ロボットとハツカネズミ

ハート:(M)僕は海へ来た。ただ夜風に当たりたくて
ハート:最後にね、「朝日」が見たいと思ったんだ
ハート:僕の体は潮風だと錆びてしまう
ハート:それでも見たいんだ
ハート:僕はゆっくりと砂浜に座った。すると隣に小さな足音がやってきたんだ
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ハツカネズミ:「やあ、こんばんは!!」
ハート:「こんばんは」
ハツカネズミ:「元気が無いねぇ。どうしたんだい?」
ハート:「何故君に話さなければいけないんだい、小さな生き物さん」
ハツカネズミ:「小さな生き物って失礼な!!・・・・合ってるけど」
ハート:「じゃあ、小さな生き物だ」
ハツカネズミ:「その呼び方は嫌いだ。僕のことはハツカネズミと呼んでくれ」
ハート:「分かったよ、小さなネズミくん」
ハツカネズミ:「だからハツカネズミだってば、もう(頬袋を膨らませてムスッとしている)」
ハート:「それで、何だい?」
ハツカネズミ:「君の名前を聞いていないや」
ハート:「ああ、僕の名前か。僕の名前は何もないよ」
ハツカネズミ:「何もないって名前か!!」
ハート:「違う違う、君みたいにちゃんとした名前が無いのさ」
ハツカネズミ:「そうなのかい?」
ハート:「そうさ」
ハツカネズミ:「ふーん」
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ハツカネズミ:(M)僕らは暫く何も話さないまま真っ黒な海を見つめていた
ハツカネズミ:君は風が吹く度『キーキー』音がする。何かが外れそうなそんな音
ハツカネズミ:君は何処を見つめているんだい?
ハツカネズミ:海の向こうでも見つめているのかな
ハツカネズミ:それとも何処も見つめていないのだろうか
ハツカネズミ:僕には分からない。だって君じゃないから
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ハツカネズミ:「ねえ、何処を見ているの?」
ハート:「どこだろうね。水平線かな」
ハツカネズミ:「今は真っ暗で何も見えないよ」
ハート:「そうだね、だから心の目で見るんだ」
ハツカネズミ:「心の目?」
ハート:「そうだよ。見えないから見えるものもあるんだよ」
ハツカネズミ:「うーん、僕には難しくてまだ分からないや」
ハート:「そうか。いつか見える日が来るさ」
ハツカネズミ:「そうかな?」
ハート:「そうさ。思い出は薄れはするけれど忘れはしない」
ハツカネズミ:「誰の言葉?」
ハート:「僕の言葉」
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ハート:(M)この子はまだ若いんだろう。純粋故に眩しい
ハート:朝日が昇るまではまだ時間がある
ハート:たまには昔話でもしようじゃないか
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ハート:「小さなネズミくん」
ハツカネズミ:「なんだい(ムスッとしている)」
ハート:「昔話をしようか」
ハツカネズミ:「昔話!!聞きたい!!」
ハート:「よし、それじゃあ話そう。これはね、とあるロボットのお話なんだ」
ハツカネズミ:「ぱちぱちぱちぱち」
ハート:「そのロボットは人間たちの笑顔のために働いていた。自分でもそれが好きだった」
ハート:「でもある時、業務プログラムがエラーを起こしてね、人間を傷つけてしまったんだ。すぐに修理に出されて、初期状態になって戻ってくる予定だったんだ。でもね、戻ることはなかった」
ハツカネズミ:「なんで?」
ハート:「うーん、それはね」
ハツカネズミ:「うん」
ハート:「そのロボットにはいつの間にか心があったのさ」
ハツカネズミ:「こころ?」
ハート:「そう、心。普通ならありえないことなんだ、ロボットに心が宿るなんて」
ハツカネズミ:「なんでありえないの?」
ハート:「ロボット・・・・機械だから。だからプログラムされたことしかできないはずなんだ」
ハツカネズミ:「そうなの?」
ハート:「そうなの。それでね、修理をしていた人たちはそのロボットを廃棄しようとした」
ハツカネズミ:「え!?そんなことしたら壊れちゃうよ」
ハート:「そうだね。だからロボットは逃げ出したんだ。いっぱい逃げて、逃げて、疲れちゃったんだ」
ハツカネズミ:「うん」
ハート:「そんな時、ロボットはやりたいことを見つけたんだ」
ハツカネズミ:「やりたいこと?なんだろ」
ハート:「それはね『朝日を見ること』」
ハツカネズミ:「そっか、そうだったんだね。ねえ、そのロボットは朝日は見れたの?」
