見出し画像

最期の笑顔

コロナの自宅療養期間が終わり、
仕事復帰して二日経った。
おかげさまで大きな体調不良もなく
仕事をすることができている。

昨日、元利用者さんに
最期の挨拶をしてきた。
以前、うちのデイに通っていた
女性のKさん。

麻雀がしたいということで
うちのデイに通ってくれるようになった人。
併設のサ高住に住んでいるので
ウチのデイを利用するのも
ごく自然なことではあったけど。

とても姿勢が良くて上品で
華やかな色のオシャレニットをよく着ていた。
耳が遠くて、単語でゆっくりしか聞き取れなくて
顔のそばでゆっくりはっきり話してたら
私の顔を両手でパッと包んで
「まぁーなんてキレイな顔!!」って
目を丸くして笑ってた。

麻雀は得意なわけではなく
上手になりたいという気持ちで
取り組んでいたので
ゲーム中の失敗はよくあったみたい。
(その頃の私は麻雀にハマる前で
 その人と一緒に麻雀を勉強していたレベル)

ポンとかチーを牌が二つくらい捨てられてから
「あ、あれが欲しかったんやけど」とか
言ってた気がする。
そして麻雀仕切ってた利用者Oさんに
めちゃくちゃ怒られるKさん。
(OさんとKさんはかなり仲良し)
けど耳が遠いからあんま気にしてないKさん。
面白いバランスだったなぁ。
平和で楽しかったなぁ。

いつしかOさんは身体をガンに蝕まれ、
麻雀をするほどの体力はなくなり
麻雀レクはしなくなった。
そして引っ越しをし、デイを辞めた。

Kさんは歩けなくなり、食事はミキサーになり、
足はパンパンに浮腫み、
なのに身体はガリガリに痩せ、
髪は寝癖が直らずチリチリしたまま、
車イスへの移乗さえ痛がって…
デイにも来れなくなった。
デイの登録は解除になった。

何ヶ月か経ち、そして昨日、
Kさんの意識も薄くなってきて
今夜が山だろうから
ご挨拶行ってきてね、と
所長から言われた。

訪室するとベッドで横になっているKさん。
顔は以前よりさらに頬がこけている。
口は閉じなくなったのかポカンと開けたまま。
唇が乾燥してガサガサして、カサブタもある。
痩せたので目元もギョロリとしている。
鼻には酸素チューブをつけていた。

私の顔を見て反応があった。
お部屋の誕生日の色紙を見せて
「これを書いたのが私です。覚えてますか?」と
語りかけてみる。
どこまで理解してくれたのかは分からないけど
最後にフニャッと口元が緩く笑っていた。

「Kさん、ずっと会ってなかったから
 久しぶりに会いにきたの。」
手に触れると、柔らかくてぽわんと温かかった。
自信の無い私のことを褒めてくれた手。
「また時間を見つけて遊びにきますね」
そう言って退室した。

命の最期がゆっくりと来て、
もう少ししたら終わるのだと
準備できることはありがたい。
突然のさよならは
受け止めるのに時間が要るけど、
終わりがうっすら見えるさよならは
それなりに覚悟ができる。

色んな人がその人に会いに来る。
その人にお世話になった人、お世話した人、
そうやって影響をたくさん与えていたのだと
第三者でも目撃することができる。
人が最期まで生き抜くことが
周りにどれだけ影響を及ぼしているか。

みんな、毎日生きて偉いんだよ。
そして、どんな形であろうと
自分自身として死んでいくことも
すごく偉いんだよ。
死んでいく姿を教えてくれて
ありがとうございます。

だから頑張って生きよう、
死にたいなんて思ったらだめ、
という話ではなくて。
こういう答えのない課題を
たまに自分に問いかけているだけ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?