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舞台「NO TRAVEL,NO LIFE」感想 あなたは本当に孤独? #ノートラ2023

劇場に足を踏み入れる。
壁に掛けられた無数の衣装、床の中央に描かれた円の中には、5つのスーツケース。
円の外、舞台の真ん中に置かれた、1台のカメラ。
空港のロビーの音。
舞台が始まる。
旅が始まる。

出会いの物語

本作は、写真家、須田誠氏が旅の経験をつづったフォトエッセイが原作の舞台。
Amazonに「トラベルというよりは顔ばかり」というレビューを見つけて、ニヤリとしてしまった。…なんて言い得て妙だろう!
本作は、旅の物語。…いや、出会いの物語だ。

6人の役者さんがはけることなく常に舞台上にいる

6人の役者さんは、1時間半、誰も舞台からはけない。
主人公、スダマコトを演じる渡辺さん以外の役者さんは、舞台上で、羽織や小物で着替え、5人で30以上の役を演じる。

例えば、大谷さんは、マコトの同僚に、学生、美しい乞食に、ミュージシャン、妙な男。ヒッピーのサンに、果物売りに、子どもに、子どもに…
そして、神様。

簡単な着替えでも、演技によって、別人に見える。
でも、同じ人がやっているからこそ、たぶんたくさんの人が演じるよりも、1時間半で、多くの人と出会ったように思える、気がする。

そして、同じ人が演じることも、また意味があるかもしれない。

マコトがカメラと出会う場面。
お店の店長を演じるのは、マコトの元彼、アカリ役の込山さん。
この役をアカリが演っているのが、いいなぁと思う。

ノートラは、出会いの物語。
出会いは、旅で出会った人たちだけではない。
アカリとの出会い。
カメラとの出会い。
全ての出会いが、必然。

この作品を、今

2016年、初演、再演。2017年、再々演。
2019年、朗読劇で、渡辺さんがマコトを演じた(栗原さんも出演)。
同年、旅×没入演劇、PLAY JOURNEY!が始動。

2020年のボイスドラマCDは、反橋さんがマコトを演じた。キャストには久下さんもいて、コロナじゃなかったらこれが舞台か朗読劇かだったりしたのかな。
PLAY JOURNEY!は配信コンテンツとなり、
特別企画「須田誠、スダマコトを撮る」では、会話のない撮影会。

2021年4月、朗読劇再演。
そして、規制は緩和され、2023年、四度目の舞台化。

コロナ禍にあえてノートラに挑む意義。
旅は、出会いは、演劇は、不要なものだったの?違うでしょう?

そして、また自由に旅ができる未来が見えてきた今、ノートラをやる意義。
再び、始めよう。

また、今、技術の進化で、写真という言葉が揺らいでいる。
写真はもはや真実を写すものではなく、
世にはフェイク写真があふれ、私たちは消しゴムマジックで背景を消す。

でも、じゃあ、真実ってなんだろうか。
5/14の1時間半の旅で感じたものは、あの日目に焼き付けたあの美しさは、あの時胸に沸き起こった感情は、私だけの真実。

須田さんの写真は絵だ。
魂があれば、写実主義じゃなくったって構わない。

自分語りをしたくなる作品

ハッシュタグをつけて、舞台の写真じゃなく、昔の自分の旅行の写真を上げているツイートがあって、素敵だなぁと思った。

私も初めての海外旅行はアメリカだったな。
飛行機で隣の席になったおばあちゃんが、シートベルト自分でできなくて。私はマジで英語全然できなくて。
言葉が違ったって何か話せばいいのに、何故か全部ジェスチャーと笑顔で会話して、シートベルトつけるお手伝いしたなぁ、とか

フランスで店員さんと、お互い中学レベルの英語で、
「I like Les Misérables!」「Wow!」って会話したなぁ、とか

思えば私も、観光名所でもなんでもない、出会った人たちとの思い出がいっぱいだ。

宇宙規模で考えると、長い時間の中の、たった一瞬。
そう思うと、私も自由に生きてもいいのかなぁ?なんて、とてもちっぽけな悩みに思えるのに、そんなちっぽけな生き物と生き物の一瞬の出会いが、とても愛おしい。
ロネルも、サンも…私なんて実際に会ったわけでもない、舞台を通して出会った人たちとの…
再会を喜び、幸せを祈ってしまう。

あなたは本当に孤独?

パンフレットに、心に響いた言葉はなんでしたか?と書いてあった。
2回目の観劇で、中村さんの「あなたは本当に孤独?」かなぁ、と思った。
マコトは、孤独じゃなかったから。

安定を捨て、自由を選んだ時、アカリは消えた。
リタと生きることも考えたけど、マコトは自由を選んだ。

自由は孤独だ。

マコトに聞こえる、囁く声。
『屍の王』でも似たような場面があった。
『屍の王』では死者の声。
その声を拒絶するか、受け入れるか。
聞こえる声をどう捉えるかは、心次第。

いいのかな、いいのかな。旅を続けていいのかな。自由でいて、いいのかな。
……いいんだ!!

だって出会ったみんなが、
アカリが、サンが、ウィンディが、ロネルが、リタが、
ランタンに灯(アカリ)をともしてくれるから。

旅と演劇

旅人は安定ではなく自由を選んだ。
役者は安定ではなく芝居を選んだ。
でも孤独ではなかった。出会いがあった。
舞台で出会った6人の役者さんが作り上げた作品。
その領域に辿り着いた作品だと思った。

だったら、役者も旅人と同じように、再会を祈ってもいいだろう。
だってこの出会いはもう、偶然じゃなくて、必然なんだから。

大谷さんがパンフレットに書かれていた。
(フォトエッセイである)ノートラの世界を、映画でもなく、写真でもなく、舞台でお届けする意義とは…
それは、写真は、生身の人間との出会いを、その奇跡の一瞬を、切り取ったものだから。
舞台も、生身の人間との出会いの、一場面だから。

ノートラを生で見ることができてよかったです。
この作品と出会えてよかった。

右手の人差し指でシャッターを押すように
私も、この舞台を見て感じたことを、
ここに、右手の人差し指でまとめてみました。

写真が繋げてくれたように
これを読んでくださったあなたと
…ノートラのディレイ配信、あるいはDVDが繋がりますように!!笑

ディレイ配信

DVD

フォトエッセイを開くように、
何度も再会したい舞台でした!ありがとうございました!

劇場を出ると、先程まで椅子とテーブルが並んでいたロビーには、物語に登場した写真が展示されていた。SNSアップロードNGだったので、ビフォアーの様子。

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