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課題図書『プリズン・サークル』を語り合う(2)

※この記事には、本のネタバレを含む内容が書き連ねてあります

課題図書『プリズン・サークル』坂上香(岩波書店)

対談読書室:2022年9月17日(土)の課題範囲

3 隠さずに生きたい
4 暴力を学び落とす
5 聴かれる体験と証人ーサンクチュアリをつくる

『プリズン・サークル』坂上香(岩波書店)目次より

富岡の着眼点

3 隠さずに生きたい

僕は隠さずに生きたいなって思うんですよ。(健太郎)

『プリズン・サークル』坂上香(岩波書店)35ページより
  1. さざ波とともに終わる食事

    1. 「沈黙」を強いられているのは刑務所だけか?

    2. 元小学校教師で教育研究者の下村三二(しもむら さんに)氏の調査

      1. 全国の現役教師を対象とした調査(30都道府県、58人の回答)

        1. 子ども同士でチェックしあい、相互監視体制をつくり、一切の声を禁じる潮流が浮き彫りに

    3. 哲学者のミシェル・フーコーの指摘

      1. 「従順」で「有用」な個人をつくるための「規律権力」が、学校、警察、軍隊、工場、企業、公共機関を覆い、社会が刑務所化してきた

  2. 「感盲」とトラウマ

    1. 「感盲(emotional illiteracy)」⇔「エモーショナル・リテラシー」

    2. 感盲とは

      1. 米国のアミティが編み出した造語

      2. 感識が乏しかったり、自分の気持ちや感情に鈍感だったり、特定の感情に目を向けられない、もしくは、逆に囚われてしまうといった状態を指す

  3. 撮影の困難、突き破れなかった壁

    1. 刑務所へのアクセスを求める闘いの10年間

      1. 撮影期間:約5年(TCユニットの撮影は2年間)

      2. 撮影許可を得るまで:約6年

    2. 職員・刑務官とのコミュニケーション

      1. 刑務官に何かを問いかける行為自体が「反抗」「妨害」と受け取られる

      2. 男性の撮影クルーと女性である坂上監督へのあからさまな対応の違い。授業の最中に訓練生の前で激しく叱責される女性支援員。(女性に対する偏見や差別?)

    3. 「声」は無修正だが、「顔」は隠さねばならなかった

      1. 坂上監督の刑務所などを扱う過去作は、すべて顔出しが前提で受刑者や施設スタッフと、直接打ち合わせを重ねて撮影の同意を取ることができる環境だった

      2. 日本の「島根あさひ」は訓練生への撮影同意のための趣旨説明が、直接はできなかった

        1. 「犯罪者」となったことで剥奪された人間性を、「顔」の対する映像編集の過程でもう一度奪っている気分になり、坂上監督は憂鬱だった

4 暴力を学び落とす

環境が動くくらいの暴力。そういうのに魅せられてたのかなって。(翔)

『プリズン・サークル』坂上香(岩波書店)57ページより
  1. 暴力は「学び取られた行為(learned behavior)」だとする考え方がある

    1. 子どもは、家庭、学校、友達といった社会集団や地域集団のなかで暴力的な言動を目の当たりにし、取り入れていくというもの

    2. 英国の精神科医ジェームズ・ギリガンは、暴力傾向の高い粗暴犯の多くに当てはまる特徴を次のように見いだした。

      1. 幼児期から長年にわたって凄まじい暴力を受けて育ち、「保護者による殺人未遂を生き延びた人」

      2. それによって、恥、軽蔑、不名誉、侮辱といった感情を植え付けられてきた

      3. 暴力を行使するのはそうした感情を逆転させるためであり、無意識に行われている

    3. 粗暴犯にはDV家庭の出身者が多いことも、欧米の調査から明らかになってきている

  2. だからこそ、暴力を「学び落とす(unlearn の訳語で、学び直すとも訳される)」必要がある

    1. 暴力を学び落とすとは、それを手放すことにほかならない

    2. 堀の外で身につけてきた信念や行動様式、ライフスタイルのなかに、DVや虐待といった暴力があたりまえに存在し、問題だと認識されないまま見逃されたり、過小評価されていることも多い

    3. そこで、まずは暴力の存在に気づいていくところから始めなくてはならない

  3. 記憶のない加害、記憶のある加害

5 聴かれる体験と証人ーサンクチュアリをつくる

俺、こんなに苦しいじゃん。なんで俺ばっか、こんな目にあわなくちゃなんないの?(真人)

『プリズン・サークル』坂上香(岩波書店)81ページより
  1. 「被害・加害の年表」をつくる

    1. 元精神分析医のアリス・ミラーの指摘

      1. 子ども時代の真実-想像を絶する、腹立たしく、痛ましい体験-は、多くの人にとって強いられたもので、その記憶は凄まじく抑圧されている

      2. この問題が解消されるのは、抑圧の原因となった体験が思い出され、言葉によって表現され、許しがたいものとして裁かれたときだけ

    2. TCでは、このミラーの考えも取り入れ、被害と加害の体験を様々な形で、繰り返し語るプラクティスの場を用意する(「被害・加害の年表」もそのひとつ)

  2. 混ざり合う被害と加害

    1. 真人の言葉

      1. 「憎めたらすごい楽になるんでしょうね……」

      2. 「でもやっぱ、逮捕される直前は、親への恨みじゃなくて、社会への恨み。何かを恨んでた……。俺、こんなに苦しいじゃん。なんで俺ばっか、こんな目にあわなくちゃなんないの?みたいな感じで」

      3. 「今日のグループで気がついたことがあって。親に恨みを持てなかったのに、犯罪とかした時ってすごい、社会に恨みがあって……。みんな平等だって言うくせに、全然平等じゃないじゃないかって。恨み、妬み、すごく強くて。それが後押しして(犯罪へと)転がってったんだなって」

  3. サンクチュアリをつくる

    1. 映らなかった余暇時間

    2. 「特別な場所」の準備


読書室の窓辺から

参加人数
・スピーカー :3名
・リスナー* :2名
*スピーカーによるディスカッション中は聴き手に徹し、読書会の全体の振り返り時に任意で発言可

読書室の風景
今回の課題範囲から、人によっては徐々に内容がしんどいものになるので、「リスナーは途中入退出自由」「スピーカーであってもクールダウンのための途中退室・再入室が可能」というルールを新たに設けて運営することになりました。
主催者側の音響機器トラブルが起きるなど不測の事態も起きましたが、なんとか会を終えることができました。

読書室からのお知らせ

(10月の活動日)
来月から、活動時間が午前中に変更となります。

  • 10月1日(土) 10:00~12:00

  • 10月15日(土) 10:00~12:00

  • 10月29日(土) 10:00~12:00

※ 11月以降は、順次お知らせしていきます。