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景観は要素の連続性で決まる、観光資源の評価、西表のスナック、楢下のこんにゃく

学生Q.景色とか景観には連続性がある、という話がありました。なんとなくわかるような気がします。私はベトナム留学生ですが、連続性といえばベトナムのハロン湾は連続性があると言っても良いでしょうか。
コクジーA.連続性というのは、見る場所と見られる対象を結ぶ線の上に何がどのようにあるか、という問題です。様々な要素が美しく組み合わせられていれば、よりきれいな光景、より魅力的な風景ということになります。いくら富士山そのものがきれいでも、見る人との間に工場や汚い川があると台無しになってしまいます。東海道新幹線の車窓から見る富士山より山梨県の河口湖畔から見る富士山では雲泥の差があるでしょう。ハロン湾をどう見るかも、湾そのものよりもどこから湾を見るかによって評価が変わります。静かな漁村の家の向こうに穏やかな海があり、小さな漁船がのんびり浮いている、遠くに夕日を写した雲が輝いている、そんなハロン湾だと連続性がありますね。私はある先生に教えられたのですが、地図という言葉の含意です。「地」はグラウンドであり、「図」はそのグラウンドの上に点在する様々な要素群だそうです。

学生Q.先生がポロッと通天閣はどうしても好きにはなれないといったのが気になります。観光資源として評価されていると思うのですが。
コクジーA.あまり気にしないでください。この部分はアドリブの独り言だし、あくまで主観だけど・・とコメントしました。観光資源の評価は客観的なデータでなされるのが原則ですが、実際の誘客力となると一人一人の好き嫌いが決めることになります。私は大阪のディープな部分はどうもなじめません。東京者が大阪に対して感じる違和感とはまた違います。同じ関西仲間でも、神戸っ子としては「大阪と一緒にせんといて」とか、大阪人にとっては京都ってなにお高くとまってるねん、とか言うじゃないですか。千葉人と埼玉人のけなし合いとか・・・・。そういうのはありませんか。さて、大阪ですが、食べ物はおいしいし、明るくて性格の良い人たちが多い・・・とはいえ、なんだかあまり真剣に生きていないような、そんな気がします。もちろん、これはうわべだけの印象なのですが、阪神タイガースと吉本を抜いたら、大阪に何が残るのかなぁなんて考えてしまいます。選挙でもそうですが、昔、横山○○なんて人気はあっても知性ゼロの芸人が簡単に知事になってしまうし。だから東京に負けてしまうんやんか、といらついてしまいます。あっちはスカイツリーなんてシャレたもの作っているのに、大阪は未だにあの通天閣で勝負するんかいな、・・・結局、私も大阪がんばれ、という気持ちなのかしらね。

学生Q.海外からの観光客には白川郷のように日本らしい風景が受けるんじゃないかな、と思います。先生なら海外の人にどこをお勧めしますか?
コクジーA.萩、津和野、高山などの古い小さな京都のような町並みを見てほしいです。確かに日本の代表選手である富士山のような国際的な観光資源も大事ですが、長く心にしみこむような体験をしていただきたいです、日本の思い出を。そういう時は見せるもの、だけでなく、どういう風に案内するか、というホスピタリティも大事ですね。ちょっとした心遣いでもいいので、日本の印象がとても良くなることがあるはずです。そういうのは「人」がいる、昔からの文化や慣習が残っている、そんな小さな町にこそ可能性があるような気がするからです。私は沖縄の西表島に出張した時に傑作な経験をしました。祖納という部落にたった一軒あるスナックに行ってソファに座ったのですが、70歳くらいのしわくちゃのオバアチャンが横ににじり寄って来てビールをついでくれました。「年増ホステスもええけど、限度があるでぇ」なんて言ってると、「兄ちゃん、悪いねぇ、若いのを連れてくるからね」と答え、今度は小学校低学年くらいの女の子が隣に座ってくれました。お母さんが風邪引いて寝込んでしまい、ばあちゃんと孫しかいないのだそうです。おばあちゃんは、僕らが「こわいこわい」といって騒ぐので、店の中のゴキブリを追いかけるのに一生懸命だし、女の子は算数のドリル抱えて、宿題、宿題・・・と言いながら、無断で客のつまみをかじっています。こういうのが、沖縄の飲み屋のホスピタリティなんですよ、違うか・・・。でも思い出に残るよぉ。

