた、大変盛り上がった会となりました。