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英語はなぜ難しいか?     (音声編⑤)

 今回が音声編の最後だ。次回からは「音声練習編」と題して、具体的・技術的な発音練習の方法を説明する。

 本記事で考察するのは、知る人ぞ知る某CMのフレーズ、「聞こえないんじゃない。最初から言っていないんだ!」である。音声編②の記事で、「次回はこの表現を多用する」と書いてしまったが、音声編③・④で扱わなかった。お詫びします🙇‍♂️

 冒頭で本記事の要約をしておく。

もちろん、英語speakerは「言っている」。関先生は生徒に寄り添う方なので、大学受験生を安心させる意図での発信ではないか。英語において、「聞こえにくい音」と「最初から言っていない音」の区別は難しい。次回以降の、音声練習編で具体的に扱う。

 なお、件(くだん)のフレーズを「知らない」という方は、ネットなどで調べてください。私は、今年(2021年)になってから知った😅 流行遅れな人間である。

①関正夫先生は素晴らしい!

 本記事の性質上、このフレーズについては批判的(あるいは否定的)にならざるをえない。そこで、初めに断っておく。フレーズを「口にしている」(この表現には意味がある。後述する)関正夫先生は、非常に優れた講師だ。私は関先生の文法テキスト・読解テキストを立ち読み(オイ!)したが、暗記一辺倒にならず、なるべく体系的に説明しようとする姿勢に感銘を受けた。また、動画でリスニングの授業(の一部)を拝見したが、音の体系化が素晴らしい。「英語はなぜ難しいか?(音声編)」を書くにあたって、大いに参考にさせてもらった。

 私は関先生を尊敬している。「他者に敬意を払う」ことは、英語・アラビア語speakerとしての(少なくとも私にとっては)基本だが、関先生にはその敬意だけでは足りない。本当に凄い人だと思う。これだけは、どうしても最初に言っておきたい。私は関先生を尊敬している。

②「聞こえないんじゃない」?

 CMで紹介されている、「out of」や「ask him」は、会話の中でも重要な表現だ。前者は「外れているイメージ」を運ぶ(out of the questionなど)表現だし、後者は「動詞と目的語」という文意の中核を担う表現だ。

 ここまで重要な表現が「聞こえない」などということがあるのか? 私の記事を読んでくださっている貴方なら、すぐにピンとくるだろう。そう、聞こえないということは十分ありうる。人によっては聞こえない(音声編①参照)。そこまでいかなくとも、多くの日本語speakerには、「聞こうと思えない」音であることは間違いない(音声編②参照)。

 関先生は、生徒に寄り添う授業をされる方である。全くの想像だが、「出来ないことを無理にしようとしなくてイイよ」というようなことを伝えたいのではないか。私は例のCMを100回以上聞いた(と言っても、1回15秒だが)が、関先生の口調には優しさを感じた。

③「最初から言っていない」?

 ネットで叩かれた(叩かれている?)のが、この部分だ。英語speakerは、もちろん「言っている」。前述の通り、文意を正しく伝える重要な音だからだ。「いや、言っているし」というツッコミに対しては、私も異論はない。

 ただし、「自分が聞こえないから、そう言っているんだろう」という反応については、「ちょっと待ってくれ」と言いたい。正直な話、私も初めはそう思った。いわゆる「受験英語」を教える分には、聞こえなくても問題ない(近年の大学入試を考えると、そうとも言えない?)からだ。だが、関先生はTOEIC満点(990点)連続獲得者である。これほど重要な音が聞こえない人が、TOEICのリスニング・パートで満点(495点)を取れるとは考えにくい。つまり、関先生は「自分では聞こえている」。にも関わらず、「最初から言っていないんだ!」と口にしている

④予備校業界の戦略?

