隅田川魅力創出事業にまつわる話
前略、読者様へ
コロナの猛威恐るべしですね。
非インドア人間の私にとって、
家に籠ることは拷問に等しい行為です。
ある映画で冬の間ホテルに籠ったおっさんが、徐々に正気を失っていく描写があったのですが、今なら少しわかる気がします。
そんな気を紛らわすために、泣く泣く筆をとることにしました。
木寺ゼミが取り組んだ隅田川魅力創出事業について
経緯と思考などつらつらと書きます。
誰かの今後の活動の参考になれば幸いです。
企画の経緯
まず大前提として、木寺ゼミは東京都公園協会さま(以下、公園協会)と協力関係にあります。(キッカケは墨田区での活動の中でしょうか?詳しいことは分かりません)
『そもそも公園協会とは何だ』
という疑問を持った方のために説明すると、
都立公園や運河などの水辺空間の管理、魅力の創出等の業務を通じて『都市のリビングルーム』を実現することを目標に活動する公益財団法人です。
公園協会の中でも、私たちは水辺事業部の方々にお世話になっています。(水辺ラインの運行管理や隅田川テラスの管理などを行っているそうです)
少し前に配布した資料でも載せましたが、木寺ゼミの実践系イベントは
木寺ゼミ:イベントを開催する場所をお借りできる
公園協会:隅田川テラスを活用したイベントを開催した実績をつくれる
というwin‐winの関係で成り立っているわけです。
自分で言っておいて申しわけないんですけど、
なんだか寂しいですね。
言葉を変えましょう。
『木寺ゼミはご縁があって、公園協会の
隅田川魅力創出事業のお手伝いをしています』
こっちのほうがしっくりきますね。
隅田川テラスとは
隅田川をご存じでしょうか。愚問かもしれませんね。
東京都北区の岩淵水門で荒川から分岐し、東京湾に注ぐ一級河川です。
隅田川といえば、〈春の桜〉〈夏の花火〉あたりが有名ですよね。昔は水質が最悪で強烈に汚い川だった...
なんて話もありますが、今では東京の景色を彩る美しい川になりました。
訪れたことがある人なら分かると思うのですが、
隅田川の両岸にはパリのセーヌ川を彷彿とさせる美しい遊歩道があります。
この遊歩道こそが『隅田川テラス』です。
(隅田川流域河川整備計画の一環で整備されたのですが、詳しい話は割愛します)
たくさんの緑に溢れ、隅田川の美しさを感じられるこのテラスは高層ビルやマンションばかりが立ち並ぶマッドシティ東京の中に安らぎを感じさせてくれます。
嗚呼、素晴らしきかな隅田川テラス
ここで1つの疑問が生まれます。
何故、木寺ゼミナールは隅田川魅力創出事業を行っているのでしょうか。
そんなことやらなくても、隅田川は魅力で溢れているのでは?
そうなんです、様々な人々の努力で隅田川テラスは魅力的になりました。私たち木寺ゼミが何をしたところで、その美しさに変わりはありません。
では、なぜ木寺ゼミが公園協会をお手伝いするのでしょうか?
隅田川テラスの現状
江東区に住む人間としての実感、そして現地調査による分析ですが、隅田川テラスは残念ながら地域住民の生活の場にはなっていません。
『テラスの魅力は知ってるが、訪れる機会がない...』
ヒアリング調査で地域の方々が口々に仰っていました。(確かに、散歩ならまだしも友達と遊ぶなら広い公園に行きます。)
公園協会は
・隅田川テラスの魅力をアピールすること
・隅田川テラスが魅力的になる工夫すること
の2点に強みを持っています。
これらはとても重要なことで、欠かしてはならないことです。
しかし、
隅田川テラスを地域コミュニティの場にするためには、地域の方々に隅田川テラスで過ごすことのメリットを頭で理解させるだけでなく、実感を通して細胞レベルで理解していただく必要があります。
言い換えると、
『隅田川テラスで生活することって素敵!』
そう感じてもらう体験を設計することも大事なのではないかと考えました。
私たちの強みはイベント企画設計のノウハウを持っていることです。
公園協会が取り組んでいない点を補うことが出来るという強みこそが、木寺ゼミが隅田川テラス魅力創出事業に取り組んでいる理由なのです。
私たちはこれらを踏まえ
課題を『住民と隅田川の接点の少なさ』とし
『住民に隅田川テラスの良さを体感してもらうこと』を中目標に設定しました。
大目標は『隅田川テラスの利用者増加』です。
パラ競技であそボッチャ
2019年9月8日、『パラ競技であそボッチャ』が開催されました。
前日から接近していた台風を心配していたのですが、当日はそんな心配を吹き飛ばすような快晴に恵まれました。イベントの内容は隅田川テラスでパラリンピック競技であるボッチャを体験するというもので、当日は252人の方々に参加していただき大盛況のうちに終わりました。
なぜ隅田川テラスでボッチャのイベントを?
