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Aさんへ ⑬(⑧)

Aさんへ

Aさんこんにちは
三寒四温とはまさにこのような毎日に送られる言葉ですね

半袖でいたり、
フリースをきてみたり、

迷います。人生のように
いえ、日々の身支度に

美容院の予約をとった日に限って、ヘアースタイルがバチっと決まり「切らなくてもよくない?」と鏡のなかの自分に訴えかけられる朝

迷う日々です

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『ライフイズメロウ』

一度、ソノコを連れてきたときビーフステーキを喜んで食べていた。
ガーリックが強く効いたトロリとしたソースを「最高。」と何度も褒め、

「ウサギ並みだな。どうりでお前は顔の面積の割に耳がでかい。」

というリョウの茶化しを聞き流しながらクレソンのサラダをおかわりしていた。

櫛切りのオレンジとミントが浮かぶアイスコーヒーを「濃くておいしい。」と、薄暗い照明の下でブルーハーツに包まれ、健やかに笑っていた。

リョウはもうここ何年一切のアルコールを口にしていない。帰りの運転に支障はないのだし、熱々のステーキとアイスコーヒーの組み合わせで、幸せそうに頬を膨らませている姿が妙に切なく、スパイシーなものを好むソノコにヒューガルデンを勧めたが「いらない。」と軽く受け流し頑なに最後までアイスコーヒーを飲んでいた。

タカシといたころ顔色を変えず旨そうにビールを飲んでいたソノコを、リョウは思い出す。
いける口で酒が強いタカシに対等に付き合っていた。
酔うと、何がそんなに楽しいのかと首をかしげたくなるほどよく笑いお喋りに拍車がかかり、ハスキーにも拍車をかけながら喋りに喋り二度三度と堂々巡りの拍車は車輪が外れるほどたかを外して喋り。ソノコの楽しさだけで三人の夜は満たされた。ソノコの存在「なんかしらんが妙に楽しそうだ。」は圧倒的だった。柔らかく包んだ。全てを包容し、許し、新しくなにかを注入して明日へと送り出してくれる。タカシへの愛を語り、リョウの魅力を語り、兄弟の尊さを語り、三人で過ごす時間をいかに愛しているか涙を浮かべ語っていた。そして、
「私、今が一番幸せ。」
泣き笑いで、必ず結んだ。

「お前を見てるだけでこっちが酔っぱらう。」顔をしかめ吐き捨てる度、心の内だけで呟いた「ミー・トゥー」
ソノコの「私、今が一番幸せ。」それを聞く度リョウは胸がつまった。

「ソノコのそばにいるだけで幸せになる。」

という、とてもシンプルで奇跡に近いほどに得難い大切な気持ちは、
「俺達はもはや家族だからだ。」
に変換し誤魔化そうとしたけれど、自分よりも自分のことを知る兄を誤魔化すことは結局できなかった。
相槌の一級免許をもつタカシはソノコの語りに「うん。」と「そうだね。」と「ありがとう、俺も。」を繰り返し、世界一愛する彼女の泥酔ぷりに冷え冷えと酔いを冷ましては、
「ソノコ。今日はお風呂入っちゃダメだよ。」
と、酔っぱらいを相手に素面で真剣に世話を焼き頬を撫でていた。
「溺れちゃうからね。」
「いっそ溺れて酔いを冷ませ。」
「私、小学生のときね、潜水で深く潜りすぎてプールの底に頭ぶつけたのよ。すっごい痛いのよ。
キラキラの火花が飛んだわ。それで、そのあとプールから出たら鼻血が出たの。なんでかしら。」
「なんでだろね。」と「知るか。」がかぶり二人で笑った。笑う他の感情は、幸せとか癒しとか救われるとかほっとするとかの明るい感情以外はソノコの手にかかれば消えてしまう。
それでいて明るい感情のえんげは滑らかで消化不良とは無縁。

風邪の日のお粥
部活のあとのアイソトニック飲料
腹ペコのときに食らいつく茶色の弁当

薬にも栄養にもなる、でいて蒸発していずれなくなる明るい感情。腹持ちが言いようでいて実は真逆。真反対。気持ちのいいエネルギーは存在感が薄く、与えられたことさえも忘れるほどにひっそり、こっそり与えられ必ず消えてなくなる。ソノコと接する度にリョウはその事を知っていった。あまりにも腑に落ち馴染みがいいから与えられたことをきれいに忘れ気持ちよさだけは残る。だからまた欲しくなる。ただ気持ちよさを感じ、あって当たり前になり、そして、きっと失う時に初めてその尊さが骨身にしみる。きっと後悔する。

ソノコそのひと。

つまり、三人の夜は、三人で過ごす時間は、
いつも、全部幸せだった。

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