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穏やかな関係を - 4

まったく可能性がないとは思っていなかったけれど、自分から誘うとは思っていなかった。

ここから歩いて一番近いホテルまで、道中コンビニに寄りつつ並んで歩く。ここまで来ても、手すら握れないのに。

「眠かったら昼寝すればいいし」「ふたりでゆっくり気兼ねなく話したいから」なんて揃って言い訳みたいな言葉を並べながら部屋へ入る。

ソファに座った時、つい奥に座ってしまい彼の左隣に座った。彼は相手に右隣にいて欲しいと話していたから移動しようかと話すも「大丈夫」と言われ、そのまま左隣のまま。二人で昼下がりのワイドショーを見ながらのんびりゆっくり気兼ねなく話す。

狭いソファに座っていても、微妙な距離感。腿同士すら触れず、腕も触れず、手も握らず。

もどかしい。
触れたい。

焦れったくなって、軽く手に触れてみたり、立ち上がったついでに低いソファの背もたれに座り込んで後ろから軽く抱き締める。ついでに、頬に軽くついばむみたいなキス。

私の顔には触れて欲しいって書いてあるだろうけれど、きっと彼にも色んな躊躇があるのだろう。

行為をしないならしないで良い。でも、もう少し距離を縮めたい、私が彼に触れたくて仕方ない。思いの外、自分に余裕が無い。

お昼寝するって言ってたし、それならお昼寝しよう。ほら、おいでよと先にベッドに潜り込んで空いたスペースをぽんぽん叩いて示す。

遠慮がちに潜り込んで来た彼と抱き締め合うと、腿に硬いものがあたって少し笑った後、急に恥ずかしくなった。

私からホテルに誘って、頬にキスをして、ベッドに誘って。渋々だったらどうしようか、とか嫌だったらごめんねとか。

色々駆け巡ったのは事実だけれど、目の前の彼が欲しくて仕方なくなってしまってそのまま胸に顔を埋めた。

彼の匂いを感じつつ、ぴったりとくっついた。腕枕してくれたけれど、顔が近くて気恥ずかしくて脇の下まで滑り込んだ。もともと腕枕は少し苦手で、重いだろうと遠慮してしまう癖がある。それに、相手の脇にぴったり嵌るのが好きだった。ほどよい圧迫感と、フィット感が良い。落ち着く。

しばらく二人でじゃれながら話すけれど、今になってどうにも恥ずかしい。顔を見せてと言われても、見せられない。可愛いって笑いながら覗き込む彼の目が見れない。背中を向けたら、壁側に鏡があって逃げ場がなくて慌ててしまう。すっかり困り果ててしまった。

「なあに?」「なんでもない」
「なに恥ずかしがってるの」「べつに」
「顔見せて」「やだ。無理。」

見透かされてるのを分かっているのに、素直になれない。どうしても、照れが先行してしまう。笑いながら、身体をくすぐってくる彼の指の動きに気持ちよくなってしまって、少しずつ甘い声が漏れてしまう。嗚呼もう、我慢ができない。

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