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『いじめ』の分析・考察

1. はじめに

私は、地方の県立(公立)高等学校在学中に、部活動において、在学中から卒業後まで『いじめ』を受けていた。
そこで、現在に至るまで尾を引いているその『いじめ』を分析した上で、教員(顧問)の立場で改善、生徒に指導すべきことを、授業で習ったことと参考文献を参照しながら脚注等を用いてまとめ、その経験を教員として、未来に活かすために、ここで述べる。


2.「いじめ」の経緯

現時点で判明している、高校在学中に私が受けた『いじめ』(学校が認定した事実)及び関連した事実に関し、以下時系列順に列挙する。
なお、部活動の競技としては、剣道部(運動部)である。

・高校一年生(以下、「高一」のように略す)
正式に剣道部に入部する

防具をつけて稽古中、上級生の過失で足の甲を踏みつけられ、かかとの骨を損傷

顧問と二学年上級の女子部長「上級生が責任を感じてしまうから、学業のための休みということにする」と通告される
その事実は全員で共有されず、遅刻扱いになっていた

外部で開催される公式試合(高校総体地方予選)において、集合時間等で一人だけ意図的に虚偽の事実を教えられるという嫌がらせを受ける

一学年上級の女子部長を中心に、半分以上の部員から、様々な嫌がらせを継続的に受ける
(顧問・当時の担任に相談するも対処せず、退部に追い込もうとする)

めげずに稽古に励み、上級生・同級生ほぼ全員に校内試合で勝利するが、外部試合の選手(補欠)に選ばれることは一度もなかった

・高二
顧問が初任かつ新任の教員に代わる
女子副部長に選ばれる

高一と同様の状況が続く
(団体戦で最も下のポジションに置かれる。上級生の代わりに一学年下の下級生が試合に出ることで、依然として個人戦の選手として出られない)

一学年下の下級生女子が一名残して全員辞める

校内・対外試合において、私だけ全勝、他の部員はほぼ全敗
同級生・下級生からの私物を隠す等の嫌がらせを継続的に受ける

・高三
新しい顧問が別の学校から赴任し、代わる

最後の試合である総体予選の選手に選ばれない

自律神経失調症を発症、不登校

取得単位、出席日数の二点において、規定限界で卒業

・その後
数年に渡り、SNSでの嫌がらせを受ける

下級生に対するいじめ・金銭の未払い等の冤罪を被せられる
(のちに、全て冤罪と証明される)

同部活動卒業生の「いじめ」暴露・録音流出・告発をきっかけとして、学校からの「いじめ」認定及び謝罪

現在に至る


3. 私が「いじめ」のターゲットになった要因

私の出身高校は、その地域における偏差値トップの進学校(全国的な偏差値は70以上)である。私が所属していた部活動はその競技の特殊性もあり、顧問、生徒の保護者のほとんどが同校出身者であった。
そのため、在校生(や教員)が不祥事を起こしても、警察が犯罪と断定出来ること以外は、関係者や内部のみで対応し、ほぼ表に出ることはなかった。

また、私の身に起こった「いじめ」(以下、『いじめ』と表記する)においては、被害者である私は転勤族出身のため同保護者ともに地縁がなかった点、主犯格の加害者の保護者の職業が、地元の企業の経営者もしくは教育関係者(小学校教員、高校教員、大学教員、塾講師等)かつ同校卒業生で構成されており、その関係性もあって、在学中は教員及び生徒が忖度して、被害者となった私に落ち度があるとまとめようとした点で「大津市のいじめ事件」(2011) の構造に似ている状況であった。


以上を踏まえ、私が『いじめ』のターゲットになった要因、いわばなぜ『いじめ』が起こったかという疑問について、3.及び4.で、考察する。

・転勤族出身で土地に縁がなく、父親が東京に単身赴任していた点

・剣道を中学から本格的にはじめたため、高校入学以前に目立った試合実績がなかった点

・部員の多くが地元の同じ少年剣道クラブの出身者で構成されていた点

・同級生が、同校出身の保護者もしくは同時期に同高校・同部活動に在籍する兄弟姉妹を擁していた点

・教員が特定のお気に入りの生徒に他生徒の個人情報を勝手に流してしまう等、個人のプライバシーに対する教員の意識が欠如している点

主な要因はこの五点であるといえる。


4.『いじめ』が止まらなかった理由

以下、私の出身高校の表記を「J高校」とする。

3.にて前述した通り、J高校は、その地域における偏差値トップの進学校であり、従って授業が進む速度が速く、課題量も非常に多い。さらに、文武両道と生徒の自主性を謳っていたため、生徒の負荷が大きく、多くの生徒が過度のストレス状態に置かれていた。
また、中学で成績優秀だった生徒の集まりのために、相対的に評価が下がった生徒の鬱憤が溜まりやすく、何らかの理由で立場が弱い生徒に対する八つ当たりという名のいじめが常態化していた。

