噛みしめた味は、忘れない

【第134回フリーワンライ】#深夜の真剣文字書き60分一本勝負 に久しぶりに挑戦してみました。が、作品と呼べるものは書けなかった………まあよしとしよう。

ジャンルはもちろんアイドリッシュセブンで、二階堂大和です。カップリングもなにもなし。第3部3章までのネタバレといえばネタバレ。ただの大和さんの独白です。つらさをすこしでも形にして和らげたい。大和さんが傷つけられること以上に、大和さんがミツやナギを傷つけることで自分から傷つくのがつらい大和担です。どうかしあわせになって。まとまりませんでした。



むかつくほど美形だとか人相が悪いとか、童顔だとかなんだとか。良い年した男同士で、俺たちは気色悪いほどに顔の話で軽口を叩いていたな、と、こんなときに思い返す。ーーあいつが、いつも顔のことを持ち出すせいだ。

ダントツで話題に上がるのはナギのその顔だが、俺の顔のことも良く言っていた。目つきを直せばイケメンだとか、男らしい顔で俺は好きだとか。自分のことは客観的に見てもアイドルらしい顔つきではないと思っていたが、ミツにそう言われるとどうにも調子が狂った。照れもせず、嘘もなく、同年代の男に顔を褒められる経験などそうある訳がない。

「…………痛ってぇな、」


そうだ、手が出るのが早いあいつだとは言え、容赦のないあいつだとは言え、決して俺の顔を殴ることなんてなかった。ましてや、ナギの綺麗な顔を歪めさせることなんて、今までのあいつなら絶対に言わなかった。

口の中の血の味は、だからアイドルなんぞをやってから、味わったのは初めてだ。ナギが顔を、真剣に引き締めたことはあったけれど、かなしみにあそこまで歪めたのを目にしたのももちろん、初めてだ。


ずっと後悔していた。ひとつ楽しくなる度に。ひとつ嬉しくなる度に。ひとつ大事になる度に。
俺は腐り切ったどうしようもない世界を相手に、復讐を挑むはずだったのだ。
それがどうだ。あいつらと並んで、覗いた世界は広がってしまって、向かい合った世界はきらめいてしまって、貰ったものが増えてしまって、いつの間にか背中を押されて、ここまで来てしまっていた。


もちろん言える機会などなかったけれど、俺は、ミツとナギの瞳が、怖かった。
子供のように真ん丸で、無邪気に輝いているようでいて、誰よりもかなしみを、その奥の立ち上がろうとする思いを、探し出して見守ろうとする。
磨かれた宝石のように澄んでいて、真っ直ぐにこちらを射抜こうと、そのうつくしすぎる青にすべてを、受け入れて愛そうとする。

そんなあいつらの瞳に、この醜い姿はどう映っただろう。考えるまでもない。

噛みしめた血の味を、かなしげな瞳を、俺はこれからきっとずっと、忘れられずに生きていくのだ。




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