その疑問に答える前に、隅田川テラスの強みと弱みを整理します。
注:マヌケすぎて上二つが形容詞になってたけどご愛敬ってことで
ざっとこんなもんですかね?
強みを活かすことは前提条件、機会はできれば利用したい条件。脅威はどうしようもできないですから、
弱みをうまく逆手にとったイベントを考えることにしました。
思考の順路
①アイデアの発散
条件に合致するようなイベントを考えよう!
と意気込んだのは良かったのですが、綺麗に思いつくなら苦労はしません。
そこで条件はひとまず置いておき、
『構造シフト発想法』を用いてアイデアを発想することにしました。
方法はいたって簡単
ブレストして出た様々なコンテンツを
【楽しみー学び】【1人ー複数人】
などの2つの軸を組み合わせた表に当てはめます。(二軸図法と言います)
そしてコンテンツを別軸にシフトさせることで、
新たなアイデアをうみだすキッカケになるのです。
例をあげましょうか。
【遊びー1人】の領域に、砂あそびがあったとします。これを【学びー1人】の領域にシフトすることで、砂遊びで学ぶという新たなアイデアが生まれます。
『砂の堤防をつくって治水の難しさをしてもらう』
なんてイベントも面白いのではないでしょうか。
【遊びー学び】【陸ー水辺】
【有償ー無償】【室内ー外】
などの軸を使いシフトすることで、様々なアイデアが生まれました。振り返ってみると、ここが一番楽しく、もっとも難航した時期でした。
ともかく、ここで発散の段階は終了です。
②アイデアの収束
アイデアの発散が終われば次は選択、
いわゆる『収束』の段階です。
たくさん生まれたアイデアの中から、どれにするかを決める作業になります。
アイデアの取捨選択には【基準】が必要です。
そこで登場するのは先ほどのSWOT分析です。
発散段階で出たアイデアを
【弱みを踏まえて実行できるか】
【機会を活かせるか】
という視点から絞っていきます。
そして、最終的に残ったのが
【川辺でボッチャを体験する】
というアイデアでした。
これは、室内の領域にあったボッチャを外(川辺)の領域にシフトしたものです。
では、このアイデアを【SWOT分析】の視点から解説しましょう。
つまり、川辺でのボッチャ体験は
・隅田川テラスの弱みを、特徴として生かし
・外部機会を取り入れた話題性に富む
イベントであったわけですね。
これで隅田川テラスでボッチャのイベントを開催した理由がわかったのではないでしょうか。
【余談】会場であった汐入地区の地域課題
少し本筋とは離れますが、
公園協会様とのオリエンで、こんな話がありました。
『隅田川テラスへの集客だけでなく汐入地区の地域課題を解決できるといいね』
ということで、FWゼミですから、
当然会場付近である汐入地区でのFWや政策の調査も行いました。
これらがFWを通して得た汐入地区の課題です。
安全で子供も楽しめ、様々な人が交流するキッカケになるボッチャのイベントを、有効活用されていない隅田川テラスで行うことは地域課題の解決にも繋がります。
あくまで目的は隅田川テラスの利用者増加ですが、同時に地域課題を解決することも裏テーマに掲げていました。
イベント開催までの流れ
イベントのコンセプトと内容が決まったので、
公園協会の担当者さまと連携をとりながら準備を進めます。
タスクと必要資材の洗い出し、当日までのロードマップの作成を行いました。
ありがたいことに必要な材料や資材は公園協会の方が用意してくださったので、私たちのタスクは以下の通りになりました
・宣伝関連
・ゼミ生への協力要請
・プロジェクト進捗状況の管理
・当日の運営計画
・ボッチャボールの確保(これは丸山がうまいことやってくれました。さすがメイスポです)
岡部をはじめ様々なメンバーが手が回らない仕事を積極的におこなってくれたのでタスク自体は滞りなく進みました。
なかでも特筆すべきなのは
