偏見と無知の恐ろしさとバーチャル配信者

私はつい先日友人にこんなことを言った。

「今のSHOWROOMのバーチャルカテゴリーのランキングは実質的に3~5位しかないようなもんだよ。1位2位は固定なんだから」

また、ジャニーズがバーチャルSHOWROOMERを出すというニュースがネットを駆け巡った時にはこんなことを言った。

「バーチャル蠱毒みたいなエグいイベントがあったり、バーチャルYouTuberがメディアに露出したりしてるこのご時世で、何をそこまでセンセーショナルに騒ぎ立てる必要があるのか」

私は今、そんなことを言った過去の自分を殴りに行きたい。

というのも、今朝初めて知ったのだ。海堂飛鳥氏と苺谷星空氏のルームに有償ギフトを投げることが出来ないということを。そして、彼等はそんなハンデを跳ね除けてランキング1位2位になるだけの努力をしているということを。

恥ずかしながら、私はつい先程まで、彼等のルームには有償ギフトを投げられるものだとばかり思っていた。彼等の配信を一度も見たことがないくせに『どうせタワー何本も建って、有償ギフトが飛び交ってるんだろ』と思い込んで…否、決め付けていた。

SHOWROOMトップにあるバナーをタップし、少し彼等とそのルームの概要を見れば分かることすら知らず、ただ『ジャニーズというブランド』と『ちゃんと動ける格好良いアバター』というガワだけ見て、彼等に偏見を抱いていたのだ。

実を言ってしまうと、私は数名のバーチャルカテゴリーでの配信者のファンであるが故に、彼等を疎ましく思っていた。理由は簡単である。圧倒的なブランド力と最初から動ける自由なアバターを持ち、バーチャルカテゴリーのランキングを実質的に3~5位までのものにしたからだ。

ところが、蓋を開けてみれば彼等は無償アイテムだけで他のバーチャルカテゴリーの配信者と戦っていたのだ。言わば、いざとなれば完全武装出来る配信者と、ステゴロで殴りあっていたのだ。

愕然としながら、有志が録画した彼等の配信の一部を見た。画面越し、バーチャルのガワ越しの彼等は、紛うことなきアイドルそのものだった。

ジャニーズなんだから当たり前だろう、そう思う方もおられるだろう。しかし彼等はきちんと『バーチャル向けの』ファンサービスが出来ていた。トークも歌も、紛うことなきアイドルだった。

その事実を知って、私は己の無知と偏見、そして、彼等のことを知ろうともしなかった自分がとても恥ずかしくなった。

勿論『ジャニーズ』というとても大きなネームバリューはある。しかしそれは裏を返せば彼等にとって大きく重い枷となる。

彼等は少しでも何かをやらかせば、すぐ叩かれる可能性があるのだ。状況如何によっては「これだからジャニーズは」と言われかねない。それを背負って、彼等は日々配信をしている。それは一体どれだけのプレッシャーなのか、私には想像もつかない。


彼等の配信に有償ギフトを投げることが出来ないということを『当たり前だ』と思う方も勿論おられるだろう。

何故なら、3次元で活躍している多くのジャニーズのアイドルは、テレビで無償で見られるのだから。

しかし、SHOWROOMで活躍する彼等は、テレビで活躍するアイドル達とは活動の性質が少し違うのだ。

高速で流れるコメントを拾い、ジャニーズとしては恐らくノウハウがないであろう二次元っぽいファンサービスを『リアルタイムで』行わなければならないのだ。

何千もの視聴者の、前で。

失言をしても、決して取り消すことが出来ない。何故なら彼等の配信はいつも生配信だから。そしてその配信を録画している人間も少なからずいるのだから。

それは一体どれ程の恐怖とプレッシャーを伴うのか。平凡な私の脳では想像も出来ない。

『ジャニーズブランド』という爆アドと重い枷をつけて日々配信している彼等を誤解していたことを、私は今後悔している。素直に、申し訳なかったと思っている。

彼等はジャニーズブランドに胡座をかくことも無く、立派に、バーチャルSHOWROOMERをしていた。


彼等が無償アイテムだけでランキングの1位2位をキープし続けていると知って、私は九条林檎嬢のある言葉を思い出した。

『貴様らこそが我のメインウェポン』

確かこんなニュアンスだったはずだ。

九条林檎嬢…今の彼女は、かの『バーチャル蠱毒』の勝者である。

彼女は今、ソシャゲにコラボ出演したり、ギャル向け雑誌『小悪魔ageha』の専属モデルをしたりと、SHOWROOMの外でも活躍している。

そんな彼女であるが、自らの主戦力をリスナーであるとハッキリと言ってのけている。

私は、彼女のこの言葉が好きだ。彼女のこの言葉を見る度に心地好い安堵感を憶えるのだ。

恐らく、こんな何の取り柄のない人間でも彼女の為に何かが出来るのだ、彼女の糧になれるのだ、という安心感と共に、自己肯定感を与えられるからなのであろうと、ぼんやりと自己分析をしている。

そんな彼女の、己の最大の武器はリスナーであるという言葉、それはジャニーズのバーチャルSHOWROOMERの彼等にも当てはまると私は勝手に思っている。

彼等がランキングにいるのは、金の力ではない。純粋に、ファンの力なのだから。

無償アイテムだけであれだけのポイントを稼ぎ、ランキング上位に居続けるということは生半可な努力では出来ないことだと思う。

彼等の努力に敬意を表すと共に、改めて、彼等を偏見で以て快く思っていなかったことを反省するばかりである。

今度、彼等の配信を見てみようと思っている。否、見たい、と私は思っている。

少し動画を見ただけだが、彼等には、そう思わせるだけの立派なアイドルだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?