prayer room #14 黒い犬と鉢植え


以前、バイト先へ行く時に決まって通る道沿いのお家に黒い犬を飼っているところがあった。

玄関横のスペースに寝転がっていることが多く、道との境界にあるフェンスの隙間越しにその姿を見ていた。また起きている時に目が合えば寄ってきて隙間から鼻先を出すような、人懐こい犬だった。
仕事へ向かうなんの面白みもない道すがらに小さなオアシスを見つけた気分で心を潤してもらっていたのだ。


いつからかその子の姿をいつもの場所に見なくなり、しばらくしてフェンスには張り紙がされていた。それは私のような通行人に向けて書かれたあの子の訃報であった。 もう、ささやかな触れ合いも何も叶わなくなってしまった。

やがてあの子がいたところには大きな荷物が運び込まれていき、その片隅に土の入った四角のプランターが置かれているのを見つけた。
きっといつか蒔かれた種が育って 立ててある支柱に蔓が伸びていくのだろう。


そんな未来を想像してみたときに
なぜだか分からないけれど とても、嬉しい気がした。


私はおおらかな犬がそこに居たことを知っている。 そして同じ場所で緑が芽吹く。ただそれだけのことが いつまでも心に残るのだ。





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