学生Q.精進料理の話を聞いてもう一度食べたい! 一度行ったことがあるのですが、また熊野さんに行きたい!とウズウズしてしまいました。
コクジーA.君は結構スピリチュアル系みたいですね。パワースポットなんかにもはまる方なのかな。でも熊野は精神修養とかそんな大げさなものでなくても、フィトンチップで心身共にいやされる場所です。私は杉花粉が天敵なので季節を選びますが、できれば、年に一度は行きたいところです。熊野は山だけでなく、川がすばらしいです。紀伊山地は大量の雨が降るところですが、海までの距離が短いため、よどむところがなく清流ばかりです。精進料理については好き好きでしょうが、学食の唐揚げにマヨたっぷりぶっかけたどんぶりは流石に敬遠します。若い頃はおいしく食べられたかも知れません。ところで、山形県の上山市に楢下(ならげ)という地区があります。そこのコンニャク料理店は観光バスが立ち寄るくらい有名です。すべての材料がこんにゃくなのですが、ステーキあり、テンプラあり、佃煮やお刺身あり、デザートあり、なんでもコンニャクで作ってしまい、油断すると皆ホンモノのように感じるくらい凄い調理力です。

学生Q.熊野御師に興味が出ました。
コクジーA.平安時代や鎌倉時代なんて昔は、今と違って社会の制度も仕組みも何でも遅れていて、あったとしても幼稚なものばかり、と思いがちですが、そんなことはありません。人々の欲望や行動や想像力や感性など現代と何も変わることはない、ということでしょう。信仰厚い人々がいれば、その参詣を手伝い、そしてそれを商売にしてしまう「したたかな人々」が存在したことなど、心強い感もします。

学生Q.ローテンブルクの屋根の色が統一されているのは誇りがあるからなのですね。色が赤いのには意味はあるのでしょうか?
コクジーA.屋根の色は、もともとその地域に産出する石材や地質からくるものでしょう。山陰の津和野なども赤瓦ですが、これは石州赤瓦といって、地元名産の瓦なのです。地元で生まれたものを使う、そこに「誇り」が生まれてくるのだと思います。沖縄の古い民家はサンゴの石積みで囲われています。竹富、波照間、備瀬などの地区にわずかに残っています。本島にあるブセナテラスやカヌチャベイなどの新しい高級リゾートホテルでも、このサンゴ石材を多用してホテルを建てています。これも「沖縄らしさ」の強調なのです。なお、サンゴの石を積むと、丈夫で台風のような強風にもびくともしない反面、無数の小さな穴がそよ風を通す、というように亜熱帯地方の生活にきわめてマッチしているのです。うまくできています。

学生Q.観光ルートと観光コースの違いなんて知らなかった。ローテンブルクに住んでいる人が、もし家の色を勝手に青とかにしたら、それは罪になるんですか?
コクジーA.ローテンブルクではアルテ・ローテンブルク協会という100年以上も続く半官半民の保存委員会が仕切っています。中世からの町並みを維持しよう、ということなんです。この組織の活動や取り決めは、建築基本法を主に各州の法律、あるいは町や市の条例や規程に依拠しています。それには強制力があります。あなたが言うように、例えば「青い」家を立てるなどということは禁止されています。もし、無視して強行に建築した場合は条例違反となります。ただ、スカイブルーならだめだが、すすけた暗いブルーなら認められるということ例外があるかもしれません。委員会は建築家などの専門家がプロの目で、「街の全体的色彩との親和性」をチェックします。イギリスなどでは市のホームページでガイドラインで視覚的にわかるよう指導したりしています。ローテンブルクの場合は建築造形条例と広告物条例の2本建てみたいです。どちらかといえば、合格するためには建築主はかなり配慮しなければならないし、場所が旧市街といわれる地区内であれば、改築の場合でも審査されます。しかし、中世の町並みを売り物にしている町でも旧市街内に新しい建物を建てることを許可している町もあるみたいです。ローテンブルクの旧市街のゲートにはラテン語でこう書かれています。「来たる者には平和を、去りゆく者には無事を」。時々異訳されて「入り来たる者には安らぎを、去りゆく者には幸せを」などと言われることもあります。観光客に対するメッセージなのですが、ずいぶんシャレています。この教室だとさしづめ、「入り来たるものにはA単位、去りゆく者には追試験」ってところでしょうか。

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