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ハンカチ落とし

 小学生のとき、この世でいちばん苦手な遊びはハンカチ落としだった。中学生になるとしなくなって、身近ではなくなったから、苦手意識がなくなった気がしているだけで、今誰かに誘われても絶対にしないだろうなと思うくらい、まだ苦手なままでいる。

 ハンカチ落としって、みんな知っているものなんだろうか。一応、説明を挟んでおくと、鬼の1人以外が円になって、手を後ろにして座って、鬼がその周りを走りながら、誰か1人の手にハンカチを落とすと、落とされた人は鬼を追いかける。1周するまでに鬼をタッチできなかったら、鬼がその人に交代する。またハンカチを落とす繰り返し。

 そんなゲームなんだけど、全部が苦手だった。ハンカチが落ちてこないか祈るしかないし、私は影が薄いから、最後の方まで落とされずに残るんだけど(他の子は何回も鬼になったりする)、鬼の子の察しがよかったり、大体、先生が「全員に回った?」って言ってくるからおしまいだ。「あの子まだ落とされてないよ」とささやく声が聞こえて、ハンカチが手に落ちてきて、足も遅いから鬼に追いつけずに、鬼になってしまう。そうしたら、私も円の外を回って、誰かにハンカチを落とさないといけない。

 みんなは平均で1周ぐらいしたら誰かに落とすんだけど、私はいつも3周はしていた。思い出すだけでも嫌になる。誰に落とせばいいのか、分からない。みんなが私の気配をずっと追っていて、体に力が入る。泣きそうになる。その場にうずくまりたくなる。

 そんなこんなで、いつもゆっくり3周ぐらいしていたら、先生が助けに来る。「誰に落とす?誰でもいいよ」と言われる。それでも決められずにいたら、「勝手に先生が落とすよ」と言われて、落とされた子から私は逃げて、その子がいたところに座る。もう、私のところには誰も落としてこない。みんなの楽しい時間を無駄にする子だから。

 いやでも、空気を読みすぎる私も悪いけど、ハンカチ落としのルールも悪くねえか??仲がいい子がおらんかったら、誰に落とすか迷うし、最後まで落とされん子もおるやろうし、もともとこのルールでは仲がいい子にしか落とせんやん。ましてや小学生なら、絶対そうなるって分からんかったんかいな。

 母国語が出てしまった。

 そして、このゲームが行われるのが、大体縦割り班という現実。学年混合で、1年生から6年生までをめちゃくちゃにした班。その時間がいちばん嫌いだった。同じクラスの子は、いても2人とかで、それも別に仲がいい同士で組まれるわけじゃない。私と同じ班になった同じクラスの子は、まず4月の、最初の活動のときに私の代わりに自己紹介をしないといけない。好奇の目が向けられる。なんで自分でせんの?と違う学年の子に言われる。言われなくても、それは私がいちばん感じてるよ。そして代わりに喋ってくれた子に心の中でごめんと謝る。先生も、必ず私を知っている先生が担当になるわけじゃないから、遠くから眺めているだけ。今考えると地獄でしかない。よく耐えたよな。中学生になっても、小中学生混合の班があったけど、もうそれは保健室に逃げていた。耐えられなかった。できないって分かりきっていることに、立ち向かう元気がなかった。保健室で涼んで、1人でお弁当を食べる時間が、例年の「誰と食べる?ここに入れてもらいな!」の時間よりはるかに心地よかった。

 そして、極めつけは、おそらく出席番号で班分けをしているので、弟と一緒か近くの班になることだった。一緒の班になったこともあるし、2班合同で活動するときなんかは、必ずと言っていいほど弟と同じ活動をしないといけなかった。家では元気な自分が、学校でしぼんでいるところを見てほしくなかった。

 でも、家に帰ってからは、私からもその話題を出さないし、弟からも出してこなかった。母に聞かれたときに、「また同じ班やった」とか答えるくらい。弟の態度がいつも変わらないことが、唯一の救いだった。(嫌なのには全く変わりないけど)弟にはとてつもなく感謝している。

 ハンカチ落としから脱線したけど、今の学校では限界がきているんじゃないかという思い出の話。

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