 以上の考察(もちろん、大外れの可能性はある。あくまで、私の想像だ)を踏まえると、次に湧き起こるのが、「なぜ、聞こえている音を、最初から言っていないなどと口にするのか?」である。

 この点、「こんな教え方をしているから、日本人は英語が出来ないんだ」というネットの反応には、一定の説得力がある。つまり、「聞こえなくても、大学受験には問題ない」ということだ。もっとハッキリ言えば、大学受験(あくまで大学受験講座のCMなので)さえクリア出来れば、英語speakerになれるかどうかはどうでもいい、ということだ。

 私は、「日本社会において、英語は科目であって言語ではない(音声編②参照)」と述べた。多くの日本人の、偽らざる本音だろう。「なぜ英語をやらされなければならないのか?」という不満を抱きつつ、様々なテストをクリアしていく。学歴のために、職歴のために仕方なく英語を学んでいる。それ自体は全く問題ない(何を学ぶかは、環境に左右されるのだから)。

 とすれば、予備校業界の戦略が、「大学受験をクリアするために必要なノウハウをappealする」ことに特化するのは、自然な現象だ。例のCMを発信しているのが「予備校」なのか? という疑問はあるが、少なくとも大学受験において、英語speakerになるか否かは重視されていない、ということは言える。

 超有名講師が、自身が所属する(中核をなす)組織の方針に反することを、公の場で言うとは考えにくい。まして、全国に報道されるCMなのだ。受験生の立場からすれば、「〜出来るようになれ」と言われるよりも、「〜出来なくても良い」と言われる方が心に響くため、講座を取るという選択につながりやすい。以上の要因が絡み合い、例のフレーズになったと分析する。関先生が本心から「最初から言っていないんだ!」と言っているとは、到底思えない。思いたくない😅 あくまで、ご自身の立場から「口にしている」だけ、ということにさせてくれ。

 なお、英語において、実際に「言っていない」音もある。こちらは音声練習編で扱う予定だ。関先生も、TOEICリスニング対策授業で触れている内容だ。「聞こえにくい音」と「最初から言っていない音」をご自身は区別できているハズ、という私の推理(?)の傍証になるだろう。

⑤私の見解

 本記事の最後に、私自身の見解を述べる。様々な事情があるのは理解した上で、それでも嘘を言うのは良くないと思う。教育のメカニズムとして、「生徒が理解出来ない内容だが、今教えるべきこと」というのは確かに存在する。例えば、円の面積の公式「半径の2乗×π(円周率)」を本質的に理解するためには、三角関数の弧度法・数Ⅲの積分の知識が必要になる。つまり、いわゆる文系の学生は、一生理解しないまま公式を「暗記」しているだけ、ということになる。だからと言って、「では、数Ⅲを学習するまでは、円の面積の公式は教えない」としてしまうと、図形問題で致命的な不都合が生まれる。図形は三角形(多角形は三角形の組み合わせ)と円(より広く言えば、2次曲線)からなるのが基本であり、円の面積を求められないのでは話が始まらない。このようなケースでは、「いずれ分かる時が来る(かも知れない)から、今は我慢して覚えてくれ」と言うのが、知的誠実さだと考える。

 ちなみに、CMでは「最初から言っていない」扱いされている「out of」と「ask him」だが、良く聞いてみると実は「言っている」。息がほとんど出ていない、「音だけ」の発音(音声編①参照)だが、確かに言っている。英語の聞き取りに自信のある方は、お試しあれ。講座を取ってもらうという事情だけ考えれば、全く発音しない方がむしろ有効であるのに、敢えて発音している(と、私は信じる。信じさせてくれ)。もう少し別の表現はなかったのかと思ってしまうが、短いCMでキャチーなフレーズを言おうとすると、仕方なかったのかとも思う。

 いずれにせよ、関先生が大学受験生に寄り添った結果である、とだけは言わせてもらおう。念のために言っておくが、私は関先生とは一切面識がない。本記事は、あくまで私なりの分析である。

 これで音声編は終わりだ。特別編から数えると、実に6本にも及ぶ記事となった。よくここまで長い文章を書いた。じゃなかった😅😅 長い文章を読んで頂いた。Merci‼️ 

英語speakerへの道のりは、険しく長い。諦めたっていい、歩くのを止めなければ

 

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