『相方』小説版FINAL

※イグBFC2参加作品

【前回までのあらすじ】
 環境保護団体『緑の狸』の正体はテロリスト集団『赤い狐』であった。選挙戦に乗じた首相暗殺計画をかろうじて阻止した警視庁別命係の松下雨氷と鶴山馨であったが、メンバー全員の逮捕には至らず雨氷は敵の凶弾に倒れる。だが内ポケットに隠し持っていた遊戯王デッキが雨氷の命を救う。自慢のホーリーナイツデッキを失った雨氷は、絶望から立ち上がり『赤い狐』壊滅と遊戯王ワールドチャンピオンシップ出場を誓う。

           ◯

「なんですって! まさに今、日本シリーズ最終戦巨人対ソフトバンクが行われている満員の東京ドームにテロリスト集団『赤い狐』を名乗る何者かから爆破予告ですって! それで奴等の目的は! 沖田首相暗殺未遂事件で逮捕した一味の全員即時釈放! しかも釈放期限は試合終了までとは! ええっ、試合を中止して観客の待避を始めたら即座に起爆させるというのですかっ! これは大変なことになりましたよ鶴山くん!」
 受話器を握った松下が叫ぶ。銀縁眼鏡の奥の瞳が内心の闘志を映してキラリと光る。
「つまり大勢の警官を送り込めば何事かと球場がパニックに陥るかもしれない。もとより奴等が狙うのは赤坂で行われているTPP経済相会合に違いないと多くの人員が警備に割かれている現状では、現場に投入可能な人員は少ない。そこで我々に白羽の矢が立ったというわけですね! 観客に悟られないように試合終了までに爆弾を発見して起爆装置を解除しなければならないということですか雨氷さん!」
 鶴山は早くもトレードマークのフライトジャケットに袖を通しながら言った。
「いや果たしてそうでしょうか。上層部としてはテロリストに屈して犯人を釈放するわけには絶対にいかない。しかし時間もなければ爆弾を発見できる可能性も少ないと踏んでいるのでしょう。そこで何か事があった場合のスケープゴートとして我々を投入するつもりに違いないのです。これはいわば身内に仕掛けられた罠なのですよ。とにかく我々は爆弾を発見するしかないのですよ鶴山くん」
「急ぎましょう雨氷さん! とうに800字を過ぎているっ!」
 覆面パトカーを飛ばした二人はたった2行で東京ドームに辿り着いた。内野席に飛び込むとそこは空席を見つけるのも困難なほどの超がつく満員だ。試合は7回表まで進んで両チーム無得点、巨人の菅野がテンポのいい投球でソフトバンク打線を三者凡退に打ち取る。
「よし! いや違う! なぜこんな時に限って調子がいいんだ菅野は!」
 巨人ファンの鶴山が歯軋りをする。
「さあ、試合に気を取られている暇はありませんよ鶴山くん! 私がこの台詞を言い終わる頃にはほぼ1200字、既に半分しか残されていません!」
「しかし、あまり派手に動き回って犯人に気付かれては…」
 途方に暮れた顔であたりを見回す鶴山に、松下は落ち着いた声で言う。
「いえ、ここに犯人はいませんよ」
「なぜですか雨氷さん! ああそうか、密閉空間である東京ドームでは出入口を封鎖されたら逃走は困難だ。当然警察は試合終了までにその準備を整える。しかし試合終了時刻が不明なら時限装置ではあり得ない。ということは遠隔起爆式の爆弾かっ!」
「ナイス節約です鶴山くん! つまり我々が向かうべき場所はテレビの中継室です。合いの手は要りませんよ。外部から球場の様子を見る手段はおそらくテレビ中継でしょう。だとすれば爆弾はいちばん映る時間の多いバックネット裏に違いありません。ですが我々が探し回れば犯人に悟られます。試合前の点検で何もなかったなら、犯人は試合開始後、万が一にも不審に思われないように、周囲が試合に集中している時間に爆弾を置いて立ち去ったはずです!」
「さすがは雨氷さんだ!」
「そんな台詞のために字数を無駄にするものではありませんよっ!」
 と声を荒げた1行後には、二人はテレビの中継室でここまでのビデオを食い入るように観ている。だったらあらすじで関係ない遊戯王のことなんか書かなきゃいいじゃないかと鶴山は思うが口には出さない。
「これだ雨氷さん! この男です! 一回裏に現れて二回表が終わると同時に席を立ち戻って来ていません! しかも手に持っていたバッグが消えている!」
 モニターに映し出されたそのカーキ色のコートにサングラス姿の男の席を鶴山は頭に叩き込んだ。雨氷がスタッフに言う。
「ディレクターさん、5分後、ちょうど9時から30秒間、電波の不調を理由に放映画面を静止させてくださいっ! その間にバッグを回収するのです鶴山くん!」
 鶴山が走る。スマートフォンで観ているワンセグの野球放送が静止するのを確認して問題の席へ駆け寄ると、椅子の下からバッグを回収する。そして1行後、バッグを抱えた鶴山と松下は東京ドームの出入口から外へ走り出た。鶴山がバッグを開けるとそこには何本もの筒と謎の電子部品をコードで繋いだ爆弾が。
「こいつは高性能爆薬PBXだ! どうします雨氷さん! もう9回裏だ!」
「落ち着きなさい鶴山くん! 幸い試合はまだ0対0です。延長になれば少なくとももう1回表裏の余裕があります。その間になるべく人のいない場所で解除をっ!」
「なら楽勝です、あと250字もある!」
 その時鶴山の手にしたスマートフォンから歓声が聞こえてきたので見ると巨人の代打、丸がサヨナラホームランを打ってガッツポーズしながらベースを回っていて「あああ! 丸! なんでこんな時に打ってんだよ! 自分が何したかわかってんのか!」と鶴山が叫ぶやいなや謎の部品がブーンと唸りを上げて赤いランプが点灯するのを見た雨氷は駆け寄る爆発物処理班を制して「鶴山くん! 一か八かコードを切りなさいっ!」と指示するが鶴山が「素手でどうやって!」と言うのを聞いてええいこうなったら全部まとめて力ずくでひっこ抜い文字数

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