ハート:「どうなのかな?そこまでは僕にも分からないよ」
ハツカネズミ:「そっか。あ、そういえば!!」
ハート:「な、なんだい?」
ハツカネズミ:「君の名前まだ無いんだった!!」
ハート:「そ、そうだね」
ハツカネズミ:「僕が君の名前考えてもいい?」
ハート:「いいよ」
ハツカネズミ:「やった!!」
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ハート:(M)元気よく話すこの小さなネズミは壊れかけの僕に名前をくれるというのか
ハート:なんて優しい子なのだろうか
ハート:この子には優しい世界が待っているといいなと思った
ハート:そんなことを思っている内に僕の名前は決まったようだ
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ハツカネズミ:「えへへ」
ハート:「なんだい、そんなに笑って」
ハツカネズミ:「名前が決まったんだ~」
ハート:「ありがとう。それじゃあ、教えてくれるかい?」
ハツカネズミ:「もちろんさ!!君の名前はね
ハツカネズミ:『ハート』
ハツカネズミ:これがいいと思うんだ!!」
ハート:「ハートか。うん、気に入った」
ハツカネズミ:「本当!?嬉しいなぁ~」
ハート:「ありがとう」
ハツカネズミ:「どういたしまして」
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ハツカネズミ:(M)空が少し明るくなってきた。家の軒下や木の陰から何度も感じた明るさだ
ハツカネズミ:そろそろ夜明けが近い
ハツカネズミ:何となくだけど、僕はハートと会えなくなる。そんな予感がしたんだ
ハツカネズミ:その予感はたぶん当たっている
ハツカネズミ:だって、さっきから僕の体は凍えるように寒いんだ
ハツカネズミ:もう手足の感覚なんてない
ハツカネズミ:もっとハートとお話したいな・・・・
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ハート:「あれ?小さなネズミくん、そういえば君の話を聞いていない。聞かせておくれよ」
ハツカネズミ:「ハート、ごめんね。もう眠いんだ。ふぁあ」
ハート:「小さなネズミくん?・・・・君、体温が急激に低下している!!どうして言ってくれなかったんだい!?」
ハツカネズミ:「ごめんね。少しでもハートとお話したかったんだー。えへへ
ハツカネズミ:ねえハート、さっきのお話ってハートのことでしょ?」
ハート:「なぜ・・・・そう思うんだい・・・・?」
ハツカネズミ:「えへへ、何でかなー?たぶんね、ハートのことを知りたいって思ったからかなー」
ハート:「うん」
ハツカネズミ:「ねえハート」
ハート:「なんだい?小さなネズミくん」
ハツカネズミ:「僕と友達になってよ」
ハート:「もうとっくに僕らは友達だよ」
ハツカネズミ:「うん、ありが・・・・と・・・・」
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ハート:(M)そのまま小さなネズミくんは朝日を見る前に眠りについた
ハート:僕も長時間潮風に晒されていたから、もう動けそうにない
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ハート:「せめて、この小さなネズミくんだけは温かく包まれるようにしよう」
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ハート:(M)僕はやさしく小さなネズミくんを包んで水平線を見つめる
ハート:水平線の向こうから日が昇ってきた
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ハート:「小さなネズミくん、これが朝日だよ。温かいね・・・・」
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ハート:(M)じきに僕のバッテリーも底をつく。そうしたら僕は、君と空の上で逢えるのかな?
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ハート:「ありがとう、ハツカネズミくん。僕の大切な友達。すぐに会いにい・・・・く・・・・よ・・・・」
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ハツカネズミ:これはハツカネズミと心を持ったロボットのお話

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