・ゼミ生への協力要請・宣伝関連あたりでしょうか。
まずゼミ生への協力要請です。
忘れてはならないのは、
『他プロジェクトのゼミ生は、最も私たちに近い他人である』ということ。
彼らを納得させられないイベント企画は、
実施したところで効果はありません。
課題設定と狙い、当日運営の詳細をしっかりプレゼンしましょう。
その点は我らがPL岩井が上手にやってくれました。
そして宣伝です。
ビラ配りやゼミのアカウントを活用しましょう。
宣伝なくしてイベントの成功はあり得ません。
個人的に気に入っているのはビラです。
可愛いですよね。
イベントに親しみを持ちやすいビラです。
デザインしてくれた大竹にスタンディングオベーションを贈ります。
また、『パラ競技であそボッチャ』というイベント名は飲み会中に生まれたものです。
イベント名はキャッチーに、これは鉄則です。
当日の様子と効果測定
ということで無事に当日を迎えることが出来たわけです。
前述したとおり天候にも恵まれ、252人の方に参加して頂くことが出来ました。
『ボッチャって楽しい!!』という声も多くいただき、エンターテインメントとしては満点をあげても差し支えないと考えています。
しかし、本来の目的はなんだったでしょうか。
そうです、
中目標
『住民に隅田川テラスの良さを体感してもらうこと』
大目標
『隅田川テラスの利用者増加』
でしたよね。
ということで、
イベントの効果を調査する必要があります。
今回のイベントでは事後アンケートを実施し、効果測定をすることにしました。
反省すべきはアンケート項目です。
適当に作りすぎて考察に使える設問は上記の2つくらいでした。
まず驚いたのは地域住民のほとんどが、水辺に親しんでいたという点です。
隅田川テラスでの現地調査と地域住民へのヒアリングの結果と反対じゃないか!!と思う方がいると思うのですが、どちらも本当なのです。
隅田川テラスについてのヒアリングを実施していたのは墨田区エリアが中心でした。下の画像でいうと川を挟んで右側のエリアです。
川の右にオレンジの線があると思うのですが、これは高速道路があることを示しています。
これが大きなポイントです。
対岸の台東区は隅田川に沿って文化を発展させているのに対し、墨田区は国技館やスカイツリーなど集客力のある施設を中心とした文化を形成しています。
墨田区側から川を見た時、思うのは隅田川テラスの心地よさではなく、高速道路高架下の無機質さです。それゆえに地域住民は隅田川・隅田川テラスに対して馴染みがないという発言をしたということが推測されます。
では今回のイベント会場であった汐入地区はどうでしょうか。
地図を見て分かる通り、住民と川を阻む障害物はありません。(一部にカミソリ堤防とよばれる場所もありますが、現在工事中だそうです)
私たちは汐入地区の地域課題を抽出しましたが、
汐入の住民が川に馴染みがあるかは調査していませんでした。
その結果地域住民に隅田川テラスの良さを伝えたかったはずが、地域住民はすでにその良さを知っていた。ということが起こったわけです。
これは若干の失策です。
しかし、ボッチャを楽しんでくれたと答えた人は7割近くになります。
子供の親にアンケートを頼んだ結果、自分は体験していないという理由で律義に面白くなかったと回答しているパターンがあることを考慮すると、ボッチャを体験した方の満足度は相当高いのではないでしょうか。
また、知らない人同士でボッチャをすることになった方々も、体験の中で徐々に打ち解けていました。
つまり、ボッチャにはコミュニティ形成効果が期待できるということです。(他地域で行ったボッチャイベントでも同じ効果がみられたので、十分期待できる仮説なのではないでしょうか。しかしあくまでも仮説です。)
そして今回のイベントの一番の収穫は、ランニングや散歩することくらいしか行動の選択肢がなかった隅田川テラスに、ボッチャという新たな選択肢を作ったことです。
