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Aさんへ ⑫(⑦)

Aさんへ

パンをたべたくなり買いにいきました
フォカッチャ、シナモンロール、全粒粉
全粒粉の文字だけで飛びついてしまいます
全粒粉のクッキー
全粒粉のパン
全粒粉のビスケット

Aさんはパンはお好きですか
私は先日、米粉のピザを食べました
一口め、あつあつのマルゲリータにかじりつき

「ピザは小麦粉に限る」

と感じた次第です

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『cake』

いつかの日曜日。晴天。ドライブのち映画。の、二時間まえ。

カレンツ、クルミが混ざった茶色の全粒粉のパンに野菜や肉、チーズ、フルーツが親の仇ほど挟まれたサンドイッチを食べた。
なにかしらのハーブかスパイスの香りが喉から鼻へ抜ける。

「こうなると食材の組み合わせって何でもありなんだな。
腹に入れば何でも一緒って炊きたての白米を冷えた牛乳で流し込むじいさんがいるけど、俺は今そのじいさんに全力で同意している。
パンのこの黒いのなに?
このパンはこうもパサパサするのはこれがデフォなのか?
口内の水分を一滴残らずもっていくな。そして女はいつの時代もこのネトネトが好きなんだな。俺はザクロの食べ方の正解がいまだにわからないよ。お前わかる?これは前歯を活用して果肉をむしりとるのか、種ごとボリボリ食べるのか?
あのさ。
病院の食堂のラーメンは四五〇円。
のりもメンマもなるとものってる。チャーシューのパサパサ具合はこのパンには負けるけどな。なるとって目が回らないのがわかってても見つめてしまうよな。このネーミングセンスも脱帽だよな。

『ユーノウマイネーム』

お前、注文するの恥ずかしくなかった?
確かにこの中味のサンドイッチにしたら名前つけるの悩むよな。ドライトマト、アボカド、ザクロ、なんとかチーズ、なんとかのハム、なんとかフリルレタス、レーズン……じゅげむになるよな、な?
この店の雰囲気のさ、千円超えのこのサンドイッチにじゅげむはつけられないもんな。
でさ、この店の、俺でもわかる名前のものはこのお冷やだ、水、ウォーター。それだけはわかる。」

「リョウくんちょっと黙って。

ネトネトはアボカド、黒いのはカレンツよレーズンじゃない、きっと。
このサンドイッチ私も作れるかもしれない。パサパサって大きな声で言うのやめて。ザクロの正解は私もわからない。でも種もポリポリ食べちゃうわ。
私はあの食堂のラーメン好きよ。懐かしい味がするわ。
あと、このお水は多分デトックスウォーター。きゅうりとかミントとか複雑な味がする。
このサンドイッチ。やっぱり私でも作れると思う。」

断面の色とりどりを見つめながらソノコは真剣に眉根を寄せた。

たゆまぬ探求心おいしさへの好奇心。俄然微笑ましいと思う。
次の休日の朝食が目に浮かぶ。アボカドとザクロ抜きしっとりミミまで柔らかなパンでつくるサンドイッチ。
春夏秋冬をソノコの手から作り出される食物により知らされていると思う。春がきた。とかもう夏も終わるなとか。

リョウは早々とサンドイッチを食べ終え、コーヒーを飲んだ。
窓際のテーブルには陽射しが注ぎ歌詞のない音楽が流れ、目の前には、
「これオレガノよね?鉛筆の削りかすの匂いがするわ。
私、ハーブは何でも好きだけどオレガノだけは苦手なのよね。小学生の時に宿題が疲れるとよく鉛筆をかじって母に叱られたわ。
思い出すのよ、この匂い。」
一人言のように呟きサンドイッチにかぶりつくソノコがいる。
眠くなる。ここが自分の部屋なら十秒で眠りに落ちる自信がある。コーヒーを飲み干しても眠気はリョウを纏う。

「リョウくん。私が食べ終わったらもう帰りましょ。」
「はい?帰る?帰るって映画は?」
「いいの。そんなに観たいわけじゃないし。なんか眠くなってきちゃったしお昼寝しない?
でも、あの無花果のタルトはすごく食べたいからテイクアウトするわ。」

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