ゴミ

相変わらず、夜月の中層上層の毛嫌いが続いている。
観測社内で上の層の人たちと会話するときとかは笑って対応したりいい顔はしてるけど、会話が終わったあとの真顔になったり。
あの顔他の人に見られたらドン引きものだよ。

下層で生まれ育って中層上層のせいで下層のみんなが苦しんで生きているって思い続けている夜月。そのせいで今が蔑ろになって楽しんで生きていないんだよね。
先のことなんてわからないんだから今を楽しんで生きていけばいいのにってずっと思ってるんだけどな。
いろんな世界をもっと色眼鏡無しで見てほしいんだけどな。
ジリアさんとかソラニンさんとか普通に話してて面白い人たくさんいるんだけどな。

・・・ちょっと連れ回すかぁ。

「夜月~いる~?あ、ソラニンさんこの前の出張土産どこ~?」
というわけで早速外務部に来た。
ソラニンさんは相変わらず笑顔で対応してくれる、どっか胡散臭い部分があるけれど。
「姉ちゃんなに?今業務中なんだけど」
相変わらず真面目そうに書類やらなんやらの整理をしていたりスケジュールの計画立ててたり仕事こなしてる。
あ、そういえばジリアさんがなんか仕事のこと話してたっけ。
・・・今忘れたことにしよう。
「遊び行くの付き合って!」
「やだ」
「ソラニンさ~ん、夜月連れてくね~。夜月~?来ないとこれ、どうなってもいいのかな~?」
そういってお土産BOXに手を取る。ただのお土産BOXではない特定の局員専用のお土産BOXだ。
「あ、それ夏樹くんの…はぁ…姉ちゃんこうなったら意地でも連れてくでしょ…」
「よくわかってるじゃ~ん。ほら行くよ」
「わかったからそれおいてってよ。ソラニンさんこの時間分は後で残ってやってくので、ちょっと出てきます。」
下層の子に関しては本当に甘いから扱いやすい。
こんなことしなくてもついてきてくれはするんだろうけど、今回連れて行く先のこと考えるとこれくらいやってもいいだろう、

「んで、姉ちゃん。どこ行くの?」
「ん?内緒。下層ではないからね~」
「…帰っていい?」
「だめ。ちょっと僕に付き合いな」
また機嫌悪くした。下層じゃないっていうのと僕っていうのに対してだろうな。
相変わらずわかりやすいんだから。
こんなんで良く上嫌いがバレてないよね。・・・ばれてないよね?
「ちょっと体動かすの手伝ってよ~。わざわざ下層に行くのもめんどくさいでしょ?」
「体動かすくらいだったらラボでもいいじゃん。っていうかいつも動き回ってる姉ちゃんなら今更体動かす必要ないでしょ」
「ま~た屁理屈ばっかり。そんなんだからモテないんだよ」
「そんな必要ない。姉ちゃんだってそういう話一切ないくせに」
「なんか言った?」
「なんも」
僕は充分今を楽しんでるからそういうのは必要ないの。楽しもうとしないあんたには必要かもしれないけど。と、いう言葉はぐっとこらえた。

文句は言いながらちゃんとついてくる。
まぁ夜月は途中で投げ出したら僕が後々めんどくさいことするのわかってるからなんだろうけど。
「ほらついたよ」
「着いたって・・・もう人でいっぱいじゃん」
連れてきたのは中層の公園。
ここでは子供を遊ばせている間に井戸端会議している人たちや、学校帰りの子どもたち、各々が自由に過ごしている。
僕はこういった自由な空間が大好きだ。
なんにも縛られていない、自由に好きなことをしても許される。
こんな素晴らしい空間を時間を無駄にするなんて人生損していると思ってしまう。
縛られていたあの時間があったからこそ、より一層自由という空間が大好きになった。