何より五時間で252人を集客したという事実が、このコンテンツに人が惹きつけられるということを証明しています。
地域住民に隅田川テラスの良さを知ってもらうという中目標の達成はうやむやになってしまいましたが、
隅田川テラスの利用者の増加という大目標の達成のための大きな学びを得ることが出来たと言ってもいいのではないでしょうか。
まとめ
気まぐれで書き始めたら長くなってしまいました。
ということでパラ競技であそボッチャの総括です。
・大目標『隅田川テラスの利用者増加』
→達成はできませんでしたが、次につながる学びは得ました。
・中目標『住民に隅田川テラスの良さを体感してもらう』
→体感していただくこと自体は達成ました。
当初想定していたような、魅力を体感したことが無い人をターゲットにすることはできませんでした。これはFW地域と当日会場の不一致に起因します。
・課題設定『住民と隅田川の接点の少なさ』
→現地調査をふまえた良い着眼点でした。
会場は決まっていたのだから汐入地区住民にヒアリングした方が、より正確な地域課題の抽出ができたのかもしれません。(ほかのプロジェクトとの兼ね合いもありました。)
そもそも論をいうのであれば、汐入地区住民が既にテラスへの馴染みがあるのであれば汐入でイベントをする必要はなかったとも言えます。
が、これはあくまで机上の話です。
・地域課題『コミュニティの強化』
→FW結果とヒアリング、そして政策の三方向から本質的な課題を抽出できたのは評価されるべきです。
達成することが出来たかと聞かれれば何とも言えません。
一回限りのイベントだったことが理由です。
しかし確実に私たちの取り組みはイベント全体の盛り上がりに寄与しました。あのイベント全体が地域コミュニティ形成の効果があったならば、少なからず私たちの取り組みにも意味があったのではないでしょうか。
まぁそもそも効果測定が出来ていないのですべて仮説にすぎません。
・イベント内容『ボッチャ』
構造シフト発想法でうまれた素晴らしいアイデアでした。ボッチャによって隅田川テラスの弱みを”単なる特徴”と再定義し、それらを活かすことが出来ます。
アイデアの力を改めて感じました。
・効果測定手段『事後アンケート』
設問がめちゃくちゃであまり意味がありませんでした。研究の一環で実施したのにこれでは元も子もありません。
終わりに
まず、イベントの実現に協力してくださった
すべての皆様に感謝を申し上げます。
今回のイベントでは
土地の不利を特徴として捉え、『水辺でボッチャ』という新たなコンテンツをつくりあげました。またそこに地域課題の解決なども絡めることができたのも評価できるポイントなのではないでしょうか。
反省はFW場所と効果測定くらいですね。
まぁ人生何でもトライ&エラーです。
次に生かしましょう。
モノが持つ強みを、機会を取り込みながらアイデアの力でアップデートする。
そしてFWで抽出した住民目線の課題を解決することで、モノを日常に溶け込ませる
私がこの経験から得た学びです。
そして実践系イベントの面白さでもあります。
七期の中にはコンペを目的に木寺ゼミに入った方が多いように見えます。
しかし、
実践と政策提言を経験した私から言わせていただくと
実践系のほうが『計画→実行→効果測定→改善』を濃い密度で経験できます。
まぁどちらを選んでも学びに出来るかは当人の思考の粘り強さ次第であるとおもうのですが、ぜひ実践系のプロジェクトも選択肢の一つに入れてみてほしいのです。
長くなりましたが、これで隅田川魅力創出事業のお話は終わりです。
お付き合いいただきありがとうございました。
これが誰かの活動の参考になれば幸いです。
実践PLナカムラカイ
草々
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