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観光統計、マスツーリズム、居眠り防止、中国からの観光客

学生Q.観光統計があまり正確とはいえない、ということですが、日本の人口が1億人なのに、1000人や3000人くらいの少数の人を対象とした調査をやっていて大丈夫なのですか? 
コクジーA.国勢調査のように法律で義務づけられ、対象となる全ての人に回答を求めるアンケート調査を悉皆(しっかい)調査とか全数調査といいます。全数調査を行うと大変な費用がかかるので、いくつかのサンプルを抜き出して行うアンケート調査を標本調査とかサンプル調査といいます。もちろん、全数を対象に行う方が正確ですが、費用対効果の観点からそういう例がたくさんあるわけではありません。統計上の誤差といいう観点では1億人の人口に対して、3,000~5,000票もあれば信頼できるとされています。ただこの3,000をどの様に選抜するかは科学的な方法によらなくてはなりません。例を挙げれば男性2,000女性1,000というような偏りがあったら男性の声が強くなります。大都市の人ばかりを相手に調査をすれば田舎の人の意見や実態が反映されていないことになります。よく、テレビの報道番組で「コンピューターで無作為に抽出された1,000人の方に電話で聞いた結果、なんたら首相の支持率は30%になりました」なんて言われたりしています。抽出自体は何も作為はありませんが、「電話で」というのがミソです。家にいて電話を受け取れるのは女性とか高齢者が多くなります。今は携帯電話が多いですから、それほどの偏りはなくなったでしょうが。でも大学生などは電話に出ないみたいだし、彼らの声はあまり反映されていないでしょう。だから、調査の結果が必ずしも正確な全国民の声とはいえなくなります。難しい言い方ですが、層化多段階無作為抽出とかいうやりかたでサンプリングを行い、原則として調査員が本人と顔を合わせて面接調査をするのが正当なやりかたです。居住地配分を正確に行うなら、1,2億人の人口のうち大阪市人口が300万人としたら、調査対象3,000人×3/120=75人が大阪市居住者から選ばれたサンプルになります。大阪市の男女比が5.5:4.5なら大阪市の女性のサンプルは75×4.5/10=34人となります。これを例えば年代でも正確にわりふる、というような作業が必要です。サンプリング調査といっても結構大変です。全数調査あるいはそれに近い大規模な調査を行うのは法律で実施を義務付けられた法定調査に限ります。また、皆さんが卒論などでネット上から引用する各種調査の中で企業が行ってものもたくさんあると思います。例えば銀行の調査部門が行う「将来の貯金の使い方」、ウエディング企業が行う「20代OLが費やす平均結婚式費用」などです。これらは我田引水の傾向がままあるのでよく注意しましょう。

学生Q.観光事業概論はいろんな難しい言葉が出てくるので覚えるのが大変です。センセー、恋をした方が勉強頑張れますか? 
コクジーA.何をとぼけたことを言っておるのですか。勉強は自分でやろうと思うだけで出来ますが、恋愛は相手が必要です。故に勉強の方が簡単です。本学では1回生の履修単位上限は48ですが、恋愛ごときをするには40単位取得と小レポートを教務課に提出することが必要と学則に書いてある・・・と言いたい。