「こういうときはこうすればいいんだよ。お~い、そこの君たち~」
「・・・嘘だろ」
僕はボール遊びをしている三人組の子どもたちに声をかけた。
子どもたちは最初不思議そうな顔をしていたが、僕がボールを奪ってそのうちの一人にぶつけたらやり返してきた。
これくらいの年齢の子供立ちは無邪気で扱いやすい。
問題の夜月は混ざらず見ているだけだが。

しばらく一緒に遊んでいると視界に一人の子供が入ってきた。
こちらのことをじっと見ている。
「あそこにいる子は一緒に遊ばないの?」
「あ~、あいつは・・・上がりもの?元々下層で住んでたやつが何かの理由でこっち来たんだって。お母さんがあいつと遊ぶと馬鹿になるし変な病気をもらうから近寄ったりするなって」
「そ~、あ!こいつなんてうっかりあいつに触れちゃってさぁ。そしたらおばさんにこっぴどく怒られてんだよ。アレは面白かったなぁ」
「うっせ、まさか叩かれるまで行くと思わんじゃんか。しかも速攻で風呂入れられてもういいだろってくらい洗わされるし」
「おねーさん、そういうわけであいつとは遊ばないの。ほら続きしよ」
「・・・う、うん。あ、そろそろ夜月も混ざりn」
「姉ちゃん、俺業務の続きあるから戻るわ」
夜月の子どもたちを見る目が下層の大人たちを見るときと同じ目になってる。
これ以上引き止めても何もいいことにならないしここは戻ろう。
「あ、ごめんねみんな。僕もちょっとここで帰るね。今日はありがと」
「おねーさんたちばいば~い」
子どもたちは無邪気に手を降ってくれている。
無邪気ということは悪気が一切ないって言うことだ。さっきの僕との会話を含めて一切。

帰り道は只々無言だった。
そろそろなにか言葉を発しようと思ったその矢先、先に口を開いたのは夜月だった。
「姉ちゃんはさ、まだここの奴らのことどうにかできるとか、仲良くできるとか思ってたりするの?」
「え・・・それはそうだよ。だって僕たちと何も変わらないじゃん」
「さっきのあの3つの会話聞いてただろ?あと姉ちゃんには聞こえてないだろうから聞かせてあげる」
夜月の足が止まった。
今まで聞こえていなかった、物音、声が聞こえてくる。
『あそこの家の旦那さん今度、下行きが決まったらしいわよ。』【お前罰ゲームであいつの体触れてこいよ】『え~じゃああそこの家は終わりね。私達ももう今後関わらないようにしましょう』『当たり前じゃない。そもそもあの人平気なのかしらね~』【やだよ!そんなこと絶対やりたくない】【なんだぁ?お前も色付きだって周りに言いふらしてやろうか】『そうねぇ。心配だわ~私だったら生きていけないもの~。あ、このお菓子美味しい』【触ったら触ったで絶対言いふらすじゃん。それに触ったら本当に色付きになっちゃうよ】『あ、そういえばあそこに新しい施設ができるらしいわよ。あ、本当に美味しい』【いいから早くいけよ、つまんね~な】『楽しみね~』
夜月の持っているオーパーツの効果だ。夜月の聴覚情報が僕に共有される。
つまりこれは
「俺が中層に来てから聞こえてる声。そりゃあこんな会話ばっかじゃないけど、ここはこんな会話が蔓延ってる」
「そうかもしれないけど。そうじゃない人たちだって」
「大抵の奴らは俺たちや俺たちの故郷のことをゴミだと思ってるんだよ。いやゴミ以下って思ってるだろうな。本当のゴミ以下は誰でどこかって・・・」
今僕たちにあの子のような目線を向けられていないのは僕たちが働いている企業提供のこの身なりのおかげだろう。
もし当時の格好でここを歩いていたらどんな目で見られていただろうか。

夜月は歩を進めた。
僕の耳にも物音やあの声たちは聞こえなくなった。

やっぱりここの人たちとも、この星の人たちとも僕たちは何も変わらないよ。
考え方が違うだけでみんなお互いのことを蔑み合って生きてるんだもん。

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