君に降る雨はいつだって

診断メーカーのお題でアンケートをとったら、「相合傘」を選んでいただきまして、前に雨に焦がれる(大紡)で書いたし今度はどんなのにしようかな〜と思っていたら、わたしらしいネタになってしまった〜〜

生徒会の、性転換の笑、しかも片思いっていう………趣味全開でごめん……でも後悔はしていない……
すず→綾さん→ゆーみん です。心の広い方のみどうぞ。お題は約30の嘘 さまより。


「傘ないの?入って行ったら」

放課後、突然降り出した雨の中、傘を家に忘れた朝の自分を恨みがましく思いながら走り出そうかと覚悟を決めかけた矢先、良く知った声が聞こえてそちらを向いた。深緑の折り畳み傘を手にした委員長だった。

「いや、その、それは申し訳ないというか」
「すずが風邪引いて休んだら、こき使う相手がいなくて困るのはわたしだから」
「……そんなこったろうと思いました」

悪びれもせず笑って言い、俺が自分の提案を拒むことなどないと信じ切った様子で靴を履き替え、俺がいるところまで歩いてくる彼女。案の定拒むことなどできない俺は平静を装うけれど、密かに想いを寄せている相手と同じ傘に入るという、必然的に距離が近くなる行為に、心の内はとても穏やかではなかった。

「俺、持ちます」
「ん、ありがと」

彼女が持っていた傘は折りたたみ傘にしては大きめで、二人で入ってもあまり濡れずに済みそうだ。パキパキ、と音を立てながら受け取った傘を広げ、 唐突に気づいてしまった。
ーーああ、この傘は、彼女の持ち物ではない。

見たことのない傘を持っているなとは思っていた。普段の彼女は薄い水色の、折り畳みでない傘を気に入って使っている。何なら放送室にも似た色合いの折り畳み傘を置いてあるのを知っている。
そういえば昨日、委員長は、楽しみにしている小説の新刊を買いに行くのだと、機嫌が良さそうに珍しく早々と帰った。一方俺は残って仕事を片付けようと、風紀委員会の部屋に書類を持って行ったら、あのひと--花染先輩はいなかった。そして、昨日の夕刻も、確か急に雨が降った。
二人揃ってたまたま学校に残っていなかっただけだし、傘があのひとのものだとも限らない。けれど、おそらく、直感は当たっている。

「すず?」

歩き出そうとしない俺を訝しんで、こちらを見上げる。無防備な顔で、人の気も知らないで。勝手極まりない苛立ちが湧く。
ふと、本当に微かな柑橘類の香りがした。彼女の髪からだろうか。こんな近い距離に寄ったことなどないから、普段と同じなのか、違うのかすら、わからない。

いつも一緒にいるのは俺なのに。こうして近くにいて、他人には警戒心の強い彼女が俺には気を許しているのが分かる。人に頼らない彼女は、俺にはあれこれと世話を焼かせる。いつも傍にいさせようとする。それに比べて、彼女があのひとと学校で二言三言以上の会話をしているところなんて見たことはない。それでも。
それでも、会話をしたあと、あのひとの背中を見つめるときや、ふと他の女子生徒とあのひとが話しているのを見かけたときの、諦めと切なさと熱が綯交ぜになった瞳で、彼女が俺を見ることは、きっと決してない。

「……、髪、いい香り、します」
「そう?ヘアオイル、新しいのを試しにつけてみたんだけど。すずがそう言うなら、これからもこれにしようかな」

そういうことを言われて、俺がどんな気持ちを抱いているのか、貴女はきっと知らない。俺の精一杯で長い髪をそっと掬ってさらさらと零しても、彼女は至って落ち着いていた。

「雨、ひどくなりそう」
「……濡れないうちに、帰りますか」

空の様子を窺うように、すこし目線を上げた彼女の、睫毛が長い。彼女の側に傘を寄せて、濡れないようにそちらを気にしながら歩き出す。雨音に閉じ込められた傘の中で、腕も触れているというのに、こんなに遠いと感じるだなんて、皮肉なものだと思った。
仄かな柑橘の香りはきっと、今日眠りに落ちる頃まで、頭から消えてくれないだろう。


君に降る雨はいつだって

(title by 30)

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