土曜日だけの訪問ヘルパー②

先輩は日当たりの良い場所が好きだ

次のお宅まで時間があるから
ここで少し休みましょう
いつもそう言ってお日さまがあたる公園や
ベンチで利用者さんのお話をしてくれる

その日もそうで
私が早くも今日でこの仕事は辞めようと
誓ったことに気がつく訳もなく
先程訪問したご夫婦のお話をしてくれた

透析をしている奥さまの身のまわり全てを
旦那さまがされていたのだけれど
ある日、買物の途中脳梗塞で倒れ
旦那さまも歩行器での生活になったこと

今日の大きな声あったでしょ
歩行器から手を離すと
後ろに転びそうな感覚になるみたいで
怖くて声がでてしまうの
いつもは穏やかなのよと教えてくれた

そうなんですねと頷きながら
まださっきの衝撃は私の胸に残っている

次の利用者さんは
こういう方でね、ご家族はこうでね... 

先輩は驚くほど細かに
利用者さんおひとりおひとりの好きなものや 
嫌いなもの、痛いところ痒いところ
そしてクセまで把握している

それは仕事と言うより
その方へ心から寄り添っている
先輩の深い優しさなのだけど
その時の私は自分のことに精一杯で
実際、その深さに気がつくのは
もっと後のことだ

午前中3軒のお家をまわっただけで
私は自分が出来ないことの確信を
ただ深めてるようだった

午後になっても変わらず
衝撃をうけ立ち尽くしてる私を横目に
先輩は丁寧かつフレンドリーに
コミュニケーションをとりながら
無駄のない動きですべてのサービスを
終わらせていく

おばあちゃんもおじいちゃんも
有難うって言っていた

認知の女性は3分おきに
先輩が優しくて良い人なんだと
私に伝え続けてくれた

これを持っていきなさいと
飴やチョコをさしだされる度に先輩は

これを頂いたら
私、クビになっちゃうの

そうしたもう、○○さんに
会いにこれなくなっちゃうから
いただけないわ

もう少しここに来させてね
私が寂しくなるから

そう答えている先輩は本物だった

一軒また一軒といくたびに
心が動き揺れに揺れる

言葉にできない感情が
揺さぶられていく

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