【２番弟子】今日の小話 #10　「思い出、そして今日から始まる」

大好きな椎名林檎さんがデビューするずっと以前の話だ。俺がまだ二十代の若かりしころ、ある女性を好きになった。二十代の若さゆえ俺は、猛烈なアタックをした。既婚の女性、叶うはずもない恋。今では考えられない話だが、まだ若かったんだなぁ。俺はその後も猛アタックを続けたのだが、恋は儚く散ったのだった。

それから二十年の歳月を経た今日、思わぬ再会を果たした。だが、再会したのは彼女ではなく、当時、一緒にいた仲間の“正ちゃん”だった。本当に、何年振りだろう。昔話にひとしきり花が咲いたあと、正ちゃんが思い出したように、ポツリとこう漏らした。

「あの女性、別れたって。」

俺は、しばらく感慨に浸り、

俺「へえー、そうだったんだ。元気そうかい？」

正ちゃん「元気だよ。俺は。」

俺「お前じゃないよ！　バカやろう！　ファッキンジャップくらいわかるよ、バカやろう！」

正ちゃん「こーきっちゃん、相変わらずいいツッコミだな！」

俺「…。まあな。彼女に健康だけは気をつけるよう伝えといて！」

時代は変わり、今、俺と彼女は別々の人生を歩いている。ひとしきり彼女の事を想い、そしてまた俺は「明日から働くぞ」と心に誓った。彼女が大好きと言っていた椎名林檎のアルバムを聴きながら…。

椎名林檎あんまり関係ないじゃんって思ったでしょ？

はい。関係ないです。好きだから無理矢理入れました。

おまけにギャグもないじゃんって思ったでしょ？

いいじゃん！

なーんてっ。