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辰吉丈一郎のこと。

どれだけの人が、彼が今もまだリングに立つためにトレーニングしていることを知っているだろう。

あれだけ速く、強く、国内だけでなく世界的にも実力を認められた彼も今やアラフィフ…
息子がプロで闘っているし、先日はお孫さんが生まれた。

今さら何をと思う人の方が多いと思う(当然)が、2018年現在、彼曰く「チャンピオンになる」ために、ずっと毎日走りジムで練習している。

最近放送されたNHKのドキュメントを見て知った人もいるかもしれない。
そこでも少し出たけど、同級生が応援するサイト(クラウドファンディングも)を開いたりと支援する人達がいる。
https://www.tatsuyoshi.jp/

これまでにも多くのチャンピオンが生まれた。
中には本当に強く、防衛を重ね世界的に認められた名王者もいる。

ただ少しかじった程度の素人考えだが、日本人としてのチャンピオンはいても日本人の枠を超えて世界基準のチャンピオンはそうはいない。

食文化などの影響か見かけ上の体格ではひけをとらないようになったが、どれだけ才能があっても超えられない東洋人的な壁がいまだにある中、彼は全ての面で世界と伍していたと思う。

個人的なことでは、TVで見た日本タイトル挑戦時のあおりで流れた練習風景。
ミット打ちで、右を打ち込んだ直後ほんの少しステップし左を返すシーン。
それを見てから自分は確実に変わった。

知らない人には跳ねているだけのように感じるかもしれないボクシングのフットワーク。
そんな小さなステップが強力なパンチを放つ態勢を作り、かつ相手のディフェンスや意思の間隙を突く強烈なヒットを生み出す。

これも勝手な考えだが、防衛戦でまみえたトリッキーな相手。再戦で勝ったとは言え、あの辺りから他の状況含め何かがずれてきてしまった。
どんなに自分を作り上げても相手があってのこと。それは世の常だが…

更に言えばその後の混沌とした状況下で拳痛めながら最後まで戦った日本人対決、老獪なだけではなくあまりにも噛みあわないチャンプとの闘い。
こうしたことがダメージと言うには言い表しきれない変化をもたらしていたように思う。
その後も時に輝きを発するが、常にビリビリして何を起こすか判らない頃とは明らかに違っていた。
それでも強烈な閃光で3度目のチャンピオンに返り咲いたあの試合も目に焼き付いている。

何をしでかすか判らない男。
そこにあの頃すごい夢を見させてもらった。

でもいくらこれまで常識を覆してきたからといって、常識的に見て試合を認めるなどあり得ないことは判っている。
無謀、無責任などと人は言う。

変な話ヤクザな世界ならすでに大幹部だし、普通に引退して次の道を選べばそれなりの地位を持てているだろう。
そのほうがこっちも良かったかもしれない。

でも彼は違った。
あれからずっと毎日トレーニングしている。
きっと彼はそんな生活が好きで性に合ってもいるのだと思うが、それでも生半可にできることじゃない。

もう彼に夢を求めようとは思わない。
苦しむのを見たいとも思わない。
でも、ただただ彼が望む道を歩めたらと願う。



補記:辰吉の「吉」の字は上のつくりの下の線が長く、丈一郎の「丈」の字は右上に「、」があるのが正式な表記。

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