見出し画像

斜陽

世の中がさむくなりました、そうして冬がきてしまいました、忘れていたのに。

忘れていたはずだったのに。
ツンとする寒さのなかに、あなたの影をみる
たった1度だけ、それだけなのに。

地元のほんの少し大きな駅では、ついにイルミネーションがはじまった。見上げれば 首が痛くなるくらいには背の高いクリスマスツリー、ぴかぴかの装飾に囲まれたハート付きのいす、繋がれていないトナカイ、溶けることのない雪だるま..... ざわざわと集まる人の群れ.... カップルはもちろん、ちいさな子どもも、大人も、冬にみんな見初められている。

わたしも、あなたを知りたいとおもった。ぜんぶ。


忘れられないひとがいる、といっていた。
忘れられないひとのために歌う、忘れられないひとのためにギターを弾く、忘れられないひとのために生きている と。

わたしもそんな人になりたかったなぁ とかそんなことは時計が反対向きに回っても 言えない。全然。

僕 まだiPhoneSE使ってるんだよね、といいながら、もらったばかりの手袋を指紋認証のために外す姿を いまも覚えている。かなりの時間が経っても鮮明で、頭のなかから、消えない。全然。

あの頃送りあった空の写真は、いまどうしていますか?
もう見返すことがないから フォルダという名の大きな海の中に沈んでる?それともいらないから捨てた?ゴミ箱の中で眠ってる?

きれいだったなぁ

晴れわたる空の青さも、すこしくすんだグレーの空も、澄んだ茜色の夕やけも、星が見える真っ黒な夜空も、夜更かししてお互いの家から見上げた眩しすぎた朝日も。それに、きょうはまだ見ないようにしよ といったイルミネーションも、内緒だよといって 電話のむこうで小さくアコースティックギターを鳴らして歌うあなたのやさしい声も、ホットコーヒーに砂糖をすこしいれる指先も、これ すきなんだ と差し出された尾崎世界観の本の文字列も、ずれためがねに触れるあなたの横顔も、全部ぜんぶわたしの目にはきれいにみえていた。

だけど、きっと、このわたしの記憶だって、あの頃とおんなじ季節、この冬に溶けていくのだ。

だから、
溶ける前に、

わたしが、
わたしの手で溶かしてやる。

あなたが歌ってくれた この歌も添えて、溶かすから。そうすれば なかったことにできるでしょう? 

My sun is with die.