学生Q.観光とレクリエーションの概念的な相違点はとてもわかりやすかったです。具体的で共感できる点が多々あってとても理解しやすかったです。
ところで、マスツーリズムという言葉が出てきましたが、その短所として観光公害の発生が指摘されていました。もう少し詳しく教えてください。  コクジーA.マスツーリズムというのは「団体観光、大量観光」のことです。そういう旅行、観光が何故、公害を発生させるのか、ということなのですが、環境や社会というのは「適正容量」というものを持っています。この教室でも定員190で履修登録生が180くらいですから、収まることは収まるのですが、窮屈この上ないし、蒸し暑くなったり、私語が気になります。これは190というのは適正な収容力とはいえないことを示しています。放っておくと授業に出てくる人が減ってくる危険性もあります。それを称して「持続可能性を失った授業 !!」といえるかもしれません。この容量は空間的なもの、生態的なもの、水や電力といったシビルミニマムよるもの、逆に観光客自身が感じる快適感によるもの、など多種多彩です。話が膨らんでしまいましたが、これ以上多い量を受け入れると、悪影響が出てしまう、そういう限界値のことを適正収容力といいます。一年間で何人まで、一日に何人まで、一時間に何人まで、というように時間の区切りでその限界値を定める必要があります。人数は滞留時間にも影響されます。この限界値を定めることは大変難しい作業で経験的に把握するしかない場合もあります。また、観光地や観光企業は儲けをみすみす逃すことになってしまいますから、こういうことには消極的です。例えば、東北の人口500人くらいの山里に毎日1000人の大阪からの観光客が訪れたらどうなるでしょうか? 住民はみんな大阪弁を操るようになってしまいます(かな?)。道路も混雑して買い物に行けなくなります。普段節約する人も観光地へ行けば結構高くても抵抗なく買い物をしがちですが、その結果、観光地では物価が高くなり、住民は生活がしにくくなります。車が増えると排気ガスで樹木が枯れたり、事故が増えたりします。行儀の悪い人が多いとゴミのポイ棄ても増えるでしょう。これらが、観光客が消費するお金による繁栄、という利益を越えた場合に住民の不満は爆発して、「もう観光なんかいらない」ということになってしまいます。極力そういう問題が生じないような観光のありかたを研究しなくてはなりません。もちろん観光公害は「量」のオーバーフローだけを原因とするものではありませんが、「量」の自主制限が最も有効な策のひとつなのです。そのためには、①値上げ、②情報制限、③アクセス制限、④教育周知、などいくつか方法があります。観光公害の発生の過程についてはバトラーという人がまとめて提起していますが、この科目は入門科目なので2年生になってから取り上げます。

学生Q.居眠りを注意していただいてありがとうございます、びっくりして心臓が止まりそうだったけど。でもこの教室はすごい暖かいのでとても眠たくなります。
コクジーA.私はどちらかというと親切なほうなので、一人でも眠っている学生がいればすぐにテストを実施しました。でもそういうわけにもいかないでしょうから、どうしても眠くてしかたがない場合、以下のような対策を行ってください。①メンソレータムかキンカンを目の下に塗る、②画鋲を逆さまにして机の上にばらまいておく、③お母さんかお姉さんのガードルかおじいちゃんのコルセットを借りて腰につけてイスに座ること、それでもダメなら教室のエアコンを15℃くらいに設定しましょう。

学生Q.今後、日本の旅行業界は中国の影響で非常に伸びると思います。今は現時点ではショッピング中心のツアーが多いように思えますが、「温泉」や「田舎町」というような観光を中心としたツアーは増えると考えられますか?
コクジーA.オリンピックにしても、万博にしても、それに伴う社会基盤の整備も、庶民の所得も、中国はかつての日本と同じ道をたどっていると思います。民族的な行動や文化・慣習の違いはあるでしょうが、基本的な部分は我々日本人が経験してきたことと同じ変化を遂げていくことでしょう。日本の体験より速度は速く、比較にならないほど大量に、です。いずれ、彼らも今の買い物旅行のようなタイプとは違って、ストレス社会にたえきれず癒しを求めて海外へ出かけるような例もあるでしょう。それは南の海であったりしますが、日本の温泉もその選択肢に入ると思います。一方、田舎の町歩きはノスタルジーを求めるものですが、これは田舎を失った人たちの行動です。欧州のグリーンツーリズムの隆盛には多分にそのような背景が見て取れます。しかし、まだ多くの中国都市住民には帰るべき田舎があります。田舎はノスタルジーではなく、現実なのです。だから、わざわざ日本の田舎に自分の田舎を重ね合わせて楽しむような思いはないのではないか、と私は思います。10年はかかると思います。それまでの間は日本や欧米と自分たちの国との文化的な違いや落差を楽しむ都市観光が圧倒的な数量で繰り広げられるでしょう。

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