【みやまる】電車映画のようなもの その14-江分利満氏の優雅な生活-

 ぶっちゃけて言えばこんなにこの「電車映画のようなもの」が長続きするとは思わなかった。10回行くか行かないかくらいで終わると思っていたらもうその14。最近は電車のシーンがあるとガッツポーズしている。みなさんも「電車のシーン」のあるなしで映画を見ると意外に多いことがわかると思う。

 酔った勢いで女性誌に小説を書くことになってしまった原作者山口瞳をモデルにしたサントリーの広告マン江分利(小林桂樹)は戦後復興と歩んだ自らの人生を振り返る私小説を書き連ねる。普通のサラリーマンだと思い込んでいた自身のこれまでは思いのほか起伏の多いものであることに気づかされる。妻の発作、息子の喘息、父の借金。「どうして自分の持ち物は、不恰好なのか」と言いつつ、最後には直木賞を受賞する。

 筆者は「竜二」や「狂い咲きサンダーロード」の向う見ずな男くさい映画が好きだが、対照的なこの作品にもそうした男くさい感動を覚えた。高度経済成長で大きく変化する日本についていけない、あえて追随しようとせず慎ましく暮らす江分利。自分にできることを不器用だけれど丹念に一つ一つこなしていく。河島英五の「時代おくれ」に感じるような、静かな美徳をもった映画である。

▲江分利が父と歩くシーンに少し電車が走ってる。


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