心ならやさしさで満ちていて

だいぶ過ぎましたが、しみさんのお誕生日付近にささやかなプレゼントをあげたので、それを扱ったSSをあとから書く!という試みでした。

リクエストは生徒会創作でしみさぶです。さぶがわからないけどそれ以上にしみさんがわからない。2人のやりとり好きですよ。

遅くなってごめんね!しみさん誕生日おめでとう!
タイトルはいつものように「約30の嘘」さまより。


***


あのひとが、悪いのだ。

綺麗にラッピングされた包みと、手提げ袋。誰も聞いていない心の中だというのに、そう言い訳をせずにはいられなかった。

もともと何かを人のせいにする人間ではないつもりだ。普段なら。普段の生徒会の仕事や、友人関係や、頼まれごとや、そういったことであれば。
けれどあのひとと接していると、どうも調子が狂う。
自分はごくごく普通に接したいと思っているのだ。基本的には他人に対しては礼儀を大切にしたいし、一学年先輩でもあるのだし。けれど。

悪戯っ子のように瞳をきらきらとさせ、どこまで本気か冗談か分からない好意の言葉を並べてみせるあのひとのことを考えると、思わず溜め息が出た。


見た目だけではあの手強さは分からない、と、思う。初めて会ったときは涼しげな容姿の効果もあって、落ち着いた素敵な先輩なのだろうと思ったくらいだ。校内で男子生徒に騒がれている女子生徒は他にもいるが、正直なところを言えば、校則を破ってあれこれ派手な化粧をしている先輩たちよりよほど綺麗で好ましいと思った。言わない。死んでも本人には言わないけれど。

それが口を開けばどうだ。
やれかっこいいだとか、そういうところも好きだとか、年頃の女性が軽々しく口にすべきではない言葉をこれでもかとぶつけてくる。喜びより戸惑いが勝ってしまう。別に自分を必要以上に卑下するつもりはないが、そこまで好意をストレートに示されるほど容姿も性格も優れているとは思わない。
かと言ってからかっていたり、馬鹿にしていたり、そういう風には思えないのだ。冗談めかすように軽い口調も、自惚れでなければーーこちらに気を遣わせすぎないように、わざとそうしているようにも感じる。こちらが呆れたり素っ気ない言葉で返せるように。その証拠に、こちらが冷たく言いすぎただろうかと様子を伺うと楽しそうに笑っていて、逆に上手く返せずにまごついてしまうと、明るく振舞って見せながらも微かに心配そうな目をする。困らせてしまったと、そう思っているような、ーーーーこれこそ自惚れかもしれないが。


そこまで考えて、目の前に自分で置いた包みが再度視界に入り、また溜め息が漏れた。どこからどう見てもプレゼントだ。自分で食べようと思って買った、と言っても信じてもらえないだろう。何せ片方の包みは、プレゼント用にと頼み、もともとそれなりに洒落ていると思われる茶色が基調のパッケージを透明な袋に入れ、リボンまでつけてもらったのだから。
もう一つの手提げ袋は、スコーンが無造作に直接入っているわけではなく、味の違う2種がきちんとパッケージされて収まっているから、中を見れば贈り物のために買ったのは分かりやすい。

というか、そもそも。
なぜここまで接し方に悩んでしまうのか。そしてなぜ悩んでしまうのにプレゼントなど買ってしまったのか。

自分のために買ったどころか、偶然通りがかって買ったと言い訳したって嘘にしかならない。
彼女が以前食べたいと言っていたスコーンを、調べ、彼女が好みそうな味の紅茶を探し、わざわざ店舗で並んでまで買い求めたのが本当だった。


罪悪感、とまではいかないけれど、以前からすこし居た堪れない気持ちがあった。
いつもいつも向こうから好意を示されるばかりで、こちらはただそれに素っ気なく返すばかりで。

たとえば疲れているとき。強引に思える彼女は意外なほどこちらの雰囲気に聡い。声をかけてはくれるけれども、こちらの反応を無理に引き出そうとはしない。
たとえば彼女に対してこちらが気を遣ったとき。こんなことでと、驚くような些細なことでも、あのひとは花が綻ぶように笑う。

ああ、そうか。
そこまで思いをめぐらせて、ひとつ答えが出たように感じた。
居た堪れないとか、申し訳ないとか、それもあるけれどそれがいちばんではない。
ーー何か、返したかった。

救われていることに、甘んじていた。
ほんの小さなことで喜んでくれるから、それ以上のものを返したことがなかった。
だから。
偶然とか、ついとかではなく、何かを選びたかったのだ。
自分の意思で、あのひとの特別な日に、あのひとを喜ばせる何かを。

「さーぶろー!会いに来たよ〜、ってやだ部屋に2人じゃん!!どうしよう!?」

唐突に静寂が破られた。困らされていた当の相手が姿を現したのだけれど、結論が出たからなのか、1人で長々と考えるのが面倒になってしまったのか、やけに内心すっきりとした気持ちになっていた。

「どうもしません」
「いつもながらつれないなあ。あっ、これどうしたの!?わたしのおすすめ食べてくれる気になった!?」
「…………、しみさんのですよ」
「え、」
「お誕生日、おめでとうございます」
「え、さぶろ、?」


たまには逆の立場というのも悪くないかもしれない。呆けたような顔が珍しくて、くすりと笑ってしまった。

好意を示す言葉は軽く口にするくせに、誕生日だから祝ってくれとは言わない、妙なところで慎ましやかなあなたに。
いつもそのあたたかさと眩しさに、救われているなんて、

「わたしに誕生日プレゼント!?ほんとに!?結婚しよ「しません」

やっぱりまだしばらく、言う日は来ないのだろうけど。
ありがとう、と、零れる笑顔に、これからも敵わないなとこっそり思った。

心ならやさしさで満ちていて
(やさしいねと笑うあなたこそ、ほんとうは誰よりも、)

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