『おやつのうめさん』のこと

 子供の頃、誰でもきっと一度は言ったことがあるのではないでしょうか。

『お菓子屋さんになりたい』

 ほんとうに自分が始めることになるとは思っていなかったし、第一希望でも第二希望でもありませんでした。

 こんなことになるまでにはもちろん、山あり谷あり紆余曲折あり棚ぼたありではありましたが、それはひとまず置いておきたいと思います。(これもそのうち書いておきたいなと思っています。)

 子供の頃、幼稚園や小学校から帰ると、よく隣の祖父の家に遊びに行きました。そう、その祖父が『うめさん』です。

 遊びに行くとは言っても特に何をするでもなく、祖父の畑仕事について行ったり、大工仕事を眺めたり、時には軽トラで山仕事に連れて行ってもらうこともありました。その祖父は私と妹が行くと、よくポップコーンを作ってくれたものでした。銀紙のフライパンのような形のパッケージを直火にかけると、銀紙がまんまるに膨れていく、最近見かけないあのポップコーンです。土間の台所で祖父が作ってくれるポップコーンは、なんだかものすごく特別に感じたのを覚えています。(家ではあまり作らなかったので、物珍しさもありましたが。)

 お菓子屋さんをはじめよう、と決めた時、実はなかなか屋号が決まりませんでした。ロゴにしたときにシンプルな方がいいなと思っていたので、候補にしていたのは全部アルファベット。でもふと、祖母の名前を借りてみたときに、祖父の呼び名のかわいらしさと、ポップコーンのことを思い出したのです。(祖母の名前もかわいらしいのです)

 つくるお菓子の方向性も、この屋号が決めたようなものでした。『おやつのうめさん』で気取っても仕方がないし、元々駄菓子と砂糖菓子をこよなく愛していて、絶対ラムネ菓子は作るぞと思っていたので、目指す方向性は、

『和菓子と駄菓子と洋菓子の間』

『ハレの日の特別なお菓子じゃなくて、日々ちょっとほっとするときのとっておき』

 と決めました。

 ロゴを描いてくれたのは友人なのですが、その時にふんわりと伝えたのが『犬猫の足跡をうめばちと呼ぶことがある』ということでした。『あッまたそんなとこに泥足でうめばちつけて!コラ!!』みたいな使い方をするのです。

 そうしたら、うちで飼っている柴犬をモチーフに、かわいいアイコンとロゴを描いてくださったのでした。あんなにふんわりした指示から、よくぞこんなにかわいいロゴが…!ロゴが全体の雰囲気をまとめてくれていますよね。『和菓子と駄菓子と洋菓子の間』って、我ながらまとまりのないかんじだなあと思いながら商品を考えていたので、上手に隙間を埋めてくれているのだと思います。

 商品の中で一番最初に決めていたのは、実はらむねでした。

 以前お勤めをしていたころ、書類審査と電話対応とデータ入力をするのに、一時間もすると疲れてペースが落ちて、しまいに眠気に襲われるのですが、そんな時の強い味方がラムネ菓子(と、こんぺいとう)だったのです。最初は緑色のプラ容器に入ったあのラムネだったのですが、のちに500gの大袋で買って、薬の瓶に移して仕事の合間にバリバリ食べていました。(寛容な職場だったな…と思います。その当時『プリンターと同じぐらい働いてる』と上司に評価いただいたのを、懐かしく思い出します。)

 がんばっていたころの自分の、がんばるためのおやつの代表だったからかもしれません。

 なんだか、随分感傷的に書いてしまったような気がします。

 次こそは、それぞれのおやつのことを書きたいな……

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