根本には、教員が10〜15年同校に留任し続けることが慣例であったため、生徒の「自主性」を尊重するという理由で、事なかれ主義を採っていたことが挙げられる。
加えて、地域において有力者である保護者を持つ生徒に教員が忖度をし、一部生徒にとって無法地帯と学校が化していたことが、『いじめ』が止まらなかった理由であると考察できる。


5.『いじめ』が発生した部活動における欠陥の指摘及び教員の立場で出来る改善の仕方

初めに、在籍していた部活動の欠陥について述べる。

第一に、私の入部時から卒部時に至るまで、「部長となった者が教員と相談して選手選考を行う」という悪しき風習があったことが挙げられる。
この風習は代々部長以外に知らされず、他の部員には伝わらないように厳重に管理されていた。
自然な成り行きではあるが、部長の主観によって評価が左右されるため、その評価の客観性、本来の実力の考慮はないに等しく、部長に負の感情を抱かれた部員は適切な評価を得られないという形になっていた。
また、次期部長もその選出方法が踏襲されていたため、その悪しき風習が持続されるに至っていた。

第二に、顧問が生徒の「自主性」を尊重するという大義名分を利用して、いじめ等を放置する姿勢を取っていたことが挙げられる。

第三に、部活動における「剣道」という競技の、悪い意味での曖昧さが挙げられる。
評価基準が数値などの指標ではなく、他者の判定に基づくため、裁量や印象が悪用されてしまう側面がある。


次に、在籍していた部活動の欠陥を教員の立場でできる改善の仕方について述べる。

第一に、一生徒である部長だけではなく、選考過程を在籍する全部員に明示した上で、学校が正式に依頼した外部コーチ等と複数の目線で公正に判断し、部活動顧問として教員が責任を持って、できる限り公平な価値基準で選考すべきである。

第二に、「自主性」 は教育の場において、生徒それぞれが公正かつ公平な立場で、成長させるべき性質である。たとえ成長して「成人」に最も近いとされる高等学校の生徒であっても、教員の目を行き届かせた上で、一部の生徒が著しい被害を被らないように、生徒各自が「自主性」を発揮する場を教員が整えるべきである。

第三は、第一の点と同様であるが、剣道という競技に起こりやすい「負の側面」について生徒に説明し、意見を出し合い、教員と外部コーチ、部に所属する生徒全員が相談した上で、その部活動の方針を決めるという指導をすべきである。


6.おわりに

近年、教育現場におけるいじめは未成年による犯罪行為とみなす社会通念が広がりつつある。しかしながら、現実は生徒の「自主性」、つまり自治の名のもとに教育者が直接の指導義務を放棄しているようにさえ映る。
人間としての正しい生き方をしようとする個人を多数で潰そうとするいじめ集団、弱者に手を貸そうとしない大勢の傍観者たち。倫理感が失われつつある教育現場の荒廃は、他者に対する思い遣りや性善説に基づく生き方といった、日本において古来より美徳とされてきた道徳観念の喪失に繋がることを危惧する。
早期にいじめ行為に対し、客観的な厳罰を与える法案等、法制度の整備を望みたい。

幸いにも、私の身に起こった『いじめ』は、J高校剣道部の卒業生有志の勇気ある行動と数々の証拠のお陰で、卒業後ではあるがその事実を高校に認めさせ、その善悪を他者に知らしめ、過去の事実として整理した上で、私自身の貴重な経験とすることができた。
いまだPTSDと化した傷が完治したとはいえないが、自身で呑み込まざるを得なかった他のいじめ被害者に比べたら、何と運の良かったことかと思っている。
これは「武勇伝」ではない。『いじめ』を乗り越える実感を味わうことができたというだけである。
しかし、この経験を生かし、教育や法律に対する勉学を通じて、教育の場において、児童生徒をはじめとする他者に貢献できるよう尽力していきたい。


7.参考文献

・林尚示.特別活動の指導法 改訂版 総合的な学習(探究)の時間とともに.学文社.2019.213p .教師のための教育学シリーズ

・吉田浩之.いじめ対策の現状と課題―大津市のいじめ事件を契機として―.琉球大学教育学部教育実践総合センター紀要.2013.p .43-54.http://hdl.handle.net/20.500.12000/27095

・北原保雄.日本国語大辞典 第